160 / 171
18章 十八日目
18-7 いつもとは違う夕焼け
しおりを挟む「うおー、疲れたー」
デッキブラシを放り出し、プールサイドに大の字に寝転がる。
床面から感じるわずかな振動。
耳に届いてくるジャバジャバという大量の水の流れる音。
1組と2組の登校しているメンバー合同で行われたプール掃除が、ようやく終わった。
「はいお疲れ様」
「サンキュー」
購買で買ってきたのか、咲がペットボトルの麦茶を俺に渡してくれる。
俺は身体を起こしながら、それを受け取った。
「お、冷たっ。よく冷えてるな」
「だよねー。さっき麗美さんの黒服さんたちが配ってた。温度管理バッチリって感じ」
「あー、そういうことな」
今日いちばん働いたのは当然プール掃除をした俺たちだが、それをしっかりと支えてくれたのは麗美のとこの黒服さんたちかもしれない。
いつもよりもずっと俺たちに関わってきてくれたのは、通常の授業じゃなくて自由登校になっているからかもしれない。
「お疲れさまでした」
「おう麗美。そっちもお疲れ」
プールサイドに座る俺の隣に、麗美も腰を下ろす。
いつの間にか現れた是枝さんがサッと小さなラグのようなものを麗美の下に敷いたのはさすがとしか言いようがない。
ちなみに麗美の逆サイドには咲が腰を下ろしている。
こっちは自分で自分の尻の下にハンドタオルを敷いたようだ。
「日が暮れてきましたね」
「そうだな」
いつもならもうとっくに下校している時間。
自由登校なのをいいことに、体育の春日部は俺たちを放課後相当の時間までこき使いやがった。
まあ、年に一度のプール掃除とか妙に楽しいから別にいいんだけどな。
それに、帰りたいやつはとっとと帰ってるし。
「あ、猫だ」
「何言ってんだお前」
「だって猫」
「こんなとこに猫なんているわけないだろ」
「ほら、あそこ」
突然変なことを言い出した咲にツッコミを入れる。
しかしながらそれは、別に変なことでもなんでもなかった。
「ホントだ」
ちょうど俺たちと反対側。
25メートルプールの逆サイドに、一匹のしましま柄の猫がちょこんと座っていた。
「妙に神々しいな」
「そうだね」
その猫はちょうど夕日を背中に受け、まるで後光が指しているかのように輪郭が微妙に光って縁取られていた。
よっぽど機嫌がいいのか、長めのしっぽの先がぴょこぴょこ動いている。
「ふふふ。あの子もプールがきれいになって嬉しいのかもしれませんね」
「俺たちが知らなかっただけで、毎日通ってくる猫なのかもな」
「確かに」
その時だった。
パシャっと俺たちの背後でシャッター音が鳴る。
「なんだ?」
振り向くとプールの入口に、デカめのカメラを構えた女の子がひとり立っていた。
「猫撮ってるのかな」
「まあ確かにあれはエモいな」
「なんとか映えとかしそうだよね」
「もしかして俺たち、邪魔かな」
「あー、確かに。わかんないけど、どいたほうがいいかも」
立ち上がりかける俺たち。
するとその子は、手だけでその動きを制してきた。
「え?」
「そのままここにいろってことかな」
「俺たちも含めた風景を撮ってるのか?」
「じゃあ変に振り返ったりしない方がいいのかも」
わからないまま、俺たちはまたさっきのようにプールの逆サイドにいる猫の方を見る。
すると背後からパシャパシャとシャッター音。
やはり、俺たち込みで構図を作っているようだった。
「写真、上げる前に確認とかさせてくれるのかな?」
「あとで聞いてみようか」
「大丈夫です。もう是枝が彼女の後ろで待機してますから」
「あー」
どノーマルな一般人である俺たちよりも、それなりのお金持ちのお嬢様である麗美の肖像権は、よりゴリゴリに保護されているようだった。
まあ、誘拐とか怖いこといっぱいあるしな。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる