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18章 十八日目
18-4 いつもとは違う場所の年一の掃除
しおりを挟む「ってわけで、準備はいいかお前らー」
「はーい」
ピシッとポマードで髪型を決めた筋肉質な体育教師。
春日部の声がプールサイドに響く。
「自習じゃなかったのか……」
「なんだ悦郎。お前教室でノート広げて勉強したかったのか?」
「いや、それならこの方がずっといいけどよ。てかなんでうちのクラスがプール掃除なんだよ」
「持ち回りなんだってよ。去年は3組と4組がやったらしいぞ」
「って、それ去年の2年生じゃねえかよ」
「まあそう言うなって。学校なんてそんなもんだ」
微妙に納得のいかない部分もあったが、大体においては近藤の言う通りだ。
俺がここで抵抗したとしても何かが変わるわけではない。
というか別に、プール掃除が嫌なわけでもない。
いやむしろ、自習なんかさせられるくらいなら楽しいのではないか。
そんな風に思いはじめた俺の思考に、春日部がガツンと一撃を食らわす。
「黒柳ー、デッキブラシでホッケーとかやるんじゃないぞー」
「なっ!」
頭の中に思い描いていた未来が、無残に打ち砕かれた。
「プール掃除でデッキブラシホッケーをやらないとしたら、いったい何をやればいいんだ……」
がっくりとプールサイドに膝を突く。
ブツブツの床材が膝に刺さってちょっと痛い。
「そんなのプール掃除に決まってるだろうが。じゃあ女子は更衣室とシャワールームなー。ほらー、ついてこーい」
「はーい」
冬の間に緑に色づいたプールの水がゆっくりと抜けていく。
四つん這いになった俺以外の男子は、三々五々プールサイドに散って掃除をはじめていた。
「喰らえ! 悦郎!」
「え?」
近藤の声に、四つん這いのまま俺は顔を上げた。
その顔に、ホースから噴き出した水が勢いよく浴びせかけられた。
「うわっぷ! うぷぷぷぷぷぷっ! なにすんじゃ!」
俺は立ち上がり、傍らに出しっぱなしになっていたビート板で防御する。
「ふっふっふ。その程度で俺の攻撃が防げると思ったか。拡散水流破!」
「ぬわっ!」
押しつぶされたホースの口から、幾筋かの分かれた水が俺めがけて飛んでくる。
俺はその一本をどうにかビート板で防いだが、それ以外のものはどうにもならない。
おかげで足元はびちゃびちゃ。
それだけでなく上から降ってきた水によって、俺の頭はびしょ濡れにされてしまった。
「近藤めえ」
ビート板を投げ捨て、俺は近藤へ反撃するべく水道の蛇口へと取り付いた。
そして強引にホースを引き抜く。
「なっ! 悦郎それはズルい!」
「ズルくない!」
ホースを引き抜いた蛇口を握り込み、親指の角度を調整してハンドルをひねる。
「うおおっ!」
ビシャーっと近藤めがけて水流が発せられる。
濡れ鼠になりながらも近藤は、ビート板を拾って必死に防御をしはじめた。
「こら」
「いて!」
パコンと柔らかい感触で俺の頭が叩かれる。
振り向くとそこには、例の1組の女子が立っていた。
その手には、プラスチック製のメガホンが握られていた。
「ちゃんと掃除やりなさいよ。近藤も!」
「「うえーい」」
それだけ言うと、彼女は更衣室の方へと戻っていく。
今ごろ向こうでは、女子たちが掃除をしているはずだ。
「仕方ない。やろうぜ近藤」
「ああ」
なぜ俺だけが叩かれる……と世の理不尽さを嘆きながら、俺は近藤と共にプールサイドの掃除をはじめた。
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