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第1章 春

8. (Ray side)

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月明かりがキレイな夜が好きだった。

子どもの頃、
両親におやすみなさいと言ってベッドに潜って。
しばらくしてからそのベッドを抜け出した。

カーテンに隠れて、月明かりがキレイな窓辺に玲奈と2人並んで夜空を見上げる。

秘密の世界に2人きりになったようで、とてもワクワクする時間だった。



「…ふたりとも、疲れた顔してるね。ゴールデンウィーク遊び倒したの?」
紗弥が、俺と玲奈の顔を見比べながらそう言った。
「そう。帰ってきたの遅くて…」
返事をすると、すぐさまあくびが出る。

休みが明けてからの、登校初日。
前日の夜に旅行から帰ってきた俺たちは、疲れも抜けずどんよりとした顔をしていた。
「この2人は体力なさすぎなんだよー!一緒に遊んでたオレは元気。ハイ、紗弥におみやげ。3人からだよ」
「ありがとー!沖縄行ってたの?いいな~」
足取りが重い俺たちと対照的に、元気な透。
それから紗弥。
いつもの4人で学校へ向かう。

紗弥と透が前を歩いて、俺と玲奈が後ろをついて行く。
前を歩く2人は楽しそうに話をしていた。
「紗弥は何してたの?」
「あたしは近場で日帰りで遊んでたよー。てか、3人で旅行いったの?」
「奈々子のコンサートに伶たちの親も出ることになってて、それについてったの」
「お母さんて呼びなよ」
「そう呼ぶと、オバサンになったみたいだからやめろって怒られる」
「透のママおもしろーい」

前を歩く2人の会話を聞きながら、俺は少しだけ後ろを歩く玲奈を見た。
いつもよりも、少しだけ距離がある。

こないだ水族館で、玲奈の肩を抱いて以来、なんだかよそよそしいんだよね…。
話をしようと思っても、2人で話せるチャンスをなかなかつかめなくて。

「ねえ、伶、玲奈。あとで写真見せてよー!」
紗弥が振り向いて俺たちにそう言う。
「いいよー!キレイな写真いっぱいあるよ!」
「玲奈の写真は食べ物ばっかりだろ」
「そんなことないもん!」
玲奈の答えに横槍を入れると、すぐさまムキになる。
「ハイハイ、そこ。キョーダイ喧嘩しない」
「伶がイジワル言うからだよー」
「ごめんごめん」
口を尖らせる玲奈。
それを見て思わず笑ってしまう。
「笑わないでー!」

こうやって、普通に話せるのに。
そこから一歩踏み込んで心の内を聞くことができない。
…玲奈は、何を考えてるんだろう。
知りたいけど、知るのが怖い。


「わぁ~!キレイだねー!!」
「そうなの。すっごくキレイだった!」
テーブルを挟んで向こう側。
玲奈と紗弥が、2人で一緒にケータイの画面を見ながら騒いでいる。
俺と透は横に並んで、そんな2人を見ていた。

なんとか午前中の授業をやり過ごして、ランチを食べ終えたところ。
俺は眠たすぎて、あくびが止まらない。
玲奈は朝はすごく疲れた顔をしてたけど、今は楽しそうに笑顔で、朝のあの顔はどこかへいってしまってる。
「伶ってばいつもクールにしてるのに、めっちゃはしゃいでるね!」
ケータイを見ていた紗弥が、顔を上げて俺を見る。
「クールにしてるんじゃなくて、透がいつも調子のいい事ばっかり言って騒いでるから、そう見えてるだけ」
「えー!それ言葉にトゲがない!?オレはみんなを楽しませようと頑張ってるのにー!」
「楽しいよいつも」
「感情がこもってないんですけど!」
俺と透のやりとりに、目の前の2人は笑う。
昼休みの終わり頃、大量にあった写真を見終わって、紗弥が俺たちに言った。
「ゴールデンウイーク、3人とも楽しそうでよかったね~!いい思い出になるよね」


