43 / 171
5章 五日目 部活は大変だ
5-7 いつもどおりにするためにな下校
しおりを挟む
下校時、俺はふとした思いつきで若竹のいるコンビニに寄っていた。
まあ、俺が何かを思いつかなくても麗美が寄りたがっただろうけど。
「いらっしゃいませー……って悦郎か」
「よう若竹」
「お疲れ様、美春ちゃん」
「こんにちは、若竹さん」
「なんだよ。今日は両手に花か? 相変わらずだな、悦郎は」
「相変わらずってなんだよ」
「ああん? 去年からそうだっただろ? いっつも咲とちひろ連れてさ」
「それがどうかしたのか?」
「はー、イヤだイヤだ。自分がどれだけ周囲の男子たちから妬まれてたか気づいてないときた」
「若竹さーん。仕事中よー」
「はーい」
店の奥から店長さん(たぶん)に注意された若竹は、俺たちにあっちに行けと言うかのように手をピラピラと振ってきた。
少し話したいことがあったのだが、たしかにこうやって立ち話だとお店の邪魔になるな。
「ということで麗美」
「はい」
「何か買おう」
「もちろんです。今日も、新製品が出てるはずなんです」
「またか。コンビニのサイクルは早いな」
「ふふふ」
そうして俺たちは、コンビニの店内をゆっくりと見て回る。
俺のもった買い物かごに、咲と麗美の選んだ商品が入れられていく。
「咲も買うのか?」
「うん。今日はここで夕飯の準備しちゃう。たまにはいいよね」
「まあ別にいいけど……ってか、それならあれ買わないか?」
「あれ?」
「ほれ、CMでやってるレンジで温める洋食とか言うやつ。すげえ美味そうじゃん」
「あ、あれイマイチでしたよ?」
「ん? 麗美もう食べたのか?」
「はい。先日試してみました。ですが、藤田の作ったものと比べてしまうと、かなり味が落ちる感じで」
「あー……」
そこ比べちゃダメだろとも思ったが、同じ土俵に上がってしまったコンビニ側の失敗だとも思えなくもない。
なにしろ麗美はそもそもがコンビニびいきだ。よっぽどのことがない限り、コンビニ飯側に軍配を上げていただろう。
それなのにわざわざコンビニ側から、本格洋食の方の舞台に上がってしまった。
それでは世界で修行してきた藤田さんの料理をいつも食べている麗美の舌を満足させられるわけがない。
麗美を喜ばせるには、かなりの変化球が必要なのだ。
「ほい、レジお願い」
「あーい」
たぶん俺たちだけに対する昔ながらの脱力系の受け答えをしながら、若竹が商品の会計をはじめた。
その時間を利用して、俺は若竹と話をする。
っていうかこれ、アイドルの特典会みたいだな(さっきネットで調べた)。
「でだ若竹。うちの学校のアイドル研究部って知ってるか?」
「いや悦郎。俺がアイドルになっちゃったのって今年からだから」
「あ、そういやそうだったな」
言われてみればそうだった。
同じ学校に通っていたころの若竹は、バリバリのバンド少女だった。
もちろん、今もアイドルとはいえバンドっぽい雰囲気を残したアイドルらしいが。
「まあ知らないならいいや。そういうのがあるらしいんだよ、うちの学校に」
「ふーん。で、それと俺になんの関係が?」
「そいつらにお前のこと教えてもいい?」
「は?」
「そこにこっち側に引き込みたい人がいるんだよ。ちょっとした部活の危機でさ」
「部活って……なんだっけ。悦郎たちがやってたの。オカリナ部だっけ」
「オカルト研究会だ」
「そう、それ」
すべての商品を会計し終わった若竹は、それらをコンビニ袋に詰めていく。
「別にいいけど、俺なんもしないぞ? っていうか、何ができるのか全然知らんし」
「いいって。ちょっとした情報……お前のことだけれども。それと引き換えに、便宜を図ってもらえないかって交渉するだけだから」
「ふーん。ちひろみたいな悪巧みしてんだな」
「……言われてみればそうだな」
「とにかく、別に俺はかまわないよ。それで何かするわけじゃないけど。それでいいんだろ? 何かしろってんなら拒否するぞ?」
「ああ、かまわん。そこはそっちで処理してくれ。ちょっとうるさいやつが来るかもしれないけど」
「えー、うるさいやつか……ちょっと苦手だな」
言われて香染と若竹の絡みを想像してみる。
……うん。確かに相性は悪そうだ。
「たぶんお目付け役みたいなのがついてくるはずだから、そいつにソレのコントロールはさせてみてくれ」
「なんだそれ。そっちの子みたいなお嬢様なのか?」
「あー、いや。どっちかっていうと……」
「ふふふ。咲さんと悦郎さんみたいな感じです」
「あー、なんとなく想像できた」
「あははー」
「なんだよそれ」
「ふふふふ」
こうして俺は、生徒会長……というか香染を介した七瀬に対する切り札を一つ手に入れた。
まあ、それがうまく機能するかどうかはわからなかったが。
実際のところは、麗美から視線を逸してやろうってのが第一の目的なんだけどな。
