黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
136 / 171
16章 十六日目 テスト勉強

16-1 いつもより少し暑い朝

しおりを挟む

いつものように朝が来た。
窓の外では朝早くからセミが鳴き、枕元ではスマホがピピピピと俺に起床を促している。

「あつ……」

寝ている間に上昇した室温が、許容範囲ギリギリになっていた。
カーテンを開けると窓からギラギラした陽の光が差し込んできて、さらに部屋が暑くなっていくような錯覚を覚える。

「そろそろ寝るときにもエアコンつけるかなあ」

ぼやきながらパジャマ代わりのジャージを脱ぎ、軽く汗を拭いてからTシャツに着替える。
エアコンの前に、寝るときの格好の衣替えの方が早そうな気もした。

「コンコンコン。起きてるー?」

ノックの声真似のあと、咲が俺の起床を確認してきた。

「起きてるぞー」

扉の向こうの咲に気をつけながら、部屋の扉を開ける。
廊下からの風が、わずかに部屋の中に涼気を運び込んでくれた。

「今日は暑いねー」
「まあ夏だしな」

そんなことを話しながら、咲とともに階段を降りる。

「朝食の準備しておくから、シャワー浴びるならパパっとお願いね」
「あー、朝シャワーか。どうするかな」

リビングのところで咲と別れ、俺は洗面所へと向かう。
顔を洗って口をゆすぎ、濡らしたタオルを固く絞って汗を拭う。

「シャワー浴びると微妙に疲れるんだよな。確かにさっぱりはするけど、今日はまだいいだろ」

夏はまだ入り口。
避暑的行動フルコースを繰り出すには、少し早すぎるだろう。

「おはよー」

洗面所と違ってエアコンがバッチリ効いたリビングでは、美沙さんがくつろいでいた。

「あー、悦郎おはよー」
「おはようございます美沙さん。朝のトレーニングのあとでしょうからだらしない格好してるのは別にいいんですけど、ちょっと見えてますよ」
「おっと。こりゃまた失礼」

ソファに寝そべったまま、服装の乱れを直す美沙さん。

「悦郎、今日から部活ないんだっけ?」

俺より一足先に朝食を食べ終えたかーちゃんが俺に尋ねてくる。

「あー、そういえばそうだったっけ」

忘れていた……というよりも頭が意識することを本能的に避けていた気もするが、今日からテスト前の部活動休止期間だ。
期末テストまであと一週間。
試験勉強に専念するために、部活はしないで早く帰りなさいという学校側の配慮だ。

「ってことは帰り早いのか? 咲ちゃんも」

形としては俺に尋ねているが、たぶんかーちゃんが知りたいのは咲の情報だろう。
なにしろ、俺が早かろうが遅かろうが別に何も変わりはしないからだ。

「どうなんだ咲。また勉強会みたいのするのか? 部室で」
「んー、私は聞いてないよ。たぶんちーちゃん次第だと思う」
「あー、まあな」

俺たちの中で一番成績のいい緑青。
その緑青に勉強を教えてもらうのが、俺たちのいう勉強会の真の姿だ。
麗美もなかなか頭はいいみたいだから、これからは先生役に麗美も加わってくれるだろう。
たぶん。

「まあいいや。こっちのスケジュールは変わらないから、早くなるみたいなら連絡してくれよな」
「はい」

俺ではなく、咲が返事をする。
試合や遠征がないとき、かーちゃんは寮の方のトレーニング施設にいることが多い。
なので自宅の方は施錠されている。
もちろん俺も咲も鍵は持っているが、警備会社の関係もあってかーちゃんに連絡して解除してもらってから解錠したほうがいろいろと都合がいい。
まあ、面倒くさくて俺はほぼ咲に任せきりだが。

「あ、時間やばい。咲、ごはん」
「んもう、準備できてるってば」
「いただきまーす」

しゃべっている間にいつの間にか時間が過ぎてしまっていた。
とはいえ朝飯を食べねば力が出ない。
俺は可能な限りの最大限の時間をかけて、咲の作ってくれた朝食を今日も感謝をしつつ漬物まで残すことなくすべて平らげた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

処理中です...