たしかに。
ゴールデンウィークは、楽しかった。
親に強引に予定を入れられて連れて行かれ、その連れて行かされた先では日中放置されていたけれども。
そのおかげで自由に遊べていい思い出ができたと思う。

1日目は、玲奈と遊んで。
2日目は、透と3人で遠出して。
3日目は、また3人で観光と買い物して。
それに2日目と3日目の夜は親たちのコンサートにも行ったし。
そして最終日の昨日は、夜のフライトまで母さんと奈々子サン(透の母)に振り回されて。
毎日予定はぎっしりで充実してた。

してたけどさ。
まず俺は慢性的な寝不足だし?
なんだかあの旅行で色々ありすぎて、ちょっと精神的にも疲れたというか……。
地獄を見たというか…。

「ははは!地獄ねえ~」
隣で透が声をあげて笑った。

5限目と6限目の体育をサボって、透と屋上にいた。
疲れすぎてて、2時間ぶっ続けの体育はちょっと無理…。
保健室で寝てようかと思ったら、透もついてくるから、結局、屋上に。
入り口の裏手の日陰で俺は寝転んで、透は壁にもたれて座っていた。

透が面白そうに笑うのに、俺は続けてグチる。
そう。
ゴールデンウイーク中、ずっとモヤモヤしていたことを、今、吐き出してる。

「だってそうだろ!玲奈と2人きりの部屋で、玲奈はバスタオル一枚でうろうろするし」

…コレだ。
俺が寝不足な理由。
旅行中、3日も玲奈と2人きりの部屋で過ごした。
好きな女と3日間も夜を一緒に過ごして、手を出せないつらさよ。

「玲奈は、お前が無反応だったって言ってたけど?」
「そんなワケあるか」
悟られないように必死だったんだよ。
好きな女が目の前を裸同然の姿で歩いてるの見て、平気な男なんかいるかよ。
「それに…パジャマ持ってくるの忘れたって言うから、Tシャツ貸したんだけど、またそれもさあ」
「おー!それは萌えるカッコだね~」 
「それで俺が風呂入ってる間に、俺が使ってるベッドで寝てたり…ほんと自由で」
「あはははは!」
「もー…生き地獄」

玲奈は、分かってない。
俺がどんな想いでいるのか。
すぐに手が届くところにいるのに、触れられない。
触れたら止められなくなるから。

一晩中、同じ部屋にいて。
息づかいが聞こえる距離にいて。

玲奈を大事にしたいから、触れたくなる気持ちを抑えた。
少しでも気を抜いたら、玲奈を大事にできそうになくて。
それで眠れなかったんだ。


あの日よりも前だったら、
そんな事…考えなかったのに。

玲奈は、
『触らないで!!』と、
そう言ったあの日に。

俺の玲奈への気持ちがなくなったと思ってるのか……?

「そーいえば、水族館で帰り際に玲奈が顔を真っ赤にしてたのってなんだったの?」
透に聞かれる。
「…玲奈が人とぶつかってよろけたから抱き寄せて、人混みの中抜けるまでそうしてたから…?」
俺は、玲奈のそんな顔は見てないけど。
というか、玲奈の顔を見ずに外に出たから、憶測だけど。
あの後から、玲奈が少しよそよそしい。
ガッツリ触れてしまったせいかな。
…でもあれは、前日に手を繋いだ時と違って、不可抗力だろ?
「ああ~。玲奈、お前の体つきにドキドキするって言ってたしなあ」
「変態ぽく言うのやめてくれ…」
「あはは。でもドキドキするって言ってたのは本当」

玲奈が…俺にドキドキする?
そんなわけない。

「その時以来、俺と2人きりになると玲奈がよそよそしい」
「んー…意識してんのかね?」
「嫌がられてるっていうか、距離おかれてる」
「そんなことないと思うけどなあ。まあでも、伶と玲奈に距離があるのは今に始まった事じゃないし~」
透が少し意地悪っぽい口調でそう言った。
言い返せず、黙る俺。
「…何度も言ってるけどさ、話せよ。玲奈とちゃんと」
そう言って、透は俺の頭を軽く小突いた。

