黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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12章 十二日目 不審者情報

12-1 いつもよりほんの少しだけ痛い朝

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いつものように朝がやってきた。
窓の外では小鳥がチチチと鳴いていて、枕元ではスマホがピピピピとアラームを鳴らしている。

(はいはい、起きてる起きてる)

夢の世界から半分くらい意識をはみ出させながら、俺はアラームを止めようと腕を伸ばそうとした。
しかし……。

(あれ? 腕が動かないぞ?)

一瞬、これが噂の金縛りか、などと思った。
だがすぐに違うことを俺の筋肉たちが教えてくれて。

(いててて、なんだこれ)

腕と言わず肩と言わず、どちらかといえば上半身全部の筋肉が痛い。
そして微妙に腹筋も痛い。

(あ……筋肉痛だこれ)

昨夜の腕立ての記憶が蘇り、俺は痛みの原因にたどり着く。

「いててて……思った以上に残ってるな」

ギクシャクとしたロボットのような動きで、俺はベッドから立ち上がる。
腕を伸ばしてスマホのアラームを止めるだけでひと苦労。
俺は自分自身の鍛えてなさを改めて実感した。

    *    *    *

「おはよー」
「おはよ~」
「おはよう、悦郎」

ゆっくりと着替えているうちにだいぶ落ち着いてきた筋肉痛と折り合いをつけながら、やや不自然な動きで俺は階段を降りてきた俺は、リビングにいるみんなに挨拶をした。
なぜかニヤニヤしているかーちゃん。
どういうことかと咲に視線をやると、いつもより一品多く朝の料理を作りながら、その理由を俺に教えてくれた。

「筋トレする気になってくれたのが嬉しいんだって」
「うんうん。ようやく悦郎も筋肉に目覚めたか。それでこそ私の息子だよ」
「いやいや、別にそんなんじゃないから」
「そんなんでもどんなんでもいいんだよ。それより、悦郎用のプロテイン注文しておくか? 届くまではまとめ買いしてるわたしたちの飲んでいいから」
「だーかーらー。そこまで気合入れたトレーニングじゃないから」

そう言って俺は顔を洗うためにリビングを出て洗面所に向かう。
そんな俺の背中には……。

「プロテインを摂らせるタイミングは食後ですか?」
「トレーニング直後がいいかな。あと就寝前とか朝食のときとか。食後かどうかとかはそんな意識しなくてもいいかも」
「なるほど……トレーニングのあととか就寝前はコントロールしづらいので、朝食に混ぜる方向でいきます」
「ああ、それがいい」

などというちょっと物騒な(俺的には)会話が届いてきた。

「おう悦郎。なんかトレーニング開始したんだって?」

俺とすれ違うように洗面所から出てきた美沙さんにも、どうやら俺の筋トレの話が伝わっているようだった。

「いやトレーニングっていうか、ちょっと腕立てしただけです」
「それでもだよ。0より1だからな」
「はあ」
「わからないことあったら聞けよな。なにしろわたしたち、ある意味そっちの専門家だから」
「わかりました」

スパーンと勢いよくタオルを自分の肩にかけながら、今日も機嫌よく美沙さんはリビングに向かう。
っていうかまた美沙さんはうちで朝のシャワー浴びてたのか。
寮の方、人が増えてきて手狭になってきたとかそういうことなのかな。
鈴木さんも結局、毎日通ってるみたいだし。
最初は週末だけって話だったんだけどな。

「……」

っていうか、鈴木さんに毎日トレーニングされたら永遠に追いつけなくないか?
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