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14章 十四日目 走ったり揉んだり
14-2 いつもは見かけないランナー
しおりを挟む「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」
駅に向かって速歩きで進む俺。
最初はカバン3つはだいぶきつかったが、徐々にバランスのとり方がわかってきて、むしろその重さを利用していつも以上のスピードが出せるようになってきた。
といっても、速歩きとしては、のレベルだったが。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……ん?」
不意に俺のとなりに誰かが並んでくる。
咲や緑青ではない。
あいつらはだいぶ先行したのか、いまだに背中すら見えない。
もしかすると、もう駅についている可能性もある。
では、俺のとなりに走るこの子は……。
「おにーさん、なんか面白いことしてるね?」
タッタッタと俺と併走しながら、その子は声をかけてきた。
そしてどこか心配そうな表情を浮かべながら、なぜか俺にそっと耳打ちしてきた。
「もしかして、いじめられてたりする?」
言葉の内容で、その子が声を潜めた理由がわかった。
カバンを3つも抱えている俺のことを、いじめられっ子ではないかと心配してくれたのだ。
もちろんこれはいじめではない。
トレーニングのために、咲と緑青が俺にカバンをもたせてくれた……はずだ。
考えているうちに、なんとなく違うような気もしてきてしまった。
(っていうかこれ、面白がってるだけな可能性なくないか?)
咲の方はおそらくだが、俺を鍛えるという気持ちはあるだろう。
そこにプラスしてちょっと面白いから、という理由も入っているような気もする。
そして緑青。
たぶんあいつの方は、100パー面白がっているだけだと言い切れる。
もちろん、聞けば俺を鍛えるためだと建前の理由を言ってくれるだろうが。
「ねえねえ、大丈夫? 誰か助けてくれそうな人、いたりする?」
名前も知らないジャージ少女。
カバンを3つも持って速歩きしている俺を気にして、いろいろ聞いてきてくれる。
ちょっと考え込んで黙ってせいか、余計に心配してしまったようだ。
「ありがとう、でも大丈夫。これ、トレーニングだから」
とりあえずそれが一番正解に近いだろうと、俺は歩きながらその子に答えた。
何を言われているのか一瞬わからなかったらしく、ジャージ少女はキョトンとした表情を浮かべる。
そして……。
「ぷぷぷっ! トレーニングって。やっぱりおにーさん、面白いことしてたんだね」
破顔大笑。
なんともいい笑顔で彼女は笑い始めた。
「ははっ。そうかな」
思わず釣られて俺も笑い始めてしまう。
「そうだよ。だってそんなの、マンガとかアニメの中でしか見たことないもん。おにーさん、アニメとかの中の人なの?」
走りながら普通に話してくるジャージ少女。
見た目からはわからないけれども、けっこう鍛えている子なのかもしれない。
「かもしれないよ? そのうち車とかに引かれて、ぺしゃんこになったりして」
「あははははっ」
並んで走りながら(正確には俺は速歩き)、俺は彼女とそんな感じのどうでもいいようなことを話していた。
彼女とは、そのまま駅でお別れした。
俺を待っていた咲はなぜか妙に不機嫌だった。
そして面白そうに笑っている緑青。
それはそれとして、今日もいつもどおりの電車に遅れずに乗れたのであった。
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