黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
101 / 171
12章 十二日目 不審者情報

12-2 いつもより速いペースの通学路

しおりを挟む

「ファイト、ファイト」
「はっ、はっ、はっ、はっ」

いつもと同じ駅までの道。
いつもと同じ通学路。
そこを俺たちは、いつもとは違う速度で進んでいた。

「がんばれがんばれ」

俺と同じ速度で走りながら、咲は余裕の表情。
それもそのはず。
なにしろ俺の方が、咲のと合わせて二人分の荷物を持ちながら走っているのだから。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

なかなかに重いが、絶対に傾けるわけにはいかない。
なにしろ荷物の中には、お弁当が入っている。
多少の傾きならば吸収できるだろうが、あまり斜めにしたりしたらご飯やおかずが偏ってしまう。
汁が漏れ出るようなものはおそらくないだろうが、それでも注意するに越したことはない。
そして気をつけなければいけないのは傾きだけではない。
揺れも、できるだけ避けねばならない。
あまり頻繁にシェイクしたりすれば、お弁当箱の中身がミックスされてしまう。
もしお昼になってお弁当箱を開けたときに、中身がごちゃごちゃになっていたりすれば、おそらく咲は不機嫌になるだろう。
それこそ、明日のからあげがひとつ減るくらいに。

「おはよう、悦郎。咲」
「おはよ~、ちーちゃん」
「はあ、はあ、はあ。おはよう、緑青」

ほぼいつもどおりの時間に家を出て、いつも以上の速さで駅に向かっている。
当然のことながら、いつも俺たちより少し早く駅についている緑青に後ろから追いつくことになる。

「はいこれも」
「うっ!」

なにも聞かずに当然のように俺に荷物をもたせてくる緑青。
そして俺たちと同じスピードで、ただし走ったりはせずに早足で、少しばかり不思議な感じで並んで歩く緑青。

「私明日からは自転車にしようかな」
「なに? 明日も走るの?」
「そう。これもトレーニングだから」

そこまでの強化は望んでいないはずなのに、なぜか咲は俺を鍛えることをかなり楽しんでいるっぽい。
まあ、ちょっとたるみ気味だったから少しくらい付き合うのはいいんだが、あまりにもキツイトレーニングは勘弁してもらいたい。
そこらへん、意外と咲は凝り性だから気をつけないと。

そしてそのまま駅へと到着する。
さすがに走って改札を通り抜けるなどは周りの迷惑になるので、俺も咲もそれはしなかった。
ただし、2人の荷物は俺が持ったまま。

電車の中はいつものように混んでいた。
これもトレーニングとなかなかに謎な理由をつけられ、俺は咲と緑青に捕まられながら一人だけつり革に捕まった状態でラッシュに揺られることになった。

学校に着くころには、いつも以上に俺は疲労困憊。
インナーもシャツも汗まみれになり、かなり着心地の悪い状態になってしまった。

「はい着替え」
「なに?」

どうもいつもより重いと思ったら、咲のかばんの中には俺の着替え一式が入っていた。
とはいえそれはありがたいことではあったので、俺は咲からそれを受け取り、トイレで新しいシャツとインナーに着替えてきた。
若干の、腑に落ちない気持ちも抱えながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

処理中です...