分かってる。
話さないと分かり合えないし、何も始まらないって。
でも、あの日みたいに。
想定していなかったような言葉を投げかけられたらと思うと、怖くて踏み出せないんだ。

ああ…
今は玲奈と離れているのに、玲奈のことばかり考える。
頭の中がごちゃごちゃして、うまく眠れない…。


「背中痛い…。結局あんまり眠れなかったし」
「オレも邪魔しちゃったしね、ごめん」
「いや、いーよ。話してた方が頭の中、整理できるから」
6限目が終わるチャイムが鳴って。
俺たちは屋上から降りた。

「伶、寝れた?」
教室に戻ると、玲奈にそう聞かれた。
「んー…、少しは」
「そっか。今日の夜はたくさん眠れるといいね」
玲奈が微笑む。

今は、机はさんで距離があるから、いつも通りなの?
一緒に歩く時に、微妙に広がっている距離はなに?

聞きたいけど、聞けない。

ホームルームの間中、うとうとしていて。
いざ帰れる、となった時に、ホームルーム中に配られたプリントに目を落としてハッとする。
『三者面談』
その文字を見て、目が覚めた。

すっかり忘れてたいたけど、進路をどうこう決めないといけないんだったっけ。
個人面談が終わってから、何も考えてなかったな…。
「伶、かえろう」
後ろの席から、玲奈に声をかけられた。
それでプリントをたたんで鞄にしまう。

そういえば、玲奈とこの進路の話もちゃんとしてなかった。
先日の個人面談、玲奈は逃げ出してきたと言ってたけど…。
どうするんだろう。

「オレ、今日用事あるんだけど。伶もどっか出掛けるの?玲奈ひとりになっちゃう?」
帰り道、紗弥と玲奈の後ろを、俺と透で歩いていた。
「いや、だるいから今日は帰る。それと、今週は父さんも母さんも家にいるって言ってた」
「そーなんだ。じゃよかった!あ、でも明日は伶の家に行こっと」
「なんで?俺いたほうがいい?」
「おじさんにピアノのレッスンつけてもらおーと思って。こないだ話した時に、聴かせに来てよって言われたし~」
「じゃ、伝えとくよ」
「ありがと」
ちょうど会話が終わった時に、前を歩いていた紗弥が振り向く。
「伶、透、また明日ね!」
いつもの場所、駅前まできていた。
「あ!紗弥、オレも今日は用事あるからそっち。途中まで一緒に行こ~」
「ほんとー?いつも3人とここでバイバイだから寂しかったのよ。駅までスグだけど」
喜ぶ紗弥と透は俺たちに手を振ると、わいわい楽しそうに話しながら駅の方へ向かって行った。

2人の後ろ姿を少しの間眺めて。
それから玲奈を見る。
「俺たちも帰ろ」
「う…うん」
玲奈のぎこちない返事。
2人で歩き始めたけど、やっぱりいつもよりも距離を感じる。
何を話せばいいのか分からず、無言で歩いた。
いつもだったら、くだらない事でも何か話すのに。
玲奈も何も言わない。
気づけば家に着いていて、玄関のドアを開けて玲奈に先に入るように促す。
「あ、パパいる」
玄関に父さんの靴があるのを見て、玲奈はそう呟いた。
「ただいまー」
俺たちは口々にそう言ったけど、返事はなくて。
玲奈と俺で顔を見合わせる。
「ピアノ弾いてるのかなあ?」
「見てみよう」
防音仕様の練習部屋。
だから返事がないのかと、2人で部屋へ行ってみる。
そっと、ドアを開けた。
途端に響く、ピアノの音。

———リストの半音階的大ギャロップ。

10㎝ほどしか開けていないドアの隙間からでも、圧倒されるほどの音色。
曲は軽快で覚えやすく、カッコイイ。
でも、弾くのはものすごく難しい。
俺も玲奈も、目を離せなかった。

「…2人とも、そこでこっそり見てないで、中に入ってきたら?」

まだ曲の途中。
父さんは、俺たちの姿を確認もせず、指を動かしながらそう言った。

見つかっちゃったね、と言わんばかりに玲奈は目を大きく見開いて俺の方を見る。
それで、ドアを大きく開けて中に入った。

あの難しい曲を弾きながら、ドアが開いたことに気づいて、喋りかけられるって…。
…すごいな。

「パパどうして分かったの~?」
曲が終わるのを待って、玲奈がそう聞く。
「空気が揺れたからね。おかえり、2人とも。もうそんな時間なんだね」
「ママはいないの?」
「瑠華は用事があって出掛けてる。父さんもあとで出ちゃうからね」
「じゃあパパ、それまで何か弾いて」
「いいよ、練習してる途中だし。でもその前に、2人とも着替えておいで」

そう促されて、俺たちは各々部屋着に着替えてまた練習部屋に戻る。
玲奈はソファで、俺は父さんの近くに椅子を持ってきて、父さんがピアノを弾くのを聞いていた。

「ねえパパ。今日学校で、三者面談のプリントもらったの」
「じゃあ後で日程の確認しないとね」
「父さんはさ、いつピアニストになるって決めたの?」
「そうだなぁ…」
玲奈と俺は、次々に話しかける。
父さんは弾きながらでも普通に話してくれるけど、俺の質問で鍵盤をたたく指をとめた。
「気づいた時にはもう、そうなるしかなかったって感じかな」
「どういうこと?」
聞き返した俺の顔を見て、父さんはふっと微笑んだ。
「初めてだね、こんなこと聞くの」

…確かに。
"いつからピアノ習ってたの?"
とか、
"どうしてピアニストになったの?"
とか。
小さい時にそういのは聞いたことがあったけど、いつなろうと決めたのと聞いたことはなかった。

「2人には、話したことなかったけど…」
そう前置きをして、父さんは話し始めた。

父さんには歳の離れたお姉さんがいて、ピアノを習っていたのはお姉さんだった。
ある日、お姉さんの真似をしてピアノを弾いてみると、習ったこともないのに普通に弾けた。
するとお母さん(俺たちのおばあちゃん)が、父さんにピアノの英才教育を始めた。
どんなに遠くても、レッスン料が高額でも、いい先生と言われる人のレッスンを受けて、コンクールというコンクールに出場させられた。
家庭の生活の中心が、父さんのピアノになった。
それでお父さん(俺たちのおじいちゃん)とお母さんがうまくいかなくなって離婚した。
それからはますます、お母さんは父さんのピアノにのめり込んだ。

「ピアノを弾く以外何もできなかったし、ピアニスト以外の選択肢を持ってなかったんだ。そうなって当たり前だと思ったまま、大人になった。だから、いつ決めたのっていう質問には、答えられないんだよね」
そう言って、父さんは少しだけ悲しげに笑った。
俺も玲奈も何も言えないでいると、父さんが慌てて口を開く。
「あ、でもね!ピアノ弾くのは今でも好きだし、幸いにもピアニストとして食べていけてるし、家族も養えているし、後悔してないんだよ」
さらに続ける。
「だけどね、2人には決められた道を歩むんじゃなくて、自分たちで将来を決めて欲しいんだ。だから、2人にはピアノやヴァイオリンを教えはしたけど、コンクールには出したくなかったの。音楽以外にも興味がある事はどんどんやって欲しいし、色んな可能性を見つけて欲しいと思ってる」

…そうなんだ。
父さんも母さんも、しょっちゅう家にいないし。
いてもこんな話は滅多にしないし。
ほったらかされてると思ってたけど、そうじゃないんだ…。

「だから、将来の事を話す面談で『何にもない』って言っちゃったり、話の途中で抜け出して帰ってきちゃったりしても。急いで将来の事を決める事ないし、父さんは別に構わないと思ってるよ。いや、話の途中で帰るのはいけないけど」
「え!!パパ知ってたの!?」
驚いた声を出す玲奈に、父さんはふふっと小さく笑った。
「先生が心配して電話くれたからね」
「…父さんは、何で答えたの?」
「本人たちが決める事なので、親の立場からあれこれ言う事はしない、と伝えたよ」
そう言うと、父さんはピアノの方へ向き直って、鍵盤に指を落とした。

