ドSに溺れて

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波の音

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 身体が弛緩した隙に、彼の手が、わたしの胸をすっぽり覆う。彼の身体のぬくもりがじかに伝わってくる。

 恥ずかしい……。

 手はじっとしたまま、耳から首筋へと舌が這っていく。

 揉む大きさすらすらないのが、彼に申し訳なくて。そんな気持ちでいるのに、彼の舌の動くたびに、わたしの身体はピクンッと敏感に反応してしまう。

 視覚を奪われ、意識が彼の舌に集中してしまうのだ。そのためか、感度がいつも以上に上がってしまっている。

「ぁ、っぅ、んっ……はぁっ…ぅ、んっ」

「チュッ……チュッ、チュッ……」

 舌で舐めながら、キスの雨を降らす。見えていないのに、彼の舌のヌルリとした感覚から唇の感触まではっきり分かる。それよりも、彼の吐息や舐める舌の音、肌に口づける音が、淫靡な空気をまとい、耳を犯し、妖しい気持ちになるのが気になって仕方ない。

 淫らな女じゃないはずなのに、自分の身体が自分の身体がじゃないみたい。

「ぅ、ぁあっ……ぅ、ふっ……あぁぁ」

 息が恥ずかしいほど荒くなっている。肌にはじっとりと汗が浮き出ていて、興奮しているのが丸わかりだ。縛られた手を握ったり、閉じたり。体育座りの太腿をもじもじと擦り合わせる。どれもわたしの意思とは関係なく、勝手に身体が反応してしまっていた。

「感じてくれているのですね。うれしいです」

「あぁんっ」

 胸に置かれていた優しい手が、ふいに指を閉じ、わたしの乳首を挟んだ。心地よい電流が、身体を突き抜け、思わず甘い声が漏れる。

「恥ずかしい。わたし、胸小さいから」

 挟んだ指が、優しく乳首をコリコリと捻る。わたしの身体は、面白いようにピクン、ピクンと跳ねた。

「とても可愛いと思いますよ。それに、とても敏感だ。胸が小さい人は、感度がいいって聞きますけど、少なくとも冴子さんには、当たっているようですね。ぼくには、すごく魅力的です」

 どうやら乳首だけでヤバイほど感じていることに、彼は喜んでいる。自分の身体を呪えばいいのか、それとも、彼が喜んでいるから、うれしいと思えばいいのか、複雑な気持ちだ。

「魅力的って……恥ずかしい」

 わたしの乳首は、熱いくらいに火照り、ジンジンと疼く。彼の指の動きは繊細だ。もしかしたら、わたしの意識のすべてが胸の敏感な突起に向けられるように、焦らしているのかもしれない。

「冴子さんのここ、すごく固くなってますよ。こんなに固くさせて、イヤラシイ人だ」

 うなじにキスを繰り返しながら、指のはらで乳首を円を描くように転がし始めた。

「ぁっ、だ、だめぇぇ……」

 ピリピリとした心地よい電流が、次々とわたしの身体を襲う。わたしは、彼の指先一つで、淫らに喘ぐはしたない女に成り下がってしまっている。

 あんなに優しい笑顔を向け、優しい言葉をかけてくれるのに、きっと彼は意地悪なんだと思う。わたしの身体を楽器のように弄り、恥ずかしい声を上げて悶えているのを、楽しんでいる。

「何がダメなんです……?うん?」

 優しい声は変わらないのに、口調までサディスティックなものに変わる。乳首をやんわり愛撫していた指が、乳首の根元を摘み、ぎゅっと締め付けた。これまでの繊細な動きが嘘のように荒々しい。

「ぁ、あ~~んっ、ぁぁ、乳首を……そんなに苛めないで」

「苛めてませんよ。冴子さんを悦ばせているだけです」

 締め付けた指が、乳首を押し潰すかのようにぎゅっと力が入った。そのまま擦り転がす。

「あぁぁ、ぅ~~んんっ、はぁっ……そんなにグリグリしちゃ、ダメ」

「乳首を強く責められる方が悦ぶかなって思ったんですが、違いましたか?ダメというわりには、膝を擦り合わせているのはなぜでしょうね」

 彼の声が弾んでいる。生き生きしていて、「あぁ~これが彼の生癖なんだな」と思う。そして、わたしはというと、彼の作り出す淫らな状況にすっかり嵌り始めていた。








 急に彼の気配が消えた。

 どこへと考えていると、窓を開ける音が聞こえ、ザァーザァーという波の音が耳に届く。

 大学は東京で暮らし、父の跡を継ぐために島に帰ってきた。町の中心部に住み、その周辺で生活しているわたしにとって、ゆっくり海に行くということ自体もう何年もしていない。少なくとも肌を焼きたくないわたしは、高校の3年間、東京の大学の4年間、そして島に帰ってきた2年間は、波の音を聞いたことはなかった。いつでも行けると思うと、案外そういうものかもしれない。

 目の見えないわたしに、波の音はしんみり染み渡る。「海っていいな」って思ったり、「癒されるな」と考えたり。

 それも、「冴子さん」という彼の一言で思考が切れた。

「ぅ、むっ」

 彼に唇を塞がれ、ラズベリーのような可憐な香りが、鼻腔を突き抜けた。口移しで注がれたワインによって口の中が、エレガントでさっぱりした味が広がった。ゴク、コクッと飲み干すと、舌を絡め、口の残ったワインを味わう。

 再び、彼の口からワインが注がれるが、今度はわずかに舌を湿らす程度だ。

 残りのワインは、首筋にキスをする際、垂らしたのだろう。ワインの匂いのする液体が、鎖骨から胸へと落ちていく。それを追いかけるように、キスをし、吸い取っていった。

 視覚を奪われたわたしには、液体が流れ落ち、それを舌が舐めるのがはっきりと感じられる。そして、彼が舐めている姿は、きっと惹き付けてやまない、淫らさとセクシーさを醸し出しているだろう。そんな想像をするだけで、興奮が高まってしまう。

 舌がツゥーーっと滑り、乳首にかかったワインを、舌がペロペロと舐める。

 なんてイヤラシイのだろう。

 遠くで聞こえる波の音が、昂ぶった荒波の音に聞こえた。

 
 


 ピチャ、ピチャッという舐める音が、妖しく耳奥へと吸い込まれる。

 彼の熱い舌がねっとりと乳首に絡みつくように舐めては、口に咥えチュッチュッっと吸い付く。片方の乳首には、指が執拗に嬲っている。

「乳首が……おかしくなっちゃぅ……」

 敏感な乳首を弄られ続け、もうどうしようもないところまできていた。蜜壺から愛液が溢れ、ソファーをぐっしょり濡らしている。

 それなのに、空いた手は、太腿の内側の膝から恥骨まで、行ったり来たりとさするのだ。

 くすぐったいような、それでいて、期待するような感覚が、わたしの中で大きくなっていった。

「おかしくなっていいですよ。いや、おかしくなった冴子さんが見たい……かな?」

 乳首を歯で甘噛みされ、摘ままれた指でぎゅっと捻られては、駄々を捏ねる赤子のようにイヤイヤと頭を振るしかなかった。 

 そこへ、恐れていたことがやってきた。

 両足の膝に乗せた彼の手が、ぐっと一気に足を拡げたのだ。足をM字に開かれては、彼の視線を防ぐものは何もなくなる。

「感じてくれたんですね。冴子さんのここは、もうぐっしょり濡れていますよ」 

 見られたくないところ見られ、頬に熱が集まり、耳まで真っ赤になった。

「お願い……苛めないで」

「恥ずかしそうにしている冴子さんも素敵ですよ。それにこんなにエッチな女性だったなんて。ますます好きになりそうです」

 エッチな女性って。否定はしないけど、穴があったら入りたい。そろそろ限界まで焦らされて、我慢の限界にきていることに気付いて欲しい。 

 わたしは、羞恥に染まりながら、欲求不満を心の中でぶつけていた。
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