黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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17章 十七日目 期末テスト

17-3 いつものようにはじまるテスト1日目

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「じゃあみんな、今日のテストがんばってね」

朝のホームルームが終わり、みどり先生はそう言い残して教室を去っていった。
いつもならこのあと、一時間目の授業がはじまるまでの短い間でも、クラスの連中はワーワーキャーキャーとよくわからないことでいろいろ盛り上がったりする。
しかし、今日は違う。

「ブツブツブツブツ……」
「サインコサインタンジェント……トライアングル・ドリーマー……」
「いいはこつくろう室町幕府……」

机に向かって、今日のために準備してきたことを復習する連中。
もう諦めて机に突っ伏して寝てしまっている奴ら。
準備万端なのか、余裕のある表情で教科書やノートを見返している上位層。
それぞれがそれぞれのスタイルで、テスト開始までの短い時間を過ごしていた。
そして、俺はといえば……。

「このときのxの値は……次の英文の日本語訳が……下関条約……」

準備不足がはっきりと露呈し、順調に混乱していた。

「今日も厳しそうだな悦郎」

もぐもぐと黄色い何かを食べながら砂川が俺に言ってくる。
いつもならそれはなんだと尋ね、うまそうなら一個くれと言ってるところだが、今日の俺にそんな余裕はない。
ただ手をヒラヒラと振って砂川を追い返し、3冊同時に開かれた教科書の前で、残り少ない時間を無駄にするかのように右往左往していた。

「そういえば悦郎って、何か得意な教科ってあったっけ」
「ないね。全教科まんべんなく苦手な感じ」
「それって、勉強が苦手ってことなんじゃないか?」
「ぐふふ。そうとも言う」

俺たちの中では優等生組の緑青と砂川が余裕をかましている。
ついでに咲は自分のノートを見返して一時間目の準備をしている。
っていうか、一時間目ってなんだっけ。

「砂川。一時間目の科目は?」
「数学。っていうか、それも把握してなかったのかよ」
「たぶん昨日まではしてた。今朝忘れた」
「お前なあ」

そういえば麗美はどうしているだろう。
確かはじめての定期試験で少し緊張していたはず。
俺は自分の準備不足から目をそらすかのように麗美に声をかけた。

「麗美は大丈夫か? こっちのテストははじめてだよな」
「はい。でも、転入試験がありましたから」
「あ、そうなのか」
「問題文さえちゃんと読めれば大丈夫だと思います。まだ、漢字はちょっと苦手なので」

といっても安心はできない。
なぜなら麗美の思っている苦手のレベルと、俺の思う苦手のレベルはまったく違っているからだ。
そもそも麗美は、枕草子を原文で読んだりしちゃうようなレベルの才女だ。
もちろんそのときには辞書の助けなんかがあったりするんだろうけれども。

「今日こそ決着をつけてやるわよ緑青!」

もうすぐ一時間目がはじまろうというその時間、騒がしいヤツが一人俺たちの席のそばに近づいてきた。

「もうすぐテストはじまるぞ。自分の席に行ってろ藤黄」

自分のことは棚に上げて、クラスで二番目のちびっこを俺はそいつ自身の席へと押し返す。

そしてチャイムが鳴る。
テストの時間がやってきてしまった。
もう間もなく学年主任がテスト用紙を持って教室に入ってくるだろう。

いつものことながら、この時間はテンションが最高にだだ下がりしてしまう。
これが終われば夏休み。
それだけが、俺にとっての唯一の救いだった。

(たぶん、補習はあるけれども)

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