黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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17章 十七日目 期末テスト

17-2 いつもの場所にいつもとは違う人

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「いってきまーす」
「いってきます」
「おう。テストがんばってな」

朝食のあと、出かける準備を整えて俺と咲は家を出た。
俺たちの背中にかけられるかーちゃんや美沙さんの声。
それを受けながら、俺たちは問題の出し合いをしながら駅に向かって歩いていた。
さすがに今日はランニングはナシだ。

「テニスコートの戦い」
「惜しい。テニスコートの誓い」
「そっちかー」
「どっちよ」
「っていうかなんでテニスコートなんだ? テニスしながらいろいろ決めたのか?」
「そこしか場所がなかったんじゃない? 知らないけど」
「企業の偉い人がゴルフしながら大事な契約の話したりする感じか」
「さあ?」

細かい部分に寄り道しがちな俺を、咲が慣れた調子でスルーする。
そんな感じで歩いていると、いつもは見かけない物が俺の視界に飛び込んできた。

「あれって最近珍しくないか?」
「え? どれ?」
「ほら、あれだよ」

隣を歩いている咲に、それを指差して教える。
といってもあからさまに指差したりはしない。
小さく指だけ立てる感じで、大体の方向を指し示すだけだ。

「あ、ミニパトさん。確かに最近見かけてなかったかも」

駅前のロータリーにある駐停車禁止区域で、婦警さん(おそらく交通課)が取り締まりをしていた。
チェックされていたのはバスの停留所前に堂々と止まっている軽自動車だった。

「委託のみどりのおじさんたちじゃないんだね」
「いや、それとは別件みたい。ほれ、あっちでいつもどおりに駐禁取り締まってる」
「ホントだ」
「あれはまた別なのかもな」

バス停前に止められている軽自動車の写真を撮ったり、なにか書類のようなものを書き込んでいる婦警さんを横目に見ながら、俺と咲は駅の改札をくぐる。

ちょうどホームに着いた所で、緑青に合流した。
どうやら、いつもよりも少しゆっくりめの歩きになっていたようだ。
このところ走ってくるのが習慣になっていたせいで、ほんの少し油断があったのかもしれない。

「おはようちーちゃん」
「おはよう緑青」
「ん。おはよう2人とも」

そういえば、今朝の朝食は朝からカツ丼だった。
なんでもかーちゃん曰く、カツを食べてテストに勝て、だそうだ。
でもそれならカツサンドとかでもいいのに。
あれは絶対、かーちゃんもしくは美沙さんがカツ丼を食べたかったからに違いない。

で、なんでそれを思い出したかというと、その肉は当然のごとく、ろくしょうミートで仕入れた肉だからだ。

緑青の顔を見て朝食の肉のことを思い出す。
妙な連想のような気もするが、まあ人の思考なんてだいたいがこんなものだ。

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