自分で、決める事…か。
個人を尊重してもらえていて嬉しいけれど、それってすごく難しい。

俺の物事の中心は、玲奈。

『俺は』どうしたいとかじゃなくて、
『玲奈が』どうしたいか。

この考えが正しくない事は分かっているけど。
変えられないんだ。

父さんが弾くピアノの指の動きを見ながら、ぼんやりと考え事をしていた。
「…そろそろ、終わりにしようかな」
しばらくして父さんが口を開いた。
それで、顔を上げる。
「伶、ずっと考え事してたね。玲奈は…寝てるし」
そう言って父さんは苦笑する。
ソファの方に目をやると、横になって気持ちよさそうに寝ている玲奈。
「まだ遊び疲れがとれてない」
「はは。そうだね、最終日も遅くまで付き合わせたもんね。ごめんね」
「ううん、楽しかったよ」
「よかった。じゃあ、父さん出掛けるね。途中で瑠華と合流して、帰りはけっこう遅くなるから、戸締りはキチンとするように。晩ご飯は冷蔵庫に入れてあるよ」
「わかった。いってらっしゃい」

父さんを座ったまま見送って。
ドアが締まると、楽譜を取りに行って、ピアノの方の椅子に座り直した。
楽譜を開いて、鍵盤を押す。
いつも通りの練習。

…ピアノは好きだ。
子どもの頃から変わらずね。

でも俺が弾くピアノは、玲奈だけのもの。

だから、父さんがピアニストだからって、俺もそうなりたいなんて思わない。
玲奈が好きだと言ってくれるから、ただ弾いていたいだけ。

「…伶?あれ、パパは?私どのくらい寝ちゃってた?」
ソファからもぞもぞと起き上がって、玲奈が俺に喋りかけた。
もう、陽も沈んで外は暗い。
玲奈を起こしたくなくて、部屋の明かりをつけずにいた。
ただ、カーテンを閉めていない窓から月明かりが差し込んで、ピアノを弾く手元は明るかった。
「父さんはずいぶん前にでかけたよ。今は8時くらい」
「そうなんだ」
玲奈はもう一度ソファに倒れ込んで、今度は横向きになって俺の方を見る。
「すごーく気持ちよく寝てた。まだ眠たい…」
「寝る?部屋に行く?」
「……伶、何か弾いて」
「わかった…」
返事をして、最初の一音を響かせる。

ドビュッシーの月の光。
ちょうど、今の状況に合う。
静かで、柔らかな月の光が差し込んでくるような。
それから幻想的に広がる。

あの、子どもの頃、玲奈と一緒に見上げた月を思い出す。
世界がたったふたりだけのものになったような気がした、あの時のこと。

「…玲奈?」
曲が終わって、ソファの方を見る。
名前を呼んでも返事がない。
また寝ちゃったのか…。
ソファまで近づいて、もう一度声をかける。
「玲奈、自分の部屋で寝なよ」
呼びかけてみても起きない。
気持ちよさそうに、寝息を立てている玲奈。
揺すって起こそうとしたけど、やめた。

……触れない。

また玲奈に触れて、今以上の距離ができるのが、いやだった。

…ああ、くそ……。
「なんでこんな無防備なんだよ…」
玲奈を起こせず、でもこの部屋にひとりにも出来ず、俺は玲奈のすぐ側に座る。
床に足を投げ出して、ソファにもたれかかった。



———もし、

もし
願いが叶うなら。

俺は玲奈と2人だけの世界に行きたい。

玲奈の喜ぶことだけをして、
玲奈のことだけを考えて。

悩みや苦しみなどない、
玲奈の心を俺で独占できるような、
そんな世界に行きたい。
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