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15章 十五日目 健康診断
15-9 いつもどおりなのかいつもどおりじゃないのかわからない一日
しおりを挟む「あれ?」
いつの間にか俺は、カーテンで囲まれた場所に戻されていた。
視線の先には白い天井。
照明の落とされた落ち着く薄暗がりで、俺は眠っていたようだった。
(胃カメラって……もう終わったのか?)
思い出そうとしても、その記憶は俺の中にはまったくなかった。
静脈に落ち着く薬とやらを入れられて、ちょっとフワーッとしたと思ったら、そこでシーンが途切れている。
胃カメラを飲み込む記憶も、それで胃の中を映された記憶も、いろいろされたはずなのにこれっぽっちも覚えてなかった。
(もしかして寝てた?)
機械に囲まれたあの場所に連れて行かれたのは夢で、俺はここでずっと寝ていたのかもしれない。
そんな気持ちにもなったが、左腕に残る二つの止血パッチはあれが夢ではないことを示していた。
(これがあるってことは実際にあそこに連れて行かれて、そんで管をつなぎ直して、落ち着く薬を注射されたんだよな……)
どこからどこまでが実際に起きたことなのかがわからない。
たぶん覚えている部分までは実際に起きたことなのだろうが、そのあと何があったのかはまったく思い出せなかった。
(俺、ちゃんとできたのかな)
覚えている限りの記憶の中では、あの機械がいっぱいある部屋では別の人たちも同時に胃カメラを飲んでいるようだった。
そしてその人たちに指示するお医者さん(?)の声も聞こえていた。
曰く、「○○さーん、そのまま飲み込んでくださーい」や「××さーん、ちょっと身体ひねってくださーい」や「△△さーん、強く噛みすぎないでくださーい」などだ。
ということはつまり、胃カメラを飲み込んだあとでもこちら側でやることがそれなりにあるということだ。
それはそうだろう。
いくら向こうが操作するとはいえ、あの胃カメラを飲み込むのはこっち側の作業だ。
喉に差し込まれた胃カメラをごくごくと飲み込んでいく。
その動きは、俺の方でやらなければいけない。
(そんなことしたのか? 全然覚えてないぞ)
もしかすると、俺がマジ寝してしまってまるで反応しないので、目覚めるまで処置が延期になったとか。
そういうことがあるのかどうかすらわからなかったが、ないとも言い切れなかった。
胃カメラなんてものを飲めばなんらかの違和感が残っているはずだが、それもまったく感じなかった。
(やっぱり、できなかったのかな。検査)
とりあえず放置されたままですることがなかったので、俺はそのままストレッチャーの上に横になっていた。
ふわふわで軽い布団は寝心地がよく、そうしている間にまたしても俺は眠りに入ってしまった。
「……ん?」
シャーッとカーテンを開ける音で俺は目覚める。
「ご気分はいかがですか?」
クールさんがささやくような声で俺に問いかけてくる。
耳元で発せられたその声にくすぐったさを感じながら、俺は答える。
「大丈夫です。えと、質問いいですか?」
「いいですよ。どこか具合でも?」
「いえ、そういうのは全然大丈夫です。ただ、少し気になって」
「気になる?」
「はい」
俺は身体を起こす。
やはり、どこにも違和感はない。
クールさんは俺を支えるように、背中に手をやってくれた。
「胃カメラって、もう終わったんですか?」
「はい。終わりましたよ」
「全然覚えてないんですが……」
「ふふっ。ぐっすり眠っていたみたいですね」
「寝たままでも大丈夫だったんですか? 飲み込んだりとか、俺の方でも何かしないといけなかったんじゃ」
「あら、そこも覚えてないんですね。ちゃんと対応してましたよ」
「え、そうなんですか?」
「はい。問いかけにも答えてましたし」
「……」
まったく身に覚えがなかった。
とはいえ検査が終わったと言われれば、そのままそこで寝ているというわけにもいかず……。
「立てますか? ふらついたりとかはありませんか?」
クールさんに支えられながら、俺はストレッチャーから降りる。
「ちょっとふわふわしますけど、平気です。これ、どのくらいで収まりますか?」
「個人差はありますけど、30分から1時間くらいすれば大体収まるみたいですね」
「そうですか」
そのあと俺は青丹さんに導かれ、更衣室へと戻った。
着替えたあと、ロビーに誘導される。
少し休んだら自分のタイミングで帰っていいからねと言い残し、青丹さんは仕事に戻る。
* * *
こんな感じで、まるで狐につままれたような気分になりながら俺の胃カメラ初体験は終わった。
そのあと、今日は消化のいいものを食べて下さいという注意があったにも関わらず、かーちゃんたちには焼き肉に連れて行かれた。
なんでも、検査で抜かれた血を取り戻すためには肉を食べる必要があるらしい。
なんだか不思議な一日であった。
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