黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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6章  六日目 ろくしょう

6-5 いつもどおり風味な午後の授業

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「はーい、じゃあAチーム集まってー。Cチームは休憩。Bチームはそっちのコートねー。残りのチームは見学してなさーい」

午後は体育の授業だった。
体育館で、男女合同でのバレーボールの試合。
体育は1組との合同授業なため、男子の方はいつも一緒になるよく知った連中だったが、女子の方は見知らぬ子たちもチラホラと混じっていた。
しかしながら、そこにはヤツらの姿もある。

「ほらそこーっ! 私がレシーブしたんだからっ、ちゃんとアタックしなさいよーっ!」
「たまちゃんうるさい。バレー部でもないのに、そんなにポンポンアタックなんてできないってば」
「くーっ! アイツがいるチームには絶対に負けたくないのにっ!」

相変わらずうるさい香染と、それを諌めている七瀬。
そしてなぜかヤツに目の敵にされているアイツとは、俺のことだった。

「なあ緑青。俺、なんかアイツに恨みを買うようなことでもしたのか?」
「麗美のこと以外で?」
「ちょっと待て。あれは恨みを買うようなことなのか?」
「わからないけど、あの子にとってはそうなのかもしれない」
「うーむ……」

体育教師の春日部が戦力均衡のためとかいって作ったA~Eのチーム分け。
なんとなくだが、妙な偏りがあるような気がしていた。
男子の分け方は、まあ確かに戦力均衡目的だろう。
バレー部の連中はほぼ均等に分けられている。
それ以外のスポーツ自慢のヤツラも、バラバラになるように分けられていた。
しかしながら女子の方は……。

「レミ! 私たちの初の共同作業よっ! アイドルグループとしての結束力、見せつけてやりましょっ!」
「私、まだそのグループに入ると言った憶えはないのですが……」
「ごめんなさい麗美さん。この子、思い込みが激しいから」
「ふぅ……私、こういうの苦手なんだけどな……後ろの方で隠れててもいいかな。え? ドッジボールじゃない? そっか……そうだよね」

相手コートの中で目立っている、香染・麗美・七瀬・白藍。残りの女子たちも、なんとなくだけど顔面偏差値高めの子が集められているような気がする。
そしてそれを表すかのように……。

「すげえ。あのチーム……目が離せないよ」
「だよな。俺は香染さんとか好き。うるさいけど」
「僕は白藍さんかな。三国志の話しとかしたい」
「俺はやっぱ麗美……は黒柳のか。じゃあ七瀬でいいや」
「……」

と、モブ扱いされている他チームの男子たちの目を集めまくっていた。
そして、俺の入れられているBチーム。
緑青に藤黄。咲の友達の陽ちゃん。あとは名前の知らない女子が何人かだが、その傾向が恐ろしいほどに似通っている。
つまり、低身長でどことなく子供っぽい感じの見た目の子が多い。

「いやーん、Bチームちゃーん。がんばってー。ほらそこのクソ男子ー。もっとちゃんとアシストしなさいよー」

くねくねと身体をくねらせながら、俺たちのチームに声援を送ってくる体育教師の春日部。
口調の方はアレだが、身体にはみっしりと筋肉のついた筋肉おじさん。
頭はポマードでみっしりと固められている。
あまりのキャラの濃さに女子からはキモいと避けられているが、男子の方からもそれほどの人気はなかった。
なにしろ、えこひいきがかなり激しいのだ。

「ちーちゃーん。がんばってー」

そしてそんな春日部のお気に入りは、緑青。
緑青がどんな気持ちになっているのかは、その顔を見ればわかる。
普段黒い笑顔を浮かべたりしながら、割りと楽しく生きていそうな緑青だったが、やつの声援を受けているときだけはその表情が恐ろしいほど冷たいものになる。
まるで、ロボットにでもなったみたいに。

「お前、ホントに春日嫌いっぽいよな」
「嫌いとは違う。だからといって、好きじゃないけど」
「そうなのか?」
「教師として尊敬できないだけ。教師なら、どんなにポンコツでも生徒は平等に扱わないと」
「ああ。みどり先生みたいにな」
「ん」

そんな緑青の背後で、密かに燃えるヤツもいた。
それは藤黄。
緑青のことを勝手にライバル視している、うちのクラスのナンバー2の優等生だ。

「よっと」

こちらのコートにフラフラと飛んできた香染のアタックもどきのボールを、俺が低い位置でレシーブする。

「はい」

トンっとそのボールを陽ちゃんがきれいにトスで上げた。

「もらったぁぁぁぁぁっ!!!」

誰に向かって叫んでいるのかはわからなかったが、大きな声を上げながら藤黄が走り込んできてそしてジャンプ。
身体のバネを十分に効かせた見事なエビ反りから、渾身の力を込めたアタックが……。

「とうっ!」

スカッとその手が空を切る。

「え!?」

そしてそれを見越していたかのようにボールの落下地点で待っていた緑青が、軽くジャンプしてネットの向こうにそれを軽く押し込む。
ボールは吸い込まれるように相手コートに落下し、審判の短いホイッスルでこちらのポイントが決まった。

「ちいっ! やるわねっ! まさかフェイントかけてくるだなんてっ!」

藤黄に合わせてブロックしていた香染が、悔しそうに大声でそうつぶやく。

「いやいやたまちゃん。あれ、たぶん向こうのアタッカーのミスだから。それをあの小さい子がリカバリーしただけ」
「ふんっ。そうだと思ってたわっ」
「あのねえ……」
「ふふふ」

相変わらずうるさい向こうのコート。
そしてこちらのコート側にも……。

「次は負けないからね、緑青。あんたもよ、黒柳」
「えー、俺までターゲットにされるのー」
「私以外はみんな敵よ。私は、私だけが勝ちたいの」

相変わらずめんどくさいヤツが、全方位に向かって勝負を挑んでいた。

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