黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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13章 十三日目 いろんな趣味

13-6 いつもどおりなのかよくわからない部活

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「そういえば来週なんかの注射があるんじゃなかったっけ」
「え! そうだったっけ!」
「あー、麻疹の注射ね。結構痛いらしいよ」
「やだー、私注射苦手」

放課後、俺たちはいつものように部室でダラダラとした時間を過ごしていた。
洋子先輩はとっとと帰った。
バイクで出かけるとか言っていたから、もしかしたらデートかもしれない。

「ぐふふ。私はそんなに嫌いじゃない」
「え? そうだったっけ」
「あー、咲違うぞ。緑青が好きなのは、注射じゃない。その前の消毒だ」
「スースーするの面白い。あれ、いい」
「えー、私あれもあんまり好きじゃない」

オカルト研究部と名乗りながら、それっぽいことはほとんどしていない俺たち。
考えようによっては、これこそがオカルトかもしれない。
なぜ俺たちが、オカルト研究部なんて名乗っているのか、みたいな。

そんなことを考えていると、唐突に部室のドアがノックされた。

「ん?」
「え?」
「誰か来る予定あったっけ? 香染さん?」
「あいつならノックなんてしないで勝手に入ってくるだろ」
「あ、そうか」

咲が席を立ち、ドアへと向かう。
来客が誰であれ、無視するのはあまり得策ではない。
以前の査察の件もあるし、一応活動している風にはしておかないといけないからな。

「ブンブンハローオカルト研究部ー」
「え?」
「なんだ?」

咲がドアを開けた途端、妙なことを口走りながら見覚えのない女子生徒が部室に入ってきた。
制服は一応うちの学校のもの。
手にはスマホに変な器具をくっつけたものをつけて、なにやら自撮りしながら喋っているらしい。
そして顔には、謎の仮面。

「ど、どちらさま……ですか?」

若干怯えながら、咲が応対している。
たぶん大丈夫だとは思うが、俺も一応席を立ってドアの方へ向かった。
ちなみに緑青はどこかニヤニヤしながら静観している。

「あ、あれ?」

急激に謎の女子生徒は勢いを失っていく。
咲を見て俺を見て、部室を覗き込むようにしながら緑青を見て、そして慌てたようにスマホの録画を止めた。

「よ、洋子は? ここ、オカルト研究部だよね?」

ああ、洋子先輩の知り合いだったか。
俺は洋子先輩はすでに帰ったと仮面の女子生徒に告げた。

「そ、そっか。お邪魔しました」

そう言ってスゴスゴと引き下がろうとする。
が、そうは問屋がおろさない。

「待って待って。せめて何をしたかったのかの説明はしてって」
「え?」

何もかもが謎すぎる仮面の女子生徒の行動。
とりあえず俺は、それに対しての説明が欲しかった。
少なくとも、その仮面の意味くらいは。

「あ……そうだよね。確かにそれはしなきゃだよね」

そう言うと仮面の女子生徒は、仮面を外してただの女子生徒になり、自分がしようと思っていたことの説明をはじめた。

「えっと……私動画投稿サイトで活動してて、その動画を録ろうと思って」
「あ、もしかしてなんとかチューバーってやつですか?」
「そう。そんなとこ」

仮面を外したその女子生徒は、どこかで見たことがあるような気がした。
洋子先輩の知り合いなら、たぶん3年生なのだと思うが、ちょっと名前までは出てこない。

「もしかして、それでお金稼いでたりするんですか? 学校に何か言われたりしませんか?」

意外と興味があるのか、咲がチューバー先輩に色々と質問を投げかけていた。

「う、うん。一応収益化の申請はしてる。まだそれでお金が発生したりはしてないけど」
「へー、なんかすごいです。まだ学生なのに自分でお金を稼ぐ手段を持ってるなんて」
「まだ稼げてないって言ってるじゃん」
「茶化さないの」
「うーっす」
「それで学校の方は? 大丈夫なんですか?」
「……」

なぜか気まずそうな顔で目線をそらすチューバー先輩。
って、そういえばまだ名前すら聞いてなかった。

「あ、お名前聞いてもいいですか? 洋子先輩に伝えておくので」
「チャンネル名も知りたいです。私、帰ったら見てみますね」
「え、えーっと……」

なぜか口ごもるチューバー先輩。
理由がわかっているのか、緑青はニヤニヤしている。
俺は面倒くさくなり、緑青に話を振ることにした。

「で、緑青は何を知ってるんだ? なんでさっきっから面白そうな顔し続けてるんだ?」
「ぐふふ~、2人が根本的な間違いをしてるのが面白くって」
「根本的な間違い?」
「う゛っ……」

バキュンとまるで銃撃でも受けたかのように胸の辺りを押さえ、軽くのけぞるチューバー先輩。
っていうかそろそろめんどくさいので、とっとと名前を教えて欲しい。

そんなことを考えているとチューバー先輩はそのままヨロヨロと後ずさった。
なんでそんな演技をしてるんだろうとか思っていたら、部室の扉を出た段階で唐突に彼女は走り出した。
そして、あっという間に見えなくなってしまう。

「ふふっ。面白い先輩だったね。動画とかやるくらいのことはある」

咲は納得しているようだったが、俺はそうではなかった。
なにしろ、どうして逃げ出したのかの理由がわからない。
名前を頑なに教えてくれなかったのも謎だ。
あと、ちょっとした違和感。
もういなくなってしまったからハッキリとは言えないのだが、制服のリボンが3年生の色ではなかったような気が。

俺はおそらく答えを知っているであろう緑青を振り返り見た。

「ぐふふー。教えて欲しい?」
「ああ」

なになに? という顔で咲も近づいてくる。
謎の先輩の存在になんの疑問も持っていなかった咲にとっては、俺と緑青が何をやっているか自体がよくわからないのだろう。

「実はね」
「ああ」
「あの人、もう学生じゃない」
「はあ?」
「去年卒業してるから。美容師になるって専門学校に進んだはず」
「え、でもうちの学校の制服で……って、そりゃ制服は持ってるか」
「ああ! そっか!」

唐突に咲が何かに気づいた。

「あの人のリボン、1年生のだ!」
「っていうか正確には去年の3年生のね」

咲の言葉を緑青が訂正する。
うちの学校の女子の制服は、リボンの色が学年ごとに違う。
赤→青→緑の順番でローテーションしている。
さっきの先輩(?)が身につけていたリボンは、緑のリボンだった。

「じゃあなにか? もしかしてさっきの人、自分が卒業した学校に潜入して、動画のネタを探してたってことか?」
「ぐふふ。そういうこと」
「面白ければなんでもありかよ。まあ、そんな面白そうでもなさそうだけど」

    *    *    *

そんな感じで、今日の放課後の部活の時間も、なんだかよくわからない感じで過ぎていった。

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