黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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13章 十三日目 いろんな趣味

13-8 いつもとは違うカレー

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「ただいまー」
「おかえり~」

帰宅した俺を待っていてくれたのは、かぐわしいカレーの香りだった。
手を洗ってうがいをし、部屋で制服を着替えて階下に降りて、リビングの食卓へ。
カレーとなるとしれっと登場する緑青もテーブルについていて、久しぶりに四人での夕食となった。

「「「いただきまーす」」」
「はい召し上がれ」

テーブルで俺の前に並んでいたのは、ちょっと予想と違っていた。
確かにカレーはカレーだったが、ドライカレー。
こんもりと山型に盛り付けられたご飯の上に、キーマカレーっぽいヤツが載せられている、ひき肉タイプのあれだ。

「これ、何ていう料理なんです?」

麗美が俺に尋ねてきた。

「ドライカレーだよ」

躊躇なく俺は答える。
個人的にはこれも好きだが、チャーハンタイプのあっちも捨てがたい。
っていうか、あっちのドライカレーにひき肉タイプのカレーをかけるってのはどうだろう。
ダブルで美味しいような気がする。
いや、濃すぎるか。

「?」

麗美の頭上にはてなが見えた。

「ん? どうした?」

俺は食べながら尋ねた。

「私の知ってるドライカレーと違います。私の国にあった日本風料理店で食べたドライカレーは、ピラフみたいな感じでした」
「あー、うん。それもドライカレーだね」
「え?」

咲が麗美の疑問を引き取ってくれる。

「なんでかわからないけど、日本だとどっちもドライカレーって呼ぶの。あれ、なんでなんだろうね?」

モグモグとカレーを頬張っている緑青に咲が話を振った。

「知らない」

手短に答える緑青。
それは本当に知らないのか、それともカレーに集中しているから考えたくないのか、どちらかはわからなかった。
だがともかく、緑青を除く俺たち3人にはドライカレー問題について明確な答えが存在しなかった。
というより、どうでもよかった。

「ま、美味しければいいよ。気にせず食べてみ。美味しいから」
「はいっ。じゃあいただきます」

そう言って麗美がスプーンを一口。
そして目を見開き、嬉しそうに笑顔を浮かべる。

「美味しいですっ!」
「ホントに? よかったー」

その笑顔を受けて、咲も笑う。
やはりカレーはみんなを笑顔にする。
ドライだろうがウェットだろうが、そこは変わらないのだ。
なんつって。

「おかわりっ」
「はーい」

身体の大きさの割りに意外と食べる緑青が、いの一番に食べ終わった。
そして咲におかわりを催促する。
みんなのお母さんであるところの咲は嬉しそうに二杯目のドライカレーを緑青の皿によそう。

「そういえばこれ、ナンで食べても美味しそうですよね」

緑青とは対象的にゆっくり味わって食べながら、麗美が咲にドライカレーの別の食べ方を提案している。

「あー。まあ、キーマカレーの一種だしね。でも、どうだろう」
「え? ダメですか?」
「味付けがさ、ご飯……白米に合うようになってるから、ナンだとちょっと組み合わせが悪いかも」
「ナンの前にあれじゃないか? 細長い米」
「細長いお米?」
「あっ、インディカ米ですね。確かに、合うかもしれません」
「インディカ……」

咲だけがほんの少しだけ乗り遅れている。
その間にも緑青は、二皿めを食べ終えようとしていた。

はえーよ。

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