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6章 六日目 ろくしょう
6-4 いつもどおりにちょい近い昼食
しおりを挟む「あれ? そういえばお昼はどうするんだ?」
午前の授業が終わり、昼食の時間。
いつものように机を動かして島を作り、俺たちは弁当を広げていた。
野菜がたっぷり入った美味そうなサンドイッチをモグモグしている砂川。
飛び出しそうになったレタスを指で摘んでそれだけを口に運びながら、俺にそう尋ねてきた。
「悦郎さんのお弁当なら、私が用意しています」
そう言って麗美が、俺の前にいつものものよりも若干大きめなお弁当箱を差し出してくる。
ガッシリとした長方形。一見無骨な作りに見えるが、それでいて華やかさも忘れられてはいない。
見るからに、大量生産されたそのへんのお弁当箱とはものが違うというのがわかった。
もちろん、その中身もおそらく普通ではないと思うが。
「サンキュー麗美。もしかして、藤田さんが作ってくれた?」
藤田さんは、麗美の世話をする黒服たちの中の料理担当の人だ。
もちろん、その腕前はプロ級……というか、プロだった人が今は麗美の世話役の1人に収まっているというのが正しい。
しかしながら、弁当箱を開けた俺の目に飛び込んできたのは、予想とは少し違った光景だった。
「いえ、私が作りました。藤田にいろいろ指示してもらいましたので、大丈夫だとは思うのですが」
「あ、なるほど……」
それは、俺のよく知る日本のお弁当といった佇まいだった。
たぶん、麗美の知る限りの知識を総動員して作ってくれたのだろう。
多少偏りのある麗美の日本知識だが、それは基本的に間違ってはいない。
間違ってはいないのだが……。
「ぐふふ。キャラ弁、すごいね。これ、悦郎の顔?」
「はい。がんばって見ました。藤田も褒めてくれましたよ?」
「うん。よく出来てるとは思う」
思うのだが……ちょっと食欲をそそるものではない気がする。
自分の顔に箸を入れるのは、ちょっと気が引けるというかなんというか……。
「よかったな悦郎。未来の嫁さんが料理上手で。あとからあげもらうぞ」
「ちょ、おい……」
まるでそうするのが当然と言った風に、砂川がからあげを一つヒョイパクする。
止める間もなくそれは砂川の口に放り込まれ、いつもヤツがそうしているようにモグモグと咀嚼された。
そして……。
「う、うん……まあ、こういうのもあるよね」
それは、砂川にしては珍しい表情だった。
食に貪欲な砂川は、どんなものでも大抵は美味しくいただいてしまう。
甘いもの辛いものしょっぱいもの苦いもの。どんな味付けでも、それなりの良さをヤツは感じ取ることができると以前に豪語していた。
それなのに……。
「あのそれ……日本でよくある鶏の唐揚げじゃないんです」
「だよね。食べた瞬間、意外すぎてびっくりした。あ、でもマズイとかじゃないからね。びっくりしただけ」
「そうでしたか。よかったです」
砂川がびっくりするとは、一体何なんだろう。
まあ、藤田さんが監修しているのだからマズイものとかは出てこないはずだが。
「いつまでも見ててもしょうがないでしょ。ほら、ちゃんと悦郎が食べてあげないと」
「ああ、そうだな」
こっちは普通に鶏の唐揚げをモグモグとしながら、緑青が俺にそう促してくる。
美味いんだよな、ろくしょうミートの唐揚げ。
そんなことも考えたりしながら、俺は自分の顔をかたどって作られた弁当に、箸をのばす。
「それじゃあ、いただきます」
「はい、召し上がれ」
顔の部分はとりあえず避け、まずは砂川が珍しく閉口していた謎の揚げ物に手を付けてみる。
それが美味しそうだったから……というよりも、好奇心が勝ってしまった。
一体何なのだろう。見た目は砂川が勘違いしたとおり、唐揚げっぽくも見える。
しかしながら鶏の唐揚げではないと言われてみれば、たしかに鶏の唐揚げとは若干姿かたちが違っているように思える。
どちらかといえば、不格好なコロッケというか形の崩れたドーナツというか。
(ええいままよ)
心の中で覚悟を決め、俺はそれを箸でつまんで口に放り込んだ。
もぐもぐもぐもぐ。
咀嚼すると、やや甘みを帯びた香ばしい味が口の中に広がっていく。
そしてそれは、決して不味くはない。
それどころか、鶏の唐揚げだという思い込みがなければかなり上品な味付けの美味しい揚げ物だということがわかった。
「なんだろう……芋? さつまいも? いや、かぼちゃか?」
俺の知っている食べ物の中では、さつまいもの天ぷらがそれにかなり近い味付けのような気がした。
次点で、かぼちゃの天ぷら。
だがしかし、それとは確実に甘みのタイプが違っているのはわかる。
ホクホク感は似ているが、甘みの質がまったく違うものだったのだ。
「実はソレ、バナナの揚げ物なんです。まだ青いバナナを蒸してから潰して、形を整えて衣をつけて揚げてるんです」
「ほほう! この甘さはバナナか!」
「あー、言われてみるとたしかに」
モグモグとさっきとは違うサンドイッチを頬張りながら、納得したと言った感じで砂川が頷いていた。
「他のものも食べてみてください。咲さんのお弁当に負けないように、私がんばってみましたから」
「おう」
そんなこんなで、いつもとは少し違うがほぼいつもどおりのお昼の時間が過ぎていった。
周りからの視線が、なぜか今日はいつもより痛い気がする。
しかしながらそんなことは気にせずに、俺はパクパクと麗美の作ってくれた弁当を食べていった。
あとで、どんな弁当だったのか咲に話してやろうとか思いながら。
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