83 / 171
10章 十日目 調理実習
10-2 いつもより遅くていつもと同じにできなかった通学
しおりを挟む「うおー」
「んも~、だから早くって言ったのに」
「すまんすまん。朝の占い見てたらギリギリになっちまった」
朝の通学時間、久しぶりに俺と咲は全力疾走していた。
原因は、いつもはほとんど気にしたことのなかった朝の占い。
時計代わりにつけっぱなしにしている朝のテレビ番組で、たまたま目にした占いが妙に気になってしまったのだ。
その番組では、7位~11位と2位~6位の星座を先に発表する。
そしてCM開けに、1位と12位の星座をそれぞれ発表するのだ。
「まさか今日に限って12位とはな」
「あのコーナー始まる前に出ないと間に合わないよって何度も言ったのに」
「そういうお前は1位だったな」
「その割には朝から走ってるけどね、誰かさんのせいで」
「それはマジすまん」
歩きなら7~12分。ゆっくりだと15分。
そこを走って5分にまでなんとか縮めたい。
雨の日だったら厳しいが、今日みたいな晴れの日ならばギリギリなんとかなるはずだ。
「おー、走ってるなー」
買い出しにでも行っていたのか、俺たちと反対方向から歩いてきた美沙さんとすれ違った。
ドップラー効果で語尾がうにょーんと下がっていくのが少しだけ面白い。
手だけ挙げてそれを挨拶に代え、俺と咲は咲を急ぐ。
ところがそんな俺の脚を止めるほどの、気になる光景が俺の目に飛び込んできた。
「どうしたの?」
タッタッタッとその場足踏みをしたまま路地裏を覗き込む。
少し先まで進んだものの立ち止まった俺に気づいた咲が戻ってきた。
「いや、あれ」
俺が指差す先を咲も見る。
そしてその視線が俺に戻ってきた。
「若竹さん?」
「なんだろうな、あれ」
路地裏に停車した大きめの車。バスより小さく乗用車より大きい。
なんだっけな。
確か、ガイエースとかなんだとかそう言った名前のやつ。
それに、若竹とその仲間たちが何かを運び込んだりしている。
箱がバラバラだし、バイトしてるコンビニとは……関係ないみたいだな。
「どこかにおでかけなんじゃない? それよりも、電車間に合わなくなっちゃうよ?」
どうやら、俺と咲では興味の濃淡がかなり違うっぽい。
俺は若竹たちが、何をしているのかがかなり気になってしまった。
「ちょっと聞いてくる」
「え~、じゃあ私先行くよ?」
「ああ。すぐ追いつくから」
「んも~、知らないからね」
なかなかのいいペースで咲が走り去っていく。
俺は若干薄暗い路地裏に入り込んで、若竹に挨拶をした。
「よう。なにやってんだ」
「ん? なんだ悦郎。学校遅刻するぞ」
「すぐ行くって。それよりこれなんなのか教えてくれよ。気になってしょうがねえわ」
「はははっ。相変わらずだな」
「あー、黒柳くんっ! 私のお見送りに来てくれたの!」
「おわっ!」
唐突に腕を組んでくる若竹のとこのなんとかさん。
悪いけど名前はまだ覚えてない。
「やーめなってあず。悦郎ちゃんと婚約者とかいるんだからね」
「え!? なにそれすごい!」
やめろと言われたのに、なぜか俺に絡みつくなんとかさんの腕の力はさらに増す。
こんなとこなんとかさんのオタクに見られでもしたら刺されるんじゃなかろうか。
っていうかこの人アイドルの人で間違ってないよな。
あんま覚えてないけど。
「あ……」
そのとき唐突に、俺の方に向かって倒れ込んできた子がいた。
段ボール箱を持って車に乗り込もうとしたちょっとぼーっとした感じの子が、バランスを崩したのか後ろ向きに倒れてしまったのだ。
思わず俺は、それを抱きとめてしまう。
なんとかさんに拘束されていない方の腕で。
「ちょっとこず、それズルい」
抗議の声をあげながら、なんとかさんが真似するように俺に向かって背中をもたせかけてくる。
「えーっと、これなに?」
「さあ?」
まるでいつものことと言わんばかりに、俺を放置したまま若竹が作業を続ける。
俺はどうしたらいいのかわからないまま、とりあえず若竹に聞いてみた。
「で、これはなんなんだ? どこかに出かけるのか?」
「うん。地方遠征」
「ちほうえんせい?」
「そう。明後日まで0泊2日で地方のライブハウス周り」
「え……0泊ってなんだ?」
「全部この車で寝泊まりなのー。大変でしょ?」
なんとかさんが背中をグリグリ押し付けてきながらそう言ってくる。
「アイドルさんってそんなことまでしてるのか」
「しゃーないよ。メディアに出てるような子たちとは違うからね。っていうかあずにこずもいつまでも悦郎にもたれかかってないで、とっとと準備する」
「はーい」
「ふふふっ。それじゃあまたね、黒柳くん」
アイドルさんのことはステージ上の華やかな感じしか知らなかったけど、それ以外にもいろいろあるんだな、と感じた朝だった。
* * *
ちなみに学校は遅刻した。
ギリギリの電車には余裕で間に合わなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる