黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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12章 十二日目 不審者情報

12-4 まあまあいつもどおりなお昼どき

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「「「いただきまーす」」」

そしていつものようにお昼の時間が来た。
俺たちはいつもどおりに机を移動させて島を作り、お弁当を広げている。

「っていうわけで、不審者にもいろんな種類がいるの」
「なるほど。いろいろあるのですね」

特に大したこともなくいつもどおりの午前を過ごした俺たちは、相変わらず不審者トークで微妙に盛り上がっていた。

「まあでも、麗美さんは悦郎がいるから安心だよね」
「はいっ」

何か悪いものでも食べたのか、砂川が珍しく俺を持ち上げるような発言をした。
そしてそれに嬉しそうに頷く麗美。
なんとなく尻のあたりがむず痒くなり、俺はあえてそれをかき混ぜるような発言をする。

「いやむしろ、俺の方が安心」
「え?」
「麗美と一緒にいれば、是枝さんたちが俺込みでガードしてくれるでしょ」
「悦郎さんが気をつけなければいけないような不審者の方もいらっしゃるのですか?」
「あ、そういえばそうだな」

自分で言ってからその穴に気づく。
と同時に、ちょっとだけ気になって緑青に聞いてみた。

「なあ緑青。男狙いの不審者ってのもいたりするのか?」
「いるんじゃない? あんまり聞いたことないけど。報告されてない可能性も高そう。っていうか、どうして私に聞くの?」
「いやなんとなく。この中では一番詳しそう」
「なんかそれ、ちょっとイヤ」
「はははっ。すまんすまん」

そんなこんなの話をしながら、食事をすすめていく。

「そういえば、麗美さんのところの黒服さんが目撃されてて、それが不審者情報に登録されたとか、そういうのってないの?」

なくはなさそうな推測を緑青が口にした。
俺もちょっとだけ興味を引かれながら、麗美の方を見る。
ところが、答えたのは別の人だった。

「そんな稚拙な行動をするものは私のチームにはいません」
「おわっ」
「あ、是枝さんこんちわ」
「どうも、砂川さん」

近づいてきた気配など微塵もしなかった是枝さんが、緑青の疑問に答えた。
っていうかもしかしたら、気づいていないだけでずっとそばにいたのかもしれない。
そして砂川は、なぜか是枝さんと仲がいい。

「そういえば、最近コンビニのあたりで別のチームを見かけますね。あちらの方が若干我々よりも練度が低そうです。目撃されるとしたら、あちらなのではないでしょうか」
「コンビニのあたり?」

俺には是枝さんの言っていることの意味がよくわからなかった。

「コンビニって、あのコンビニ? 俺とか麗美がよく帰りに寄ってる」
「はい。ときどき藤田も利用させていただいているようです」
「あそこの周りに是枝さんたちとは別のチーム?」

とまで言ったところで当然な疑問が湧いてきた。

「っていうか別のチームって、どういうこと? 麗美の警護に別のチームも動いてるとか?」
「いえ、そういうことではありません。所属自体が別のチームです」

ますます意味がわからなくなってきた。

「ぐふふ。つまり、あそこのコンビニあたりに、麗美さんクラスのお嬢様がいるってことだよ悦郎」

なぜか面白がるような口調で、緑青がそう言ってきた。
もしかして……。

「それって、俺の知ってる人か?」
「どうでしょう……とりあえず、顔見知りではあると思います」

その人物に心当たりがあるのか、麗美が答えた。

「ねえねえもしかして……」

予想がついたのか、咲が人差し指を立てながら、その人物の名前を口にした。

「アルバイトのリーさんじゃない?」
「いやいやまさか」

俺は即座に否定した。
ところが麗美と是枝さんが肯定の意を示す。

「そうです」
「正解です」
「だよねー。身につけてるものの質とかセンスとか、どこか麗美さんっぽかったもん」

うんうんと咲が頷いている。
納得のいかない俺に、麗美がさらなる情報を開示してきた。

「あの方、お隣のビリオネアのご令嬢だそうです。このあいだお父様の方からご挨拶のお手紙を出したそうです。娘同士が知り合いになったからとかで」
「はあっ!? なんでコンビニのバイトにそんな人が!?」
「なにを言うんです悦郎さん。コンビニのアルバイトっていうのは、すごい職業ですよっ!」

フンスと麗美の鼻息が荒くなった。
どうやら、踏まなくていい虎の尾を踏んでしまったようだった。

結局この日のお昼の時間は、どれだけコンビニのアルバイトが大変ですごい職業かということを、麗美にコンコンと説かれてしまった。
まあ確かに、コンビニの仕事は大変だけどな。
俺には務まらない。
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