黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
103 / 171
12章 十二日目 不審者情報

12-4 まあまあいつもどおりなお昼どき

しおりを挟む

「「「いただきまーす」」」

そしていつものようにお昼の時間が来た。
俺たちはいつもどおりに机を移動させて島を作り、お弁当を広げている。

「っていうわけで、不審者にもいろんな種類がいるの」
「なるほど。いろいろあるのですね」

特に大したこともなくいつもどおりの午前を過ごした俺たちは、相変わらず不審者トークで微妙に盛り上がっていた。

「まあでも、麗美さんは悦郎がいるから安心だよね」
「はいっ」

何か悪いものでも食べたのか、砂川が珍しく俺を持ち上げるような発言をした。
そしてそれに嬉しそうに頷く麗美。
なんとなく尻のあたりがむず痒くなり、俺はあえてそれをかき混ぜるような発言をする。

「いやむしろ、俺の方が安心」
「え?」
「麗美と一緒にいれば、是枝さんたちが俺込みでガードしてくれるでしょ」
「悦郎さんが気をつけなければいけないような不審者の方もいらっしゃるのですか?」
「あ、そういえばそうだな」

自分で言ってからその穴に気づく。
と同時に、ちょっとだけ気になって緑青に聞いてみた。

「なあ緑青。男狙いの不審者ってのもいたりするのか?」
「いるんじゃない? あんまり聞いたことないけど。報告されてない可能性も高そう。っていうか、どうして私に聞くの?」
「いやなんとなく。この中では一番詳しそう」
「なんかそれ、ちょっとイヤ」
「はははっ。すまんすまん」

そんなこんなの話をしながら、食事をすすめていく。

「そういえば、麗美さんのところの黒服さんが目撃されてて、それが不審者情報に登録されたとか、そういうのってないの?」

なくはなさそうな推測を緑青が口にした。
俺もちょっとだけ興味を引かれながら、麗美の方を見る。
ところが、答えたのは別の人だった。

「そんな稚拙な行動をするものは私のチームにはいません」
「おわっ」
「あ、是枝さんこんちわ」
「どうも、砂川さん」

近づいてきた気配など微塵もしなかった是枝さんが、緑青の疑問に答えた。
っていうかもしかしたら、気づいていないだけでずっとそばにいたのかもしれない。
そして砂川は、なぜか是枝さんと仲がいい。

「そういえば、最近コンビニのあたりで別のチームを見かけますね。あちらの方が若干我々よりも練度が低そうです。目撃されるとしたら、あちらなのではないでしょうか」
「コンビニのあたり?」

俺には是枝さんの言っていることの意味がよくわからなかった。

「コンビニって、あのコンビニ? 俺とか麗美がよく帰りに寄ってる」
「はい。ときどき藤田も利用させていただいているようです」
「あそこの周りに是枝さんたちとは別のチーム?」

とまで言ったところで当然な疑問が湧いてきた。

「っていうか別のチームって、どういうこと? 麗美の警護に別のチームも動いてるとか?」
「いえ、そういうことではありません。所属自体が別のチームです」

ますます意味がわからなくなってきた。

「ぐふふ。つまり、あそこのコンビニあたりに、麗美さんクラスのお嬢様がいるってことだよ悦郎」

なぜか面白がるような口調で、緑青がそう言ってきた。
もしかして……。

「それって、俺の知ってる人か?」
「どうでしょう……とりあえず、顔見知りではあると思います」

その人物に心当たりがあるのか、麗美が答えた。

「ねえねえもしかして……」

予想がついたのか、咲が人差し指を立てながら、その人物の名前を口にした。

「アルバイトのリーさんじゃない?」
「いやいやまさか」

俺は即座に否定した。
ところが麗美と是枝さんが肯定の意を示す。

「そうです」
「正解です」
「だよねー。身につけてるものの質とかセンスとか、どこか麗美さんっぽかったもん」

うんうんと咲が頷いている。
納得のいかない俺に、麗美がさらなる情報を開示してきた。

「あの方、お隣のビリオネアのご令嬢だそうです。このあいだお父様の方からご挨拶のお手紙を出したそうです。娘同士が知り合いになったからとかで」
「はあっ!? なんでコンビニのバイトにそんな人が!?」
「なにを言うんです悦郎さん。コンビニのアルバイトっていうのは、すごい職業ですよっ!」

フンスと麗美の鼻息が荒くなった。
どうやら、踏まなくていい虎の尾を踏んでしまったようだった。

結局この日のお昼の時間は、どれだけコンビニのアルバイトが大変ですごい職業かということを、麗美にコンコンと説かれてしまった。
まあ確かに、コンビニの仕事は大変だけどな。
俺には務まらない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

処理中です...