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12章 十二日目 不審者情報
12-3 ほとんどいつもどおりの朝のHR
しおりを挟む「というわけで、みなさん気をつけて下さい」
朝のホームルームで、みどり先生からいつもとは違う注意事項が俺たちに告げられていた。
といっても主な対象は女子たち。
何でも学校付近で不審な男性が、ここ何日か目撃されているとのこと。
「不審な男性って、どういうものなのですか?」
まだこちらの常識に染まりきっていない麗美が俺に尋ねてくる。
「どういうって言われても、いろいろあるからなあ。まあ、よくあるのはトレンチコートのおじさんとか?」
「トレンチコート?」
「ぐふふ。おねーちゃんちょっと見てーって言いながら、前をブワって開くんだよ」
言いながら緑青が、トレンチコート全裸おじさんの真似をする。
だが説明が足りず、麗美にはその意味が伝わらない。
「前をブワッと……どういうことです? 着ているスーツでもご自慢になられたいんですか?」
「いやいや違うよ麗美。スーツなんか着てない」
「え? じゃあコートの下は何を着てらっしゃるんですか?」
「着てないのがポイント。麗美の国には、そういうのいなかった?」
「着てない……?」
まだ首を傾げる麗美。
どうやら、知識としても体験としても、その手のものには遭遇したことがないようだった。
「ほら、麗美さんの場合には是枝さんたちが先に排除しちゃうから」
「ああ、そりゃそうか」
咲の推測に、俺は納得する。
「っていうかホント、今回の不審者はどういうのなんだろうね」
「そりゃみどり先生に聞いてみればいいさ」
あとは号令をかけて挨拶をするだけのタイミングだったが、俺は手を挙げてみどり先生に尋ねてみた。
「先生ー、その不審者ってどんな感じのだったんですか? パワー型ですか? 独り言タイプ? それとも露出マンとか?」
「えーっとですね……」
みどり先生は渡されていたらしき資料に目を通す。
「自転車を押しながら歩いていた40~50代の男性が、うちの女子生徒に声をかけたそうです」
「声? どんな?」
「えーっと……『向こうに渡るにはどうしたらいいですか?』って」
「……」
クラス中が静寂に包まれた。
そしてしばらくして少しの爆笑とそれ以上の苦笑と、呆れたようなため息が教室中に溢れ出す。
「それ全然普通じゃん」
「道聞きたかっただけじゃん」
「まーたその手の不審じゃない不審者情報かー」
俺はあることに気づき、クラスの騒ぎを鎮めるべく両手を開くようなポーズで辺りを鎮めた。
「ちょっと待て。みどり先生がまだ何か言いたそうにしてる」
「あ、ホントだ」
「まだ何かあるみたいよ」
再び生徒たちの視線がみどり先生に集中した」
「ありがとう黒柳くん。そうなのそのとおり。まだ続きがあるの」
「なんだろう」
「実は全裸だったとか」
「もしかしたらズボンの前が不自然に膨らんでたのかもよ?」
ヒソヒソ声で女子たちが予想を口にする。
そして正解発表。
みどり先生の口から、どうでもいいような真実が口にされた。
「3日連続で同じ感じの報告が、全然別の生徒からされたそうです。それで、あまりにも不自然だというので今回の注意喚起になったとか」
まあまあ納得できる理由に、クラスがちょっとだけザワッとする。
「確かに続けてはちょっとおかしいよな」
「でも、道を間違えやすいおじさんなのかも」
「ご高齢で忘れっぽいのかもしれないし」
特にこれといった話題のなかった朝の教室は、そんな感じでどうでもいいようなことで少しだけ盛り上がっていた。
そしてそのまま一時間目はみどり先生の授業。
当然のようにその不審者の情報は一時的に忘れられ、いつものように英語の授業が普通に行われた。
ちなみにレポートをやってくるのを忘れた。
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