125 / 171
14章 十四日目 走ったり揉んだり
14-8 いつもどころじゃないおかしな一年生
しおりを挟む
「姫!」
近づいてくるまで性別すらよくわからなかった女子生徒の言葉に、俺たちは固まってしまった。
緑青を除いて。
そんな俺たちに、さらに彼女は言葉を続ける。
「ようやくお会いすることが叶いました、姫!」
もうわけがわからなかった。
同じマント系の人としてエイィリ先輩を思い出したりもしたが、あの人に比べてもはるかにこっちの子の方がわけがわからなかった。
俺は困惑したまま咲と麗美を見る。
咲も麗美も、俺と同じようにわけがわからなくて困っているようだった。
ただし、緑青だけは別。
面白がるように、ニヤニヤと俺たち四人を見ていた。
「困惑なされるのも当然でしょう。なにしろそれがし、今はこんなナリですから」
それがし、と来たか……。
見た目もアレだったが、話し言葉もかなりキテいた。
そしてなにやら、妙な違和感がまとわりついてくる。
「前世の姿でしたらすぐにおわかりいただけるのでしょうが、今生ではそれがし、女性に生まれついてしまったもので」
やっぱりか。
俺の中でモヤモヤしていたものが、明確な形をとりはじめる。
時代がかったお芝居のような台詞回しと立ち居振る舞い。
そして自分をそれがしと呼ぶ明らかなヤバさ。
俺は目の前でひざまずいている女の子をとりあえず無視することにした。
「行こうぜ」
「でも」
咲と麗美、二人の手をとり先を促す。
麗美は素直に俺の言うことを聞いてくれそうだが、咲は謎のマント少女のことが気になるようだった。
「お待ち下さい、姫!」
マント少女が立ち上がり、追いすがってくる。
俺は面倒なことになったなと思いつつ、咲と麗美を背中にかばいながら彼女と正対した。
マントの子がどっちを姫だと思いこんでいるのかはわからなかったが、どちらだったとしてもこれ以上帰る時間が遅くなるのは正直ダルい。
奇妙キテレツな登場人物は、もう十分間に合っているのだ。
「あのね、よくわからないけど俺たちもう帰るところだから。それに咲も麗美も姫とかじゃないし。いやまあ、麗美は姫みたいなとこもあるけど」
行く手を遮り、邪魔をしている俺を彼女はじっと見てくる。
正面に立ってみてはじめてわかったが、この子意外とでかい。
前世が男だというのも、あながち冗談ではないのかもしれない。
いやまあ、前世なんてもの自体があるのかどうかもわからんけど。
「ぐわあああっ!」
「なっ!」
唐突にその子が自分の右目を押さえてうずくまる。
「ど、どうしたの?」
咲が心配になってその子に駆け寄ってしまった。
麗美も俺の上着の裾をギュッと握りながら、彼女を気遣うような視線を向けている。
そして俺も、驚きながらも少しだけ心配になってしまった。
「ま、まだだ……まだ目覚めるのは早い。姫の力がお戻りになる前に封印が解けては、竜の力が抑えきれなく……くっ!」
「……」
どうやら、心配するだけ無駄なようだった。
別に彼女は、体調が悪くなったわけではない。
彼女の言を借りるのであれば、封印が解けそうになっただけ。
要するに、中二病の発作が起きただけだ。
「帰るぞー、咲ー」
俺はもう関わる必要はないと判断し、咲の手を引いて下駄箱の方へと歩きはじめた。
「え、でも……」
「大丈夫だって。あれはある意味思い込みとかだから」
「思い込み?」
「あー、あとで説明する。ってか、緑青は最初からわかってただろ」
「ぐふふ~。あの子、有名だから」
「そうなんですか?」
「今年入ってきた一年生で、自称アトランティスの騎士、ジャーゴン・ヴイ。本名は紺野碧さん。ジュピター計画に従って、姫の生まれ変わりを探してるんだって」
「はー、すげえなそれ。その設定、自分で考えたのかな」
上履きを脱いで、外履きに履き替える。
咲はまだ気になっているのか、廊下でうずくまるジャーゴン・ヴイこと、紺野さんの方を見ている。
「気にするなって咲。懐かれるとあとあと面倒だぞ?」
「うん。なんとなくわかるけど……」
まあ捨て猫と見れば構わずにいられない咲だからな。気になるのはしゃーない。
だがあれは、捨て猫とは違う。
自分の好きで、あの世界観に没頭しているのだ。
こっちまで付き合ってやる必要はない。
「ほら行くぞ。のんびりしてたら、ラッシュの時間になっちまうぞ」
「うん」
ようやく咲は諦め、俺たちのあとを追ってきた。
ジャーゴン・ヴイさんは、俺たちの方を見ながら空いている方の手を伸ばし、なにやら声を出している。
「姫ー!」
その視線は俺を捉えていたようだが、たぶん気のせいだろう。
なにしろ、俺は姫の生まれ変わりなんかじゃないからだ。
その可能性があるとしたら、たぶん麗美だろう。
もしくは咲か緑青。
とにかく、俺じゃないことは確かだ。
