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15章 十五日目 健康診断
15-8 いつもの概念がジャンプする
しおりを挟む「黒柳さん、移動しますよ」
シャーッとカーテンを開けてクール看護師さんが戻ってきた。
準備が整ったのか、俺を別の場所に連れて行くらしい。
立ち上がるのかと思ったが、そのままでと手で制止される。
そしてストレッチャーに乗ったまま、俺はいかめしい検査機器の並ぶ現場へと移送された。
(すげえ……なんかこういうの、ドラマとかで見たことある)
左向きで横になっているために背中側に何があるかは見えないが、俺の目の前には失敗しない女医さんが出てくるドラマで出てくるようなメカメカしい機器が、自分の出番を今か今かと待ち構えていた。
(うおっ、もしかしてあそこに俺の身体の中が映るのか?)
視線を上げると、そこにはモニターがあった。
何段か重ねられたラックの上部に設置されたモニター。
そこには、処置室の床がゆらゆらと揺れながら映っている。
その床を映し出せそうな場所に目をやると、黒いやや太めのケーブルのようなものが、そのラックの脇にぶら下げられていた。
(あれか? あれを俺はこれから飲み込むのか?)
思っていたほどの太さはなさそうだった。
だが、それでも難なく飲み込めるとは思えない。
咀嚼していい食べ物ならまだしも、あれはそうではない。
それなりの硬さのある(たぶん)、医療器具なのだから。
(っていうか、食べ物だってあの長さを飲み込んだりはしないよな……)
以前どこかの特産品だとかでかーちゃんが蛇みたいな太さのうどんをもらってきたことがあったけれども、あれよりも若干細い。
とはいえ、噛まずに飲めるかというと疑問だ。
あんなものを喉に突っ込まれたら確実に噛み付いてしまう。
そうしないためにはどうすればいいんだろうとか考えていたら、その答えがすぐにやってきた。
「黒柳さーん、これ咥えてくださいねー」
クール看護師さんとは別の看護師さんが、白い筒状のものを俺の口に咥えさせる。
抵抗することなく、俺はそれを口に含む。
中心に穴の空いたマウスピースのようなそれは、おそらくその穴の部分に胃カメラを通すのであろうと思われた。
(なるほどな、これで俺は喉をごくごくするだけで胃カメラを受け入れられるようになるわけか)
中途半端に開けられた口の中に、唾液が湧き出してくる。
「顔の横にタオル敷きますね」
当然それも対策済み。
これで俺は安心してよだれをダラダラ溢れさせることができそうだ。
しないけど。
「あれ」
「?」
さっきクールさんが俺の腕につないだ管を確認していた別の看護師さんが、困ったような表情を浮かべていた。
「どうかした?」
さらに別の看護師さんが俺周りに集まってくる。
(なんだろう……なにかトラブル発生かな)
収まりかけていた不安が湧き上がってきてしまう。
そんな俺を落ち着かせるかのように軽くポンポンと肩に触れながら、少し年配のベテラン看護師さんが説明してくれた。
「ちょっとルート取り直すからね。そしたら落ち着く薬入れるから、心配しないで」
テープで固定されていた管が外される。
そしてペタペタと俺の腕にしばらく触れたあと、そこから少し離れた場所に別の管が繋がれる。
(っ……さっきよりちょっと痛いかも)
急いでいるからなのか、少しだけ俺の腕の扱いが雑な気がする。
とはいえそれでもすぐにそれは気にならなくなってしまった。
管の先に繋がれた注射器から流し込まれた薬で、頭がクラクラとしてきたからだ。
まるでめまいがしているかのように、視界が揺れている。
だが不思議なことに、それはまったく気持ちが悪くはなかった。
むしろ気持ちがいい。
ふわふわした感覚に身を任せていると、いつの間にか時間が飛んでいた。
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