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3章 豪華客船の上で
やくそく
しおりを挟む「1週間後……7月20日に、クイーンビック号に一緒に乗らないか?」
仁川がそう言い放った。クイーンビック号とは、横浜から出発する国内クルーズ船だ。金持ち向けのクルーズ船で、いわゆる、豪華客船というやつである。
「お前と一緒に?」
「ああ。てのもな、そこの豪華客船で知り合いのお坊ちゃんの誕生日パーティーが行われるんだが……どうも、俺一人でパーティーに行くのは、心細くてな。知り合い何人か呼んでもいいってことになってんだ」
「……なんで、俺なんだよ」
「だって、俺の親友じゃん」
仁川は、ヘラヘラしながら、俺に頼み事をする。こいつが、何か頼み事をする時は、正直、あんまりいい予感はしない。何故、こんな急にクルージングに誘うのか。何か、裏がありそうで怖い。不服感丸出しで、俺は舌打ちをする。
「親友じゃないし」
「そんな釣れないこと言うなよ。なっ、お願い!」
仁川は、手をあわせ、俺に頼み込む。
「さっきの女の子、連れてきていいからさ! 何人でも呼んでいいっぽいし! パーティーは心細いから、お前に引っ付くけど、それ以外は邪魔しないからさ!」
……正直、魅力的だ。こいつ抜きで、2人で豪華客船は楽しみたい。後ろ髪ひかれる。
「2週間のクルージングつきだぜ? たくさん、遊べるよ。部屋は2人でひとつにするからさ!」
……行きたい。だけど、彼女がすんなり受け入れるとは思えない。しかし、何回も説得したら、彼女は渋々着いてきてくれるだろう。
「考えとく」
俺がそう言うと、彼はにたぁと悪どい顔を浮かべた。
「いい返事を待っとくよ」
どこからともなく、いい匂いが風に乗ってきた。食べ物の匂いである。おそらく、リビングにいる彼女が放つものだろう。
俺は、バスローブを羽織る。そして、仁川を睨みつけた。
「帰れ」
「はいはーい」
仁川が、肩を竦めた。そして、二人でリビングへと向かう。バタンと扉を開け、リビングへ足を進めると、その匂いは、より一層強くなった。台所に立っている彼女がいた。
「何か作ってるの?」
俺は、彼女の隣に立つ。すると、彼女は一瞬横目で、こちらを見た後、眉間に深いシワを刻んだ。彼女が持つフライパンの上には、目玉焼きがのっている。
「……食べていいって言ったから……」
皿に乗ったトーストが、三枚、台所にあった。
「へえ……俺と仁川の分もつくったの? 気にしなくてもいいのに……特に、仁川のなんていらないよ」
「ええ、ひっどーい!」
警察である仁川を見て、彼女の身体がまた硬くなる。俺は、背中で彼女を隠す。
「た、食べたきゃ食べれば? 材料費、私のお金じゃないから、勝手に作っただけだけど……」
彼女は、モゴモゴと小さな言葉をこぼす。
「有難く食べさせてもらうよ」
俺は彼女の腰を引き寄せ、額にキスをした。彼女の眉間のシワが深くなる。
「人前でベタベタしないで」
彼女は、俺を突き飛ばそうとする。しかし、俺の体はびくりともしない。
彼女は、手馴れた様子で、目玉焼きをトーストに乗せていく。そして、盛り合わせの野菜とベーコンを乗せる。
「ふぅー……おあついね。俺も美少女とイチャイチャしたいぜ」
仁川がそんな軽口を聞いている間に、涼花は机の上に料理を並べていく。
「いただきまーす」
真っ先にトーストを食らう仁川。俺と涼花もそれに続く。
「うんめぇえ!」
「美味しいよ」
俺と仁川に褒められて、彼女は誇らしげにふんっと鼻を鳴らす。
「あたりまえでしょう」
いつもの彼女らしい、自信たっぷりの態度となった。そんな彼女を見て、仁川が、愉快そうに笑う。
「ははは! 可愛いね! ねえ、君。宇都宮じゃなくて、俺にしとかない? 俺の方が、一緒にいてて、楽しいし」
「おい、人の彼女をなにナンパしてんだよ。食ったんなら帰れ」
俺は、仁川の首根っこを掴む。そして、そのまま、やつをマンションの外に放り出した。部屋に戻ると、彼女が洗い物をしていた。こうやって彼女が家事をしていると、新婚夫婦みたいで、胸が高鳴る。
「あとでやっとくからいいよ」
「……いや、もうすぐ終わるし……」
「……そっか。ありがとうね」
俺は、彼女を後ろから抱きしめる。もう、彼女も諦めているようで、わざとらしく、小さなため息をつくだけだった。
「ねえ、俺の彼女って言われても、否定しなかったよね?」
「……あれで、彼女じゃないっていう方が違和感あるでしょう」
「自惚れてもいい?」
「……話聞いてた?」
彼女は、俺のことを睨みつける。彼女が、洗い物を終わらせる。
「……私、帰るわね。早く、私の戦利品、返してよ」
「待って」
「あんたの引き止めにひとつひとつ構ってると、私、一生帰れないんだけど」
俺は、彼女を強く抱きしめる。
「7月20日から数週間くらいって暇?」
「……なによ」
「さっき、仁川から話があってさ……クイーンビック号に乗ることになりそうなんだ。もしよろしければ、一緒に乗らない?」
「は? なんで、私があんたと一緒に行かなきゃならないのよ」
思った通りの反応だ。しかし、その言葉の間からは、興味の色が読み取れる。クイーンビック号なんて、相当金持ちじゃなきゃ、乗る機会なんてない。乗ってみたいという気持ちがあるのだろう。俺の誘いでなければ、すぐにのってくれただろう。
「行こうよ。綺麗な部屋に泊まれるよ」
「……」
「美味しいもの食べられるよ」
「……」
「珍しいものが見られるよ」
「でも、お金無いし……」
「こっちで負担する」
「……ドレスコードとかあるんでしょ? 私、ドレスとか……」
「それも俺が用意するよ」
「……………………………………………………予定、空けられないこともないわ」
やっぱり、ちょろい。俺の口元が自然に歪むのを感じた。
やった。これで、彼女といられる時間が増える。
「さすがに今日はもう帰るからね!」
彼女が言い放つ。彼女は、荷物と宝石を持って、俺の前から去っていったのだった。
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