黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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15章 十五日目 健康診断

15-1 いつもよりバタバタしている朝

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いつものように朝が来る。
窓の外ではいつものように小鳥がさえずり……小鳥が……。

「?」

そういえば最近はあまり小鳥はさえずっていないようだ。
かわりに窓の外から聞こえてくるものがある。
それは……。

「ミーンミンミンミンミン」
「もうそんな季節か……」

部屋の中はエアコンで快適な温度と湿度が保たれていたが、窓の外は違う。
カーテンを開けた途端に飛び込んでくる強い日差し。それだけで部屋の温度が1℃か2℃上がったように思えてしまう。

「今日も暑くなりそうだな」

唐突に季節が変わったような気もするが、たぶん気のせいだろう。
毎日なんとなく生きてきたせいで、まったく気づかなかったに違いない。
まさか思いつきで季節が進んだりなんかしないだろうしな。

「さて」

パジャマから着替えた俺は階下に向かう。
今日は日曜日。
いつものように咲が朝食の支度をしに来てくれるが、いつものようには急かされたりはしない。
なぜなら、このあとの予定はなにも決まっていないからだ。

「遅いよ悦郎! 出かけるからとっとと準備するっ!」

あれ?

どうやら、今日は違っていたようだ。
海外遠征に行っていたはずのかーちゃんたちがいつの間にやら帰ってきていて、その上なにやら俺を急かしている。
咲もその準備を手伝っていることから、どうやら俺も出かけることはすでに決定されているようだった。

「っていうか朝ごはんは? 出先で食べる感じ?」

当然のように朝シャワーから出てきて頭をバスタオルでワシャワシャしていた美沙さんに尋ねてみる。
すると美沙さんは何かを企むような笑みを浮かべるだけで、俺の問いかけには答えてくれない。
どういうことかと思いながらキッチンのテーブルを見ると、明らかに朝食ではないがどことなく食べ物が入っていそうな包みが存在していた。

「もしかしてこれ? これって食べていいやつ?」

右から左に何か忙しそうにしていたかーちゃんが足を止める。
そしてひと言。

「食べられるんなら別に食べてもいいけど、そのままじゃ絶対にうまくないぞ」

それだけ言ってかーちゃんは、バタバタと足早に去っていく。
どうやら寮の方でも、何かの準備をしているようだった。

「……」

どういうことかと思いながら、包装紙を剥がしていく。
かーちゃんの言う通りなら食べられないわけではなさそうだから、いけそうならとりあえずのつなぎとして軽くつまませてもらおうと思った。
だが……。

「なるほど、こりゃ無理だ」

どうやらそれは、誰が買ってきてくれたのかはわからないが、海外遠征のお土産っぽかった。
ちょっとだけ胡麻っぽい、白いツブツブ。
確かテレビかなにかで、なんとかシードとかいう名前で紹介されてた記憶がある。

「なんかに混ぜて食べたりするんだっけか」

主食というかおつまみというか、ともかくそういったものには一番向いてなさそうな代物だった。
咲あたりに任せれば、きっと何かしらの料理にうまく活用してくれるんだろうが……。

っていうか、マジでどこに出かけるつもりなんだ?

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