黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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17章 十七日目 期末テスト

17-4 いつもより早い放課後

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「はいじゃあ今日はここまで。いつもの時間と違うから、気をつけて帰ってね」
「きりーつ、きをつけー、れい」

俺の一日目の戦いが終わった。

「どうだった悦郎」

俺と同じく憔悴した表情の近藤が俺に尋ねてきた。

「見ればわかるだろ?」

机に突っ伏したまま、近藤の問いかけに答える。

「そうか」

ポンポンと俺の肩を叩く近藤。
その手のひらから伝わってくる温かさが、近藤も俺と同じような戦果だったのだろうということが推察された。

今日の科目は数学と英語と世界史。
ヤマが当たった世界史はまだなんとかなった気がするが、数学と英語はこれっぽっちもできた手応えがない。
勘でどうにか解答欄はすべて埋めたが、あれだってどこまで意味があるか……。

「悦郎さん。今日はもう帰りなんですか?」

定期テストははじめての麗美が俺に尋ねてきた。

「ああ。今日はテストだけ。だからもうみんな帰る支度してるだろ」
「部活動とかそういった課外活動もなしですか?」
「そうだな。っていうか部活はもともと活動休止期間だろ」
「はい。あれはテストが終わるまで続くんですね」
「そういうこと。まあ、休止の理由がテスト勉強に集中するため、だしな」
「あ、麗美さん。委員会はあるからちょっと顔出してねー」
「はい」

通りすがりで咲の友達が麗美に声を掛けていった。
確かに試験中も委員会の活動はあったが、麗美はいつの間に委員に指名されてたんだ?
っていうか何委員だ?

「麗美、いつの間に委員になってたんだ?」
「先週からです。美化委員に欠員が出たとかで」
「あー」

そういえばこないだ中退した榎本さんって美化委員だったっけ。
あの子なんで学校辞めたんだ?

「っていうか麗美も何でも引き受けるなよ。忙しくなりすぎてないか?」

一学期の途中で転入してきた麗美。
もともと委員会には入っていなかったが、それでも部活の方は二つの部を兼部している。
俺の入っているオカルト研究部と、香染のやっているアイドル研究部。
まあ、うちはほとんどお茶会みたいなことしかしてないから兼部してても大丈夫だろうけど、そこに美化委員の活動なんか足したら大変なんじゃないのか?
いや……よく考えたら普通に部活と委員会を兼ねててる人なんかけっこういるか。
香染のお世話係の七瀬とか。

「ふふふ。大丈夫ですよ? ちゃんと全部楽しめてますから」
「そうか。麗美がそう思えてるならいい。でも、無理そうなら言えよな。自分で断りづらかったら、俺が言ってやるから」
「はい。ありがとうございます」

そして麗美は美化委員の集まりに顔を出しに行った。

「あれ? 麗美さんは?」

ちょうど入れ替わるように、女子の集団でトイレに行っていた咲が戻ってきた。
何をしているのかはよくわからないが、なぜか女子はトイレでよく盛り上がっている。
まあ、男子も違う意味でトイレで盛り上がったりしていることもあるが(デッキブラシと丸めた雑巾で野球をやって叱られた)。

「美化委員だって」
「え? 美化委員って……ああ。榎本さんだったっけ」

そんなに説明しなくても事情を理解する咲。
さすが有能。

「試験中でも集まりあるんだな。委員会は」
「でしょうね。学生としての活動がある以上、そこで発生するいろんなことを処理しないといけないんだろうし」
「よくわからんがわかった」
「あのねえ」

そのあとここに緑青と砂川も加わり、俺たちは麗美が戻ってくるまでの間、今日のテストの出来についてや明日のテストの科目についてなど、あまり俺が加わりたくないようなことを話しつつ時間を潰した。

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