黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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12章 十二日目 不審者情報

12-2 いつもより速いペースの通学路

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「ファイト、ファイト」
「はっ、はっ、はっ、はっ」

いつもと同じ駅までの道。
いつもと同じ通学路。
そこを俺たちは、いつもとは違う速度で進んでいた。

「がんばれがんばれ」

俺と同じ速度で走りながら、咲は余裕の表情。
それもそのはず。
なにしろ俺の方が、咲のと合わせて二人分の荷物を持ちながら走っているのだから。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

なかなかに重いが、絶対に傾けるわけにはいかない。
なにしろ荷物の中には、お弁当が入っている。
多少の傾きならば吸収できるだろうが、あまり斜めにしたりしたらご飯やおかずが偏ってしまう。
汁が漏れ出るようなものはおそらくないだろうが、それでも注意するに越したことはない。
そして気をつけなければいけないのは傾きだけではない。
揺れも、できるだけ避けねばならない。
あまり頻繁にシェイクしたりすれば、お弁当箱の中身がミックスされてしまう。
もしお昼になってお弁当箱を開けたときに、中身がごちゃごちゃになっていたりすれば、おそらく咲は不機嫌になるだろう。
それこそ、明日のからあげがひとつ減るくらいに。

「おはよう、悦郎。咲」
「おはよ~、ちーちゃん」
「はあ、はあ、はあ。おはよう、緑青」

ほぼいつもどおりの時間に家を出て、いつも以上の速さで駅に向かっている。
当然のことながら、いつも俺たちより少し早く駅についている緑青に後ろから追いつくことになる。

「はいこれも」
「うっ!」

なにも聞かずに当然のように俺に荷物をもたせてくる緑青。
そして俺たちと同じスピードで、ただし走ったりはせずに早足で、少しばかり不思議な感じで並んで歩く緑青。

「私明日からは自転車にしようかな」
「なに? 明日も走るの?」
「そう。これもトレーニングだから」

そこまでの強化は望んでいないはずなのに、なぜか咲は俺を鍛えることをかなり楽しんでいるっぽい。
まあ、ちょっとたるみ気味だったから少しくらい付き合うのはいいんだが、あまりにもキツイトレーニングは勘弁してもらいたい。
そこらへん、意外と咲は凝り性だから気をつけないと。

そしてそのまま駅へと到着する。
さすがに走って改札を通り抜けるなどは周りの迷惑になるので、俺も咲もそれはしなかった。
ただし、2人の荷物は俺が持ったまま。

電車の中はいつものように混んでいた。
これもトレーニングとなかなかに謎な理由をつけられ、俺は咲と緑青に捕まられながら一人だけつり革に捕まった状態でラッシュに揺られることになった。

学校に着くころには、いつも以上に俺は疲労困憊。
インナーもシャツも汗まみれになり、かなり着心地の悪い状態になってしまった。

「はい着替え」
「なに?」

どうもいつもより重いと思ったら、咲のかばんの中には俺の着替え一式が入っていた。
とはいえそれはありがたいことではあったので、俺は咲からそれを受け取り、トイレで新しいシャツとインナーに着替えてきた。
若干の、腑に落ちない気持ちも抱えながら。
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