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第2章 夏

5. (Ray side)

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ドイツの夏の空はどこまでも澄んでいて、
吸い込まれそうなほどの美しさ。

その空に映える、
玲奈の太陽のように輝く笑顔。

それが、
俺の夏の思い出。

毎年変わらず続くと思っていた、
まだ心があの空のように澄みきっていた
子どもの頃の大切な思い出。



「紗弥ー!こっちー!!」
土曜日の朝、最寄りの駅前に集合した。
玲奈が隣で手を振る。
透としていた話をやめて、玲奈の視線を辿ると、その先に紗弥と女の子が2人。
手を繋いでこっちへ歩いてきていた。
「おはよー!」
俺たちのそばまで来て、紗弥はいつも通りの明るい笑顔を見せる。
立ち止まった紗弥の後ろに隠れる女の子2人。
ひとりは小学生くらいの女の子、もうひとりは3歳くらいの小さな女の子。
「紗弥…オレたちの一つ上とか言って……年齢詐欺ったな?こんな大きい子いるじゃん」
「違うわよ!!」
透が冗談を言うと、紗弥の後ろに隠れた大きい方の女の子が顔を出した。
「こっちは妹の花菜よ。ちっちゃいほうが、莉緒」
「花菜ちゃんっていうだ。かわいい名前だね。オレは透っていうんだよ。よろしくね」
透がしゃがんで、花菜ちゃんにあいさつする。
すると、困った様子で紗弥のスカートの裾をひっぱった。
「さーちゃん…」
紗弥を呼んで小さな声で話している。
そのあと、背負っていたリュックサックから何かを取り出して、しゃがんでいる透に手渡した。
「ハイ、これ。透くんにあげる」
「えっ!ありがとー!」
姉妹だからそうなんだろうけど、すごく紗弥に似てる。
「あと玲奈ちゃんと伶くんにも」
紗弥にそう指示されて、玲奈と俺ももらう。
それは手紙だった。
「ありがとう」
そう言うと、はにかんで笑う。
「今、お手紙ブームなのよ。ね、昨日一生懸命書いたのよね」
「うん!」
紗弥の言葉に誇らしげな様子。
「オレ初めてラブレターもらった~」
「私もお手紙はじめてもらった!」
喜ぶ透と玲奈に花菜ちゃんが話しかける。
それを見ていたら視線を感じて、そっちを向くと、莉緒ちゃんが大きな目で俺を見ていた。
しゃがんで、おいでって手招きすると、とことこ歩いてくる。
「かわいいね、このくまさん」
下げてたクマのポシェットを指さすと、莉緒ちゃんはにっこり笑った。
「お出かけする時に、いつも連れて行くのよ」
「そうなんだ。今日はどこに行くか知ってる?」
「プールにいくの。みんなで!おにーちゃんも一緒に行く?」
「うん、一緒に行ってもいいかな」
「いいよ!」
「ありがとう。車で行くんだけど、どこにあるかな。一緒に探してくれる?」
「うん!」
そんな会話をして、2人でまわりを見回していると、抱っこを要求されて、莉緒ちゃんを抱き上げた。
「あー!りーちゃんだけずるい…」
それを見ていた花菜ちゃんが声を上げる。
「じゃあ花菜ちゃんはオレが抱っこしてあげる」
「わあ、ふたりともありがとう!」
透と俺を交互に見て、紗弥がそう言った。

今日は紗弥から、妹と子どもをプールに連れて行くんだけど、1人じゃ見れないから一緒に来てくれないかと誘われていて、俺たち4人プラス子供たち2人で遊びに行く予定だった。
それが…先日帰国してきた父さんに、玲奈が予定を伝えたら、心配だから一緒に行くと言い出して。
そうこうしているうちに、うちの両親に加え透の両親も行くことに……。

「ねえ、今日ごめんね。一家団欒の邪魔しちゃったよね、わたし」
紗弥が玲奈にそう言って謝る。
「ううん、パパがついてくるって言って聞かなかったんだから、気にしなくていいんだよ」
「そうそう。オレの親もその話を聞いて勝手に一緒に行くって言い出すし…あ、篤士たち来た。行こ~!」
「え…。透パパも名前で呼んでるの?」
「そーそー!でも奈々子と違ってオジサンて呼んでいいからね~。奈々子のことはくれぐれもオバサンと呼ばないように」
「わかった」
駅前でしゃべっていると、父さんとおじさんが車をロータリーまで回してくれて、俺たちはそれぞれに乗り込んだ。


そもそも、父さんがついて行くと言い出したのは、玲奈の水着のせいだ。
『これこないだ買ったんだ~』と言って、俺と父さんに見せたのが、なかなかセクシーなやつで。
あんなの着て変な男にでもひっかかったらどうするんだ…と父さんが心配して、一緒に行くと言い出した。
俺と透もいるから平気だよと言ったけど、お前たち2人はチャラチャラ他の女の子にうつつを抜かしそうだと、信用が全然なかった。

「…え、それで、そんなこと言ってたのにおじさんは、瑠華ちゃんにデレデレで…。オレと伶によその女の子を見るんじゃない、と?」
「そう」
「まあいいけどね~。オレは玲奈の水着姿で十分、目の保養になるしー!」
「そーゆー目で見るなよ!」
俺と透は更衣室のそばで、玲奈たちが来るのを待っているところ。
親たち2組は、有料のくつろげるエリアを取ってくるからと先に行ってしまった。

まだ朝なのに、ジリジリと照りつける太陽。
「あついなー…」
「伶、日焼け止めある?」
「ない。玲奈か母さんから借りないと」
仰ぎ見た空は青く澄んでいる。
日本の夏を楽しめる日が来るなんて…。
「おまたせ!」
考え事をしていると、玲奈たちが出てきた。
花菜ちゃんと手を繋いでいる玲奈と、莉緒ちゃんを抱っこしている紗弥。
「おお~!女子たちみんなカワイイね!!」
透の声で、はっとする。
…玲奈を見て、ぼんやりしていた。
別に水着姿を見るのが初めてでもないし、裸だって見てるけど。
やっぱりそれは、以前とは違うわけで…。
「さー!とりあえずアダルトチームと合流しよ~」
透のその声で、みんなで歩き出した。
玲奈と透が花菜ちゃんと手を繋いで、俺と紗夜は後ろをついて行く。
「紗弥、荷物もつよ」
「ありがとー!たすかる」
莉緒ちゃんを抱っこしている紗弥の荷物を受け取る。
荷物を俺に渡した後も、俺をじっと見ている紗弥。
「なに、何でそんな顔でみるの」
「玲奈のこと見てドキドキした~?」
「…紗弥にもドキドキしてるよ」
「心こもってないんだけど!」
「そんなことないよ。紗弥のそれ、よく似合ってて可愛いよ」
「伶…女泣かせね」

…紗弥は、俺がどんな目で玲奈を見ているのか、気づいてるんだろうな。
周りを見渡すと、色んな女の子がいるけど、どれも目に入らない。

「こっちよー!」
少し離れたところから、奈々子サンが俺たちに手を振っているのが分かった。
日除けがされている一角。
テーブルやイスがあって、荷物も置く場所がある。
「みんな揃ったな。じゃ、昼まで自由にすごすか~。昼はみんなで食べよう」
おじさんが、俺たちにそう言う。
11時半にここに集合ということで、それぞれ好きな事をすることになった。
おじさんと奈々子サン、父さんと母さん、紗弥と莉緒ちゃん、残り俺たちで分かれることに。
先の3組はすでに遊びに行って、透と花菜ちゃんは浮き輪を借りに行くと出て行った。

玲奈とふたり。
こんな状況で会話が思いつかない…。
「ね、玲奈。日焼け止め貸して」
なんとかそれだけ言った。
バッグの中から探して、ハイと渡してくれる。
まともに玲奈を見ることもできず、会話がないまま貸してもらった日焼け止めを使った。
それを側で見ていた玲奈が口を開く。
「うしろ、ぬってあげよっか?」
そう言って俺を見上げる玲奈は、いつもよりも可愛く見える。
水着のせいなのか、いつもおろしている髪をアップにしているからなのか。
一瞬、玲奈を見て止まってしまったけど、すぐに答えた。
「いいの?じゃお願い」
玲奈に日焼け止めのボトルを渡す。
少ししてから、玲奈の手が背中に触れた。
「伶、背中大きくなった…」
そう言って、俺の背中を滑らせる手から玲奈の体温を感じる。
…ああ、ヤバイなこれ。
ただの作業のはずなのに、心臓の音がうるさい。
「いいなー!ラブラブじゃーん」
「きゃあ!」
突然の透の声に、それに続く玲奈の声。
驚いて振り向くと、近距離で俺と玲奈を交互に見ていた。
「びっくりしちゃった!」
驚いたのは玲奈も同じようで、透から声をかけられた時に落としてしまった日焼け止めのボトルを拾う。
「伶くんも玲奈ちゃんも、呼んだのに全然気づいてくれなかったあ」
透と手を繋いでいる花菜ちゃんにもそう言われる。
「ごめんね、ぼーっとしてて…」
「いいよなー伶は。オレなんか、奈々子がうしろぬってあげるってゆーから頼んだら、俺の奈々子にそんなことさせるんじゃねえ!って篤士に怒られて、オッサンにぬりたくられたんだぞ」
「あはは!」
想像したら面白くて笑ってしまう。
おじさんは奈々子サンのこと大好きだからな。
「玲奈ちゃんの分の浮き輪も借りてきたよ」
「わあ、ありがとー!花菜ちゃんどのプール行きたい?」
「あのねえ、あっち」
「案内して」
玲奈が花菜ちゃんと手を繋ぐ。
「よし!行くか」
俺たち4人も遊びに出た。