近づいてくるまで性別すらよくわからなかった女子生徒の言葉に、俺たちは固まってしまった。
緑青を除いて。
そんな俺たちに、さらに彼女は言葉を続ける。
「ようやくお会いすることが叶いました、姫!」
もうわけがわからなかった。
同じマント系の人としてエイィリ先輩を思い出したりもしたが、あの人に比べてもはるかにこっちの子の方がわけがわからなかった。
俺は困惑したまま咲と麗美を見る。
咲も麗美も、俺と同じようにわけがわからなくて困っているようだった。
ただし、緑青だけは別。
面白がるように、ニヤニヤと俺たち四人を見ていた。
「困惑なされるのも当然でしょう。なにしろそれがし、今はこんなナリですから」
それがし、と来たか……。
見た目もアレだったが、話し言葉もかなりキテいた。
そしてなにやら、妙な違和感がまとわりついてくる。
「前世の姿でしたらすぐにおわかりいただけるのでしょうが、今生ではそれがし、女性に生まれついてしまったもので」
やっぱりか。
俺の中でモヤモヤしていたものが、明確な形をとりはじめる。
時代がかったお芝居のような台詞回しと立ち居振る舞い。
そして自分をそれがしと呼ぶ明らかなヤバさ。
俺は目の前でひざまずいている女の子をとりあえず無視することにした。
「行こうぜ」
「でも」
咲と麗美、二人の手をとり先を促す。
麗美は素直に俺の言うことを聞いてくれそうだが、咲は謎のマント少女のことが気になるようだった。
「お待ち下さい、姫!」
マント少女が立ち上がり、追いすがってくる。
俺は面倒なことになったなと思いつつ、咲と麗美を背中にかばいながら彼女と正対した。
マントの子がどっちを姫だと思いこんでいるのかはわからなかったが、どちらだったとしてもこれ以上帰る時間が遅くなるのは正直ダルい。
奇妙キテレツな登場人物は、もう十分間に合っているのだ。
「あのね、よくわからないけど俺たちもう帰るところだから。それに咲も麗美も姫とかじゃないし。いやまあ、麗美は姫みたいなとこもあるけど」
行く手を遮り、邪魔をしている俺を彼女はじっと見てくる。
正面に立ってみてはじめてわかったが、この子意外とでかい。
前世が男だというのも、あながち冗談ではないのかもしれない。
いやまあ、前世なんてもの自体があるのかどうかもわからんけど。
「ぐわあああっ!」
「なっ!」
唐突にその子が自分の右目を押さえてうずくまる。
「ど、どうしたの?」
咲が心配になってその子に駆け寄ってしまった。
麗美も俺の上着の裾をギュッと握りながら、彼女を気遣うような視線を向けている。
そして俺も、驚きながらも少しだけ心配になってしまった。
「ま、まだだ……まだ目覚めるのは早い。姫の力がお戻りになる前に封印が解けては、竜の力が抑えきれなく……くっ!」
「……」
どうやら、心配するだけ無駄なようだった。
別に彼女は、体調が悪くなったわけではない。
彼女の言を借りるのであれば、封印が解けそうになっただけ。
要するに、中二病の発作が起きただけだ。
「帰るぞー、咲ー」
俺はもう関わる必要はないと判断し、咲の手を引いて下駄箱の方へと歩きはじめた。
「え、でも……」
「大丈夫だって。あれはある意味思い込みとかだから」
「思い込み?」
「あー、あとで説明する。ってか、緑青は最初からわかってただろ」
「ぐふふ~。あの子、有名だから」
「そうなんですか?」
「今年入ってきた一年生で、自称アトランティスの騎士、ジャーゴン・ヴイ。本名は紺野碧さん。ジュピター計画に従って、姫の生まれ変わりを探してるんだって」
「はー、すげえなそれ。その設定、自分で考えたのかな」
上履きを脱いで、外履きに履き替える。
咲はまだ気になっているのか、廊下でうずくまるジャーゴン・ヴイこと、紺野さんの方を見ている。
「気にするなって咲。懐かれるとあとあと面倒だぞ?」
「うん。なんとなくわかるけど……」
まあ捨て猫と見れば構わずにいられない咲だからな。気になるのはしゃーない。
だがあれは、捨て猫とは違う。
自分の好きで、あの世界観に没頭しているのだ。
こっちまで付き合ってやる必要はない。
「ほら行くぞ。のんびりしてたら、ラッシュの時間になっちまうぞ」
「うん」
ようやく咲は諦め、俺たちのあとを追ってきた。
ジャーゴン・ヴイさんは、俺たちの方を見ながら空いている方の手を伸ばし、なにやら声を出している。
「姫ー!」
その視線は俺を捉えていたようだが、たぶん気のせいだろう。
なにしろ、俺は姫の生まれ変わりなんかじゃないからだ。
その可能性があるとしたら、たぶん麗美だろう。
もしくは咲か緑青。
とにかく、俺じゃないことは確かだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる