黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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18章 十八日目

18-7 いつもとは違う夕焼け

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「うおー、疲れたー」

デッキブラシを放り出し、プールサイドに大の字に寝転がる。
床面から感じるわずかな振動。
耳に届いてくるジャバジャバという大量の水の流れる音。
1組と2組の登校しているメンバー合同で行われたプール掃除が、ようやく終わった。

「はいお疲れ様」
「サンキュー」

購買で買ってきたのか、咲がペットボトルの麦茶を俺に渡してくれる。
俺は身体を起こしながら、それを受け取った。

「お、冷たっ。よく冷えてるな」
「だよねー。さっき麗美さんの黒服さんたちが配ってた。温度管理バッチリって感じ」
「あー、そういうことな」

今日いちばん働いたのは当然プール掃除をした俺たちだが、それをしっかりと支えてくれたのは麗美のとこの黒服さんたちかもしれない。
いつもよりもずっと俺たちに関わってきてくれたのは、通常の授業じゃなくて自由登校になっているからかもしれない。

「お疲れさまでした」
「おう麗美。そっちもお疲れ」

プールサイドに座る俺の隣に、麗美も腰を下ろす。
いつの間にか現れた是枝さんがサッと小さなラグのようなものを麗美の下に敷いたのはさすがとしか言いようがない。
ちなみに麗美の逆サイドには咲が腰を下ろしている。
こっちは自分で自分の尻の下にハンドタオルを敷いたようだ。

「日が暮れてきましたね」
「そうだな」

いつもならもうとっくに下校している時間。
自由登校なのをいいことに、体育の春日部は俺たちを放課後相当の時間までこき使いやがった。
まあ、年に一度のプール掃除とか妙に楽しいから別にいいんだけどな。
それに、帰りたいやつはとっとと帰ってるし。

「あ、猫だ」
「何言ってんだお前」
「だって猫」
「こんなとこに猫なんているわけないだろ」
「ほら、あそこ」

突然変なことを言い出した咲にツッコミを入れる。
しかしながらそれは、別に変なことでもなんでもなかった。

「ホントだ」

ちょうど俺たちと反対側。
25メートルプールの逆サイドに、一匹のしましま柄の猫がちょこんと座っていた。

「妙に神々しいな」
「そうだね」

その猫はちょうど夕日を背中に受け、まるで後光が指しているかのように輪郭が微妙に光って縁取られていた。
よっぽど機嫌がいいのか、長めのしっぽの先がぴょこぴょこ動いている。

「ふふふ。あの子もプールがきれいになって嬉しいのかもしれませんね」
「俺たちが知らなかっただけで、毎日通ってくる猫なのかもな」
「確かに」

その時だった。
パシャっと俺たちの背後でシャッター音が鳴る。

「なんだ?」

振り向くとプールの入口に、デカめのカメラを構えた女の子がひとり立っていた。

「猫撮ってるのかな」
「まあ確かにあれはエモいな」
「なんとか映えとかしそうだよね」
「もしかして俺たち、邪魔かな」
「あー、確かに。わかんないけど、どいたほうがいいかも」

立ち上がりかける俺たち。
するとその子は、手だけでその動きを制してきた。

「え?」
「そのままここにいろってことかな」
「俺たちも含めた風景を撮ってるのか?」
「じゃあ変に振り返ったりしない方がいいのかも」

わからないまま、俺たちはまたさっきのようにプールの逆サイドにいる猫の方を見る。
すると背後からパシャパシャとシャッター音。
やはり、俺たち込みで構図を作っているようだった。

「写真、上げる前に確認とかさせてくれるのかな?」
「あとで聞いてみようか」
「大丈夫です。もう是枝が彼女の後ろで待機してますから」
「あー」

どノーマルな一般人である俺たちよりも、それなりのお金持ちのお嬢様である麗美の肖像権は、よりゴリゴリに保護されているようだった。
まあ、誘拐とか怖いこといっぱいあるしな。

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