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13章 十三日目 いろんな趣味
13-7 いつもより遅くて遠い帰り道
しおりを挟む「んあー、結構遅くなっちゃったな」
いつもより遅い時間、俺は珍しく一人で帰路についていた。
いつも使う学園前の駅ではなく、そこから少し離れた繁華街にある駅。
夕飯時にふさわしく、会社帰りのサラリーマンやOLたち、街で遊んでいた学生、予備校帰りの浪人生、なんだかよくわからないけどブラブラしている派手な服装の人たち。
そういった人混みをスルスルと縫うように歩きながら、俺は改札を抜ける。
「あれ」
「え?」
俺と反対方向へと向かう人波の中から、誰かが俺に声を掛けてきた。
正確には俺を見て声を上げただけだが、まあそのあたりは気にしない。
一歩俺の方へと踏み出してきたのだから、声を掛けてきたのと同義だと思うことにしよう。
「悦郎くん。なにやってるの、こんなとこで」
「友美か。そっちこそなにしてんだ?」
俺を見つけたのは、空五倍子(うつふし)友美。
今日の昼、久しぶりに声を掛けたクラスメイトだ。
「私は予備校。そっちは?」
「俺はバイト代もらいに来た。その帰りだ」
「あー、まだやってるんだ。ペット探偵」
「まあな。ちょっと変わってて面白いからな」
「探偵さんも美人だしね」
「あのなあ……」
学校にいるときよりも、フランクに話してくる友美。
別に何かを装っているとかそういうわけじゃないと思うが、こっちの方が地に近い。
仲のいいグループと話していたあとだと、あんなふうな感じになったりしてしまうのだろう。
「っていうか、咲の欲求不満はあんたのせいだよ、悦郎くん」
「はあ?」
『欲求不満』というちょっと刺激的なワードで何人かの通りすがりの人たちがこちらを振り返ってしまう。
俺はこんなところでする話ではないと、友美にやめるよう促す。
「ま、別にいいけどね。あんたたちの問題だし」
やれやれと肩をすくめるような仕草をしたあと、メガネをクイッと直し友美は踵を返す。
「じゃ、私行くから。またね」
「ああ」
ピラピラと手を振り改札を抜けていく友美。
それほど背の高くない友美は、すぐに人混みの中に紛れて見えなくなってしまう。
立ち止まったままの俺を迷惑そうに何人かの人たちが避けて歩いていく。
「俺も帰るかな」
家に帰ればさっき話題に出てきた咲が夕食を作って待っていてくれるはずだ。
もしかすると麗美も。
「まあ確かに、ちょっとめんどくさい状況にはなってるよな。手を突っ込んだほうがよりめんどくさくなりそうだから放置してるけど」
階段を上がってホームに出る。
ちょうど滑り込んできた電車に乗って、地元の駅へ。
正面を走る下りの電車は、いつものようにラッシュの時間だ。
ガランとした電車の中で、ドアに寄りかかりながら次の駅を待つ。
いつも以上に駅と駅の間が長く感じる。
一人で乗る電車をこんなにも寂しく感じるなんて、久しぶりな気がした。
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