まあ、俺が何かを思いつかなくても麗美が寄りたがっただろうけど。
「いらっしゃいませー……って悦郎か」
「よう若竹」
「お疲れ様、美春ちゃん」
「こんにちは、若竹さん」
「なんだよ。今日は両手に花か? 相変わらずだな、悦郎は」
「相変わらずってなんだよ」
「ああん? 去年からそうだっただろ? いっつも咲とちひろ連れてさ」
「それがどうかしたのか?」
「はー、イヤだイヤだ。自分がどれだけ周囲の男子たちから妬まれてたか気づいてないときた」
「若竹さーん。仕事中よー」
「はーい」
店の奥から店長さん(たぶん)に注意された若竹は、俺たちにあっちに行けと言うかのように手をピラピラと振ってきた。
少し話したいことがあったのだが、たしかにこうやって立ち話だとお店の邪魔になるな。
「ということで麗美」
「はい」
「何か買おう」
「もちろんです。今日も、新製品が出てるはずなんです」
「またか。コンビニのサイクルは早いな」
「ふふふ」
そうして俺たちは、コンビニの店内をゆっくりと見て回る。
俺のもった買い物かごに、咲と麗美の選んだ商品が入れられていく。
「咲も買うのか?」
「うん。今日はここで夕飯の準備しちゃう。たまにはいいよね」
「まあ別にいいけど……ってか、それならあれ買わないか?」
「あれ?」
「ほれ、CMでやってるレンジで温める洋食とか言うやつ。すげえ美味そうじゃん」
「あ、あれイマイチでしたよ?」
「ん? 麗美もう食べたのか?」
「はい。先日試してみました。ですが、藤田の作ったものと比べてしまうと、かなり味が落ちる感じで」
「あー……」
そこ比べちゃダメだろとも思ったが、同じ土俵に上がってしまったコンビニ側の失敗だとも思えなくもない。
なにしろ麗美はそもそもがコンビニびいきだ。よっぽどのことがない限り、コンビニ飯側に軍配を上げていただろう。
それなのにわざわざコンビニ側から、本格洋食の方の舞台に上がってしまった。
それでは世界で修行してきた藤田さんの料理をいつも食べている麗美の舌を満足させられるわけがない。
麗美を喜ばせるには、かなりの変化球が必要なのだ。
「ほい、レジお願い」
「あーい」
たぶん俺たちだけに対する昔ながらの脱力系の受け答えをしながら、若竹が商品の会計をはじめた。
その時間を利用して、俺は若竹と話をする。
っていうかこれ、アイドルの特典会みたいだな(さっきネットで調べた)。
「でだ若竹。うちの学校のアイドル研究部って知ってるか?」
「いや悦郎。俺がアイドルになっちゃったのって今年からだから」
「あ、そういやそうだったな」
言われてみればそうだった。
同じ学校に通っていたころの若竹は、バリバリのバンド少女だった。
もちろん、今もアイドルとはいえバンドっぽい雰囲気を残したアイドルらしいが。
「まあ知らないならいいや。そういうのがあるらしいんだよ、うちの学校に」
「ふーん。で、それと俺になんの関係が?」
「そいつらにお前のこと教えてもいい?」
「は?」
「そこにこっち側に引き込みたい人がいるんだよ。ちょっとした部活の危機でさ」
「部活って……なんだっけ。悦郎たちがやってたの。オカリナ部だっけ」
「オカルト研究会だ」
「そう、それ」
すべての商品を会計し終わった若竹は、それらをコンビニ袋に詰めていく。
「別にいいけど、俺なんもしないぞ? っていうか、何ができるのか全然知らんし」
「いいって。ちょっとした情報……お前のことだけれども。それと引き換えに、便宜を図ってもらえないかって交渉するだけだから」
「ふーん。ちひろみたいな悪巧みしてんだな」
「……言われてみればそうだな」
「とにかく、別に俺はかまわないよ。それで何かするわけじゃないけど。それでいいんだろ? 何かしろってんなら拒否するぞ?」
「ああ、かまわん。そこはそっちで処理してくれ。ちょっとうるさいやつが来るかもしれないけど」
「えー、うるさいやつか……ちょっと苦手だな」
言われて香染と若竹の絡みを想像してみる。
……うん。確かに相性は悪そうだ。
「たぶんお目付け役みたいなのがついてくるはずだから、そいつにソレのコントロールはさせてみてくれ」
「なんだそれ。そっちの子みたいなお嬢様なのか?」
「あー、いや。どっちかっていうと……」
「ふふふ。咲さんと悦郎さんみたいな感じです」
「あー、なんとなく想像できた」
「あははー」
「なんだよそれ」
「ふふふふ」
こうして俺は、生徒会長……というか香染を介した七瀬に対する切り札を一つ手に入れた。
まあ、それがうまく機能するかどうかはわからなかったが。
実際のところは、麗美から視線を逸してやろうってのが第一の目的なんだけどな。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる