99 / 171
11章 十一日目 マニアな日々
11-9 いつもと違うことを始めた夜
しおりを挟む「すずめちゃん力強くなってたねー」
「まさか10回やって1回も勝てないとは」
「最後はいい勝負だったじゃない」
「そりゃさすがに10回もやれば向こうも疲れるだろ」
「ってことは、持久力ではまだどうにかなりそうってこと?」
「ふむ、なるほど……」
就寝前の時間、俺はいつものように咲と通話アプリでどうでもいいような話をしていた。
「っていうかそのあとやった鉄子さんと美沙さんの腕相撲もすごかったね」
「ありゃ怪獣同士の戦いだ。危うくテーブルが壊れるとこだった」
「あはははー」
俺と鈴木さんの勝負でテンションが上がったのか美沙さんは、勝負にならないことは目に見えているのに俺に腕相撲をしようと誘いをかけてきた。
当然のことながら、俺はそれを断る。
引き下がらない美沙さん。
そんな美沙さんの勝負を引き受けたのは、かーちゃんだった。
「あんなに細いのにどこに筋肉が詰まってるんだろうね、美沙さんも鉄子さんも」
「そうだよな。寮にいるクインコングさんなんかだったら、見た目からしてマッスルだなってわかるんだけど」
「鉄子さんがチャンピオンなのは知ってるけど、コングさんと美沙さんって、どっちが強いの?」
「んー、あんま踏み込まないようにしてるから俺もよく知らないんだよな。でも、コングさんの方が先輩なんだからコングさんのが強いんじゃないか?」
「そっかー。美沙さん次期エースって話だけど、まだ確かに新人だもんね」
レスラーさんたちの間にもいろいろあるのだろうが、外部の人間である俺たちにはよくわからなかった。
というかそもそも、試合とかも見に行ってないし。
「で、すずめちゃんにはいつリベンジするの?」
「は?」
「だって負けっぱなしってわけにはいかないでしょ? 男子としては」
言われるまで俺は、そんなつもりはこれっぽっちもなかった。
だが、そんな風に言われるとフツフツと静かな闘志が湧き上がってきた。
あまり似てはいないとは思っていたけど、俺もあのかーちゃんの息子だったというわけか。
「まあ今のうちに1回くらいは勝っておかないと、かもな」
「たぶんすずめちゃん、このあとどんどん強くなるだけだろうからね」
「うむ」
「じゃあ今日から腕立て10回! そのくらいしとこう!」
「10回? 楽勝だわ」
「じゃあ早速やってみよー」
そうして俺は通話をつなげたまま、部屋の床にうつ伏せになる。
そうして腕に力を入れ……。
「いっかーい」
「ふんっ」
「にかーい」
「ふんっ」
「さんかーい」
「くっ!」
「よんかーい」
「ぐぬぬっ!」
「ごかーい」
「ちょっ、待て……くっ!」
「ろっかーい」
「ぐぬぬぬぬっ……くっ!」
「ななかーい」
「くっ……ううううっ……ぐうっ!」
「はっかーい」
「うううううううううううっ! くはっ」
バタンと、床に潰れてしまう。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「ちょっとちょっと。10回できないじゃない」
「こ、こんなはずじゃ……」
予想以上に腕立て10回は厳しかった。
っていうか、咲のカウントがかなりゆっくりだったのも原因の1つのような気がした。
「もう一回チャレンジする?」
「はあ、はあ。今日は無理。また明日にしてくれ」
「すずめちゃんに追いつけなくても知らないからね」
そうして、腕立て1日目の夜は過ぎていった。
息を整えていた俺はそのまま床で、いつの間にか寝落ちしてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる