黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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16章 十六日目 テスト勉強

16-4 いつもどおりの勉強会の予定

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昼。
俺たちはいつものように机を動かし島を作り、弁当を広げていた。
そして、昼飯を食べながら期末試験に向けての対策を話し合っている。

「どうする? またいつもみたいに集まって勉強する?」
「そうだなあ……」

ベトナムのサンドイッチ、バインミーをモグモグと頬張りながら砂川が俺に聞いてくる。

「試験勉強、集まってするのですか?」

定期テストははじめての麗美が、不思議そうな顔をする。
たぶん優等生でエリートな麗美の感覚では、勉強は一人でするものなのだろう。
だが俺たちにとっては、それが難しい。
なぜなら、一人ではやる気が出ないし、たとえ出たとしてもすぐにくじけてしまうからだ。
それをオブラートに包んで、俺は麗美に説明してやる。

「わからないところを教え合ったりして、みんなで助け合うんだ」
「なるほど。それはとてもいいアイデアですね」

パンと両手を打ち合わせて、心底感心したといった風な表情を浮かべる麗美。
そういえば聞いてみたことなかったけど、麗美は自分の国では友人関係はどうだったんだろう。
なんとなく、あんまり同年代の友人はいなかったんじゃないかって気がしてしまう。
いやもちろん、それは俺の単なる思い込みなのかもしれないが。

「でしたら私のお家にみんなで集まるというのはどうでしょう」
「え? 麗美のうち?」
「おー、広そう」
「うちでしたらみなさん集まっても大丈夫ですし、もし必要であれば人数分の個室も用意しますので」

麗美がどれくらいの人数を想定しているのかはわからなかったが、俺の頭の中では高級ホテルの場所で俺たちを出迎える麗美の姿が思い浮かべられていた。
とはいえその想像も、当たらずとも遠からずな気もしなくもないが。

「残念。そこにうちの学校の謎の校則が立ちはだかる」
「そういえばそうだった」

緑青の言葉に、咲がため息を吐く。

「校則ですか? それはどういった……」

問いかけてくる麗美に、俺は生徒手帳をペラペラとめくって当該ページを見せてやる。

「校則第118条 男女が集まり、試験勉強することを禁じる」
「は?」

麗美の顔が驚きで固まる。
それはそうだろう。
あまりにもピンポイントな禁止事項に俺だってはじめて知ったときはそんな顔になった。

「まあでも、守ってる人そんなにいないけどね」
「去年その件で指導を受けた俺たち以外はな」
「うー」

咲が頭を抱える。
咲の珍しいうろたえように、麗美が慰めるように肩に手をやった。

「何かあったんですか?」
「あったといえばあった。なかったといえばなかった」

要領を得ない咲の説明に、麗美の顔にはてなマークが盛大に浮かび上がる。

結局この日の昼食は、うちの学校のわけのわからない校則の話と、去年どういうわけか俺の家で勉強していた咲が教頭に呼び出されて注意された話に終始した。

ちなみに勉強会は、男子は近藤の家。
女子は麗美の家でやることになった。


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