黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
81 / 171
9章  九日目 雨の日

9-9 いつもになってもいいけどいつもすぎると飽きる夜

しおりを挟む

「あ、また降ってきた」
「ん? あ、ホントだ」

就寝前、いつものように咲と通話アプリで話していると、窓の外からシトシトという雨音が聞こえてきた。

「止んでたのは帰りのほんの2~3時間だったな、今日は」
「うん」

天気予報では明日の朝には晴れると言っていたが、そこまで降らなさそうな気もする。
そのくらい弱々しい、小雨中の小雨といった感じの、ほとんど勢いのない緩んだ蛇口からポタポタと水滴が漏れているような程度の雨でしかなかった。

(ん?)

カーテンを締めた窓の向こうが、ほんのりと明るくなった。
もしかしてと思いながら、俺は立ち上がり窓へと歩み寄る。
そしてカーテンを開けた。

「あははー。こういうのは久しぶりだね」
「そうだな」

予想通り、俺の部屋の窓の向こう側……咲が部屋の窓を開けてこちらに顔を出していた。

「霧雨って感じ? 傘ささなくても大丈夫っぽいね」
「そうだな。どっちかっていうと、傘さしても意味ない感じだな」
「だね。ちょっとした風で吹き込んでくるし」

窓の外に降っていたのは、雨というよりもちょっとした水分量の多い霧といった感じだった。
それが重さのせいで下に向かって落ちている。
それが雨って言うんじゃないのと緑青あたりならいいそうだったが、雨と呼ぶにはそれは質量が足りなさすぎているようにも思えた。

「これ、もしかしたらなにか呼び方があるのかもね。この不思議な雨も」
「ああ」
「麗美さんあたりなら知ってたかも」

日本語ネイティブじゃないからなのか、麗美は日本語の表現に関して俺たちより詳しいことが多い。
勉強した教材がそういう類だったのか、やけに詩的な表現が多かったりもするが、そもそものキャラクターのおかげかそんなに嫌味ではない。

「明日、いい天気になるといいね」
「そうだな」

窓際に頬杖をついて、咲が空を見ている。
俺も同じように、うっすらと煙のような雨が降っている夜空を見上げた。

「明日の朝も魚だから」
「げ」
「げって、そんなに嫌だった?」
「イヤっていうか、あれ妙に油っこくないか?」
「あー、うん。ごめん。ちょっと料理失敗した。あんまりみたことない魚だったから」
「そうか。咲でも失敗するんだな」
「そりゃそうよ」
「まあ、失敗したとしてちゃんと食べてやるから安心しろ。俺は食べる係だからな」
「ふふっ。じゃあいろいろ試してみるね」
「ああ」

見ている間にも、少しずつ雨は上がり始めているような感じがした。
雲も薄くなり、うっすらと空の向こうには朧な月が見えているような気もしなくもない。
とはいえ、こうしてずっと夜空を見ているわけにはいかない。
明日もまた学校がある。

「じゃあ、そろそろ寝るか」
「うん。寝坊しないようにね」
「任せろ」
「あはは。じゃあおやすみ」
「おやすみ」

いつもと同じような挨拶を、いつもとは違って直接顔を見ながら咲とかわす。

そしてベッドに入り横になり、部屋の電気を消して目を閉じる。
ほぼ同じようなタイミングで、窓の向こうの咲の部屋の明かりも消えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

処理中です...