黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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15章 十五日目 健康診断

15-4 いつもどおりなことを確認する問診

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案内された更衣室でパンツ一枚になり、検査用ウェアに着替える。
肌触りはちょっとだけジャージに似ているが、それよりももっとずっと高級な感じもする。
もしかすると俺の普段着よりも、この検査着の方が値段が高かったりするのかもしれない。

「終わりました」

着替えて更衣室から出る。
そこで待っていた青丹さんに導かれ、いくつもの扉の前に並べられた待合席のソファに腰掛ける。
当然ながら、このソファもふかふかで最高の座り心地だ。

「もういつものことだからわかってると思うけど、最初は問診ね。そのあとのことは随時指示があるから、それに従ってちょうだい」
「了解です」

そう言い残して青丹さんは去っていく。
たぶん、受付カウンターで別の仕事があるのだろう。
確認しにいったことがないからわからないけど。

    *    *    *

そうしてしばらく待合席で待っていると、準備ができたのか診察室の扉が開いた。
そしてこちらも顔見知りの看護師さんが俺を招き入れる。

「黒柳さん、どうぞ」

青丹さんとは違った、ビジネスライクな対応。
別に機嫌が悪いとかそういうわけではなく、いつもこんな感じの人なのだ。
顔立ちがものすごい美人なだけに冷たく見えるけれども、それがいいという人もいるらしい。
俺はまあ、別にどっちでもいいけど。

    *    *    *

「えーっと、フルネームお願いできるかな」

去年よりも若干頭が寂しくなったような気がする黒縁メガネのじいちゃん先生が俺に尋ねてくる。

「黒柳悦郎です」
「ん。正解。じゃ、いくつか質問していくから答えてね」
「はい」

さっき記入した問診票の内容が、じいちゃん先生によって確認されていく。
当然のことながら、俺はすべての項目に首肯するだけだ。

「相変わらず健康だねえ。羨ましい限りだよ」

そう言いながらじいちゃん先生は書類にサインをする。
その間にクールな看護師さんが、血圧計の準備をした。

「はい。じゃ、腕出して。どっちでもいいよ」

とは言うものの、血圧計がセットされているのは俺の左側だ。
別に何かこだわりがあるわけでもないので、そのまま素直に左腕を差し出す。
看護師さんが黒い腕帯を巻きつけてくれる。
そのときに、ひんやりとした細い指が俺の腕に一瞬触れた。
もしかしたら今ので血圧が上がっちゃう人もいるんじゃなかろうか、などと思わず思ってしまった。
もちろん俺は平気だけれども。
たぶん。

そしてじいちゃん先生がゴム球をニギニギし、シュコシュコと空気を送り込んでくる。
メガネを軽く直しながら、血圧計の数値を読み取るじちゃん先生。

「120の……70ね。ま、そんなもんだわな」

プシューッと腕帯から空気が抜け、俺の腕が開放される。
そもそも血圧に関する知識がほとんどない俺には、それが高いのか低いのかもよくわからない。
だがまあ、じいちゃん先生が問題ないって顔してるし大丈夫なんだろう。

そして次に腹囲を測られ、最初のメニューである問診は無事に終了した。

まあ問診で何か問題が起きることなんてないんだけどな。

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