3 / 4
深く、静かに君を抱く
しおりを挟む月日が流れていった。
言葉を交わさなくても、
一緒にいる理由は、静かに、確かに増えていった。
朝、畑へ向かう道を並んで歩くとき。
夕暮れ、囲炉裏の火を囲んで座るとき。
小さな仕草が、言葉よりも雄弁だった。
手を取ることも、
肩に触れることも、
いつの間にか自然になっていた。
最初は、ただ支えるためだった手が、
今では、離したくないという想いで繋がっている。
指先が絡む瞬間、互いの体温が溶け合う瞬間。
言葉で確かめる必要は、もうなかった。
その夜、月明かりが寝室を満たしていた。
小さな窓から差し込む白い光が、部屋を淡く照らす。
アリエルは窓辺に立ち、
静かに月を見上げていた。
白い寝間着が、月の光に透けて、彼女の輪郭を柔らかく浮かび上がらせる。
俺はそっと近づいた。
彼女は振り返らなかった。
でも、離れもしなかった。
そのまま、俺の胸に背中を預けるように寄りかかってきた。
肩に、彼女の頭の重みがのしかかる。
細い髪が頰をくすぐり、
甘い、薬草のような香りがする。
その小さな幸せだけで、充分だった。
俺は腕を回し、彼女を抱き寄せた。
アリエルは抵抗せず、むしろ体を預けるようにして、俺の胸に顔を埋めた。
言葉はない。
ただ、互いの呼吸が重なり、
心臓の音が、静かに響き合う。
月明かりの下で、
俺たちはゆっくりと布団に横たわった。
彼女の体は、驚くほど軽く、温かく、
俺の腕の中にすっぽりと収まった。
触れ合う肌の熱が、
静かに広がっていく。
指先から、肩から、胸から、
すべてが溶け合うように。
アリエルは目を閉じ、
俺の首に腕を回した。
その仕草が、信じられないほど優しく、
愛おしかった。
俺は彼女の額に、そっと唇を寄せた。
彼女の睫毛が、微かに震える。
互いの息が混じり、
世界が、二人だけのものになった。
どれくらい時間が経っただろう。
目を覚ましたとき、
彼女はまだ、俺の腕の中にいた。
同じ温度で、同じ呼吸で、
当たり前のようにそこにいる。
朝の光が、窓から差し込み、
彼女の髪を金色に輝かせる。
アリエルは、ゆっくりと目を開けた。
俺を見て、穏やかに微笑んだ。
その笑顔が、胸の奥を温かく満たす。
もう、ここにいる理由は、
十分すぎるほど、揃っていた。
俺はただ、
この時間が長く続くものだと、
疑いもしなかった。
アリエルの指が、俺の手に絡む。
静かに、強く。
この瞬間が、永遠だと思えた。
0
あなたにおすすめの小説
本音と建前のお話
下菊みこと
恋愛
感じることはあれどもあえてなにも言わなかったお話。
そしてその後のタチの悪い仕返しのお話。
天使様がチートなご都合主義のSS。
婚約破棄しない、けれどざまぁは過剰に、そしてただただ同じことをしただけのお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど
くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。
貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。
走馬灯に君はいない
優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる