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春風と共に眠る
やっと、一緒になれたね
しおりを挟む春風がふたりの墓をそっと撫でるように吹き抜け、咲き始めた小さな野花が揺れていた。
その丘の上に、今日もまた村人たちが静かに集まっていた。
誰も言葉を交わさず、ただ頭を垂れ、祈るように立ち尽くしている。
リゼルとセレ。
ふたりの名は今や村の誰もが知っていた。
老婆と古びた機械――けれどその奥に秘められた、長い時を超えた想いを、
この村の者たちは感じ取っていた。
とくに、かつてふたりをよく見ていた村のひとり――
年若い頃、リゼルに薬草を教わった女性は、そっと指を組んで胸の前に添えた。
彼女の瞳には、微笑みをたたえながら並んで歩くふたりの背が、今も残っている。
(どうか、来世では…)
彼女は目を伏せ、声には出さず、心の奥に深く願いを灯した。
(どうか、今度こそ…何の障害もなく結ばれて。
あんなに長く待ち続け、愛し続けたふたりが、
最初から最後まで、互いの手を離さずにすむ世界で出会えますように――
もう涙に濡れることなく、ただ静かに、穏やかに、
あたりまえの朝を迎え、あたりまえの夜を共に眠り、
時には小さな喧嘩をして、すぐに仲直りをして、
笑って、寄り添って、春の日差しの中を手をつないで歩く、
そんな夫婦として……どうか)
春の陽はやわらかく、雲の切れ間から差し込んだ光が、ふたりの墓をそっと照らした。
まるで星々がその祈りに応えるかのように。
誰にも聞こえない願いは、そっと風に溶け、
やがて、空のどこかへと運ばれていった。
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