黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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18章 十八日目

18-3 いつもどおりじゃなかった朝の授業

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学校に着くととっととシャワーを浴び、汗まみれになったジャージとTシャツとパンツを着替えた。
脱いだものはサッカー部から借りた洗濯機をぐるぐる回して、放課後にはしっかり乾いている予定。
この季節そのままにしておくと、途端にカビが生えたりするからな。

え? 咲の着替え?
知らん。

そうして俺たちは部室から朝の教室に移動する。

「おはよー」
「おはよう陽ちゃん」
「よう近藤。生きてるな」
「お前もな悦郎」

いつもの連中と挨拶を交わしながら、自分の席に着く。
カバンの中の荷物を机に移し、黒板を見た瞬間俺の表情が固まった。

「は?」
「は? ってなんだよ」

俺の隣りにいた近藤が不審なものでも見るかのような表情で俺を見ていた。

「いやだってお前、午前全部自習とかどういうことだよ」
「どういうって悦郎、お前なあ」

近藤の表情が不審げなものから、呆れへと変わる。
どういうことかと、今度は俺の方が不審な表情を浮かべた。

「みどりちゃんの説明聞いてなかったのか? 今日から明後日までは自由登校だって」
「え……じゃあ来なくてもよかったのか?」
「そうだよ。日曜はさんで来週はテスト返却があるから来ないとだけど、もう授業らしい授業は二学期までないぞ」
「しまったー」

衝撃の事実に、俺は机に突っ伏してしまう。
とはいえ、授業がないというのであればそれほど悲観する必要はないのではないか。
瞬間的にそう判断した俺は、伏せていた顔を上げた。

「なあ近藤」
「なんだ」
「自習ってことは、なにしててもいいんだよな」
「まあ限度はあるだろうけどな」
「じゃあ体育の自習やろうぜ。体育の」
「ほう」

俺のアイデアに、乗り気な雰囲気の近藤。
興味深そうに、俺の話に耳を傾けてくる。

「体育館でもグランドでもどっちでもいいや。なんかの試合しようぜ。男たち集めてよ」
「ナイスアイデア」
「ざーんねん。自習だけど監督の先生くるからそういうのは無理でしたー」
「え?」

不意に掛けられた声に、俺と近藤が顔を上げる。
するとそこにいたのは、他のクラスの女子だった。

「えーっと……誰?」
「は?」
「悦郎、お前なあ……」

呆れたような表情の近藤と、呆気にとられたような女子。
そんな俺を見かねて、咲がその女子の正体を俺に教えてくれた。

「1組の天田中あまたなかさんよ。体育委員でいつも連絡事項とか近藤くんに伝えに来てるじゃない」
「いやそりゃそれで絡んでる近藤とか、一緒に体育の授業受けてる女子は知ってるかもしれないけどよ、俺にとっては隣のクラスの女子でしかないじゃん」
「まあ、そうだけどさ」

とはいえ確かに、俺はけっこう他のクラスの女子のことを知らなかったりもする。
まあ、香染みたいに目立つやつは別として。

「で、その1組の天中さんはどうしてここにいるんだ? 1時間目は体育じゃないよな」
「天中じゃなくて天田中です。天田中雫あまたなかしずく
「はいはい。よろしくな。で、なんの用だ?」

聞いているのは俺なのに、なぜか天田中は近藤の方へと話を振る。

「まだ言ってないの? 近藤」
「いや、来てるクラスの他の連中には言った。悦郎だけが知らない」
「そっか」

近藤の説明で納得したのか、天田中は咲に何かを言ってから教室を出ていこうとした。

「おいおいおいおい、ちゃんと説明していけよ」

俺はそんな天田中を呼び止める。

「説明なら近藤がしてくれるから、そっちから聞いて。私は自分のクラス面倒みなきゃいけないんだから」

それだけ言うと、ひらひらと手を降って天田中は出ていった。

一体何だったんだ。
俺のその疑問は、すぐに氷解することとなった。

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