黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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15章 十五日目 健康診断

15-5 いつもよりもハイテクな測定機器

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問診が終わり待合席のソファで一息つく。
手持ち無沙汰になりマガジンラックを覗いてみるが、ろくな本がない。
というか、そもそも普段からそんなに本を読まない俺にとってろくな本ってなんだろう、などという素朴な疑問が思い浮かんできてしまった。
俺はソファに身体を沈めたまま、そのどうでもいい疑問に思考を巡らせてみる。

「黒柳さーん、採血の準備ができましたー」

当然のことながら、その疑問に答えは出なかった。
俺はその疑問を放り出して、採血室へと向かう。

「どっちの腕から取りやすいとかありますか?」

毎回繰り返される同じ質問に、俺もまた同じ答えを返す。

「別にないです。でもいつも左腕から取られてます」
「ん。じゃあ今回もそうしますね。もしダメだったら右腕で」
「はい」

マスクで顔が半分隠れているために判断しづらいが、おそらく去年と同じ看護師さん。
とはいえ、向こうは何人もの人の血を抜いているのだろうからこっちのことを覚えているとは限らない。
俺にとっては年一の検査だけれども、向こうにとっては毎日のことなのだろうから。

「相変わらずきれいな血管してるよね。みんなこのくらいわかりやすいといいのに」

軽くパンパンと俺の肘の内側を叩きながら、血管を確認する看護師さん。
どうやら、俺のことを覚えているらしい。

「アルコール消毒とか大丈夫だよね」
「はい」
「じゃ、ちょっとヒヤッとしまーす」

スーッとするその感覚で、緑青のことを思い出した。
そういえば学校でも、そのうち予防接種があるとか言っていた。
っていうかマジで、俺は自分のスケジュールもあんまり把握してないんだな。

「チクッとしますよー。もし強い痛みがあったり、指先がしびれたりしたら言って下さいねー」

そんなことを考えている間に、俺の腕には細い針が突き刺されていた。
チクッとよりももう少し強い痛みが走ったが、我慢できないほどではないしたぶん大丈夫なのだろう。
俺は自分の血が抜かれていくのが嫌で、軽く顔をそらした。

「はい。じゃあ抜きますからね。またちょっとチクッとしますよ」

注射針が引き抜かれる。
錯覚だろうが、俺の腕が軽く引っ張られるような感じがする。

「このまましばらく押さえててくださいね。揉むのはダメですよ」

血を抜いた場所に止血パッチが貼られ、固定用のバンドが巻かれる。

「次は身体測定です。待合席でお待ち下さい」

促されるままに、俺は待合席に戻った。
そろそろバンドを外してもいいのかな、なんてことを考えていると、測定室の扉が開かれて中から出てきた看護師さんと目が合う。

「黒柳さん、どうぞ」

今度は男性の看護師だった。
俺は男性看護師の開けてくれた扉をくぐり、測定室に入る。

「あ、バンドもらっちゃいますね。もう押さえてなくて大丈夫ですよ」

止血パッチを上から押さえていたバンドが外される。
キューッと血流が回復するような感じがしたが、それもたぶん俺の錯覚だろう。

「じゃあスリッパ脱いでここに立ってくださいね。かかとが後ろにつく感じで。体重と身長、同時に測りますからね」

学校の保健室にあるような体重計や身長計とは違う、デジタルなハイテク機器。
もしかするとよその学校にはこんな感じのピピッ測れるるようなものもあるのかもしれないが、うちにはまだない。
寮にある体重計なんかは、どこかの銭湯でいらなくなったのをもらってきたって話だ。

「はい、終わりました。じゃあ次は視力検査です。そちらの椅子に腰掛けて、この部分を覗き込んでくださいね」

そんな感じで身長体重視力聴力と、いろんなものの測定検査が進んでいく。
そのどれもがハイテクっぽい機器で、学校の身体検査で使うものとはまったく違っていた。

まあ、ここはそのための専門の施設だし、かなり儲かってるようにも見えるからな。
学校と比べちゃいけないか。

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