降り注ぐ陽の光に、輝く水しぶき。
絶え間ない笑い声。
心から楽しいと思える時間を過ごすのは、いつ以来だろう。
玲奈の太陽のような笑顔が眩しい。
こんなにたくさん見れるのは久しぶりだ。

「…さ、そろそろお昼だから戻ろう」
時計を見て、そう伝える。
透と花菜ちゃんは、何の食べ物が好きかお昼に何を食べるか話しながら前を歩く。
「今日すっごく楽しいね!」
隣に並んで歩く玲奈が、そう言って笑った。
いつも一緒に歩く時は少しだけ距離があるのに、今日は近い。
「伶?楽しくない?」
「いや、楽しいよ」
「黙ってるから、楽しくないんじゃないかと思っちゃった」
「玲奈に見惚れてたから言葉出てこなくて」
「えっ…!?」
「今日はいつもより可愛いし」
俺の言葉に、その場で固まる玲奈。
「玲奈!立ち止まんないで」
手を伸ばすと、玲奈がそれをつかんで握り返した。
「伶がヘンなこと言うからだよっ」
「本当のことだよ」
「からかってる…?」
「からかってない。ホントは、玲奈のそんなカッコ他の男に見られたくない。だから離れないで」
本音をそのまま伝えると、玲奈は頬を赤く染めて俺から目線を外す。
そのかわり、繋いでいる手にぎゅっと力が入った。
「あ!さーちゃん!」
前を歩く花菜ちゃんが、紗弥を見つけて駆け寄って行く。
「かわいーね~」
そう言って振り向いた透は、俺たちが手を繋いでいるのを見て、ニヤっと笑う。
「仲良しだねぇ。最近、2人から色々はなし聞いてないけど、どーなってるのかなあ?」
「どーもこーもない」
「ほんとに?そーなの?玲奈」
透は俺の逆側に行って、玲奈の肩に手を回す。
「コラ、玲奈に触るな」
「ちゅーくらいしたでしょ」
「してないよっ!」
透の言葉に、玲奈が慌てて否定した。
それが可笑しくて、透と一緒に笑ってしまう。
玲奈にはまだ、心の準備が必要なんだなっていうのは分かってる。
もしかしたら、やっぱり無理だって言われるかもしれないことも。
それでも、俺は玲奈のことが一生好きなんだと思う。

昼ごはんは、料理上手の奈々子サンが大量に作ってきてくれていて、それをみんなで食べた。
いつもは玲奈と2人だから、大勢でとる食事は楽しい。
「…寝ちゃったね~。かわいい…」
玲奈が、紗弥の腕の中で眠る莉緒ちゃんを見て、小声で呟いた。
ちょうど、お昼寝の時間かな。
「紗弥ちゃん、わたし代わるから、玲奈たちと遊んでくるといいわよ」
母さんが紗弥に話しかける。
でも…とためらう紗弥に、母さんはにっこり笑った。
「大丈夫よ、これでも一応ママだし。それにね、ママだからって子育てに全ての時間を使わなくたっていいのよ。ママにも充電する時間が必要だもの。頼れる時は周りを頼っていいのよ」
そう言って、寝ている莉緒ちゃんをそっと受け取る。
「さあ!それじゃあ、そこの小さなレディはこっちへいらっしゃい。大人の遊びを教えてあげるわ」
奈々子サンが花菜ちゃんに手招きすると、花菜ちゃんは喜んで奈々子サンのところへ行った。
「おい奈々子!変なこと教えるなよっ!」
「大丈夫よ。あんたたちは黙って4人で遊んでくればいいわ」
透は奈々子サンに、しっしっと追い払われ俺たちのところへ来る。
「じゃ、行くかあ~。紗弥、ここは気にせず遊んでこよ」
いってらっしゃーい、と母さんたちに後押しされて、4人でプールの方へ向かった。

「はあ~、浮き輪につかまって流されてるだけでも幸せだなー…」
流れるプールで、紗弥はしみじみとそう言った。
「こどもを相手するには体力使うもんね」
「そうそう、花菜は普段人見知りなのに、透にすっごい懐いててびっくりした~」
「従姉妹も小さいし、オレもともと人見知りだったから、気持ちわかるんだよ~」
「えっ?透が人見知りなんて冗談でしょ」
紗弥と透の会話。
透の発言に紗弥がびっくりして、浮き輪に乗せていた頭を上げる。
「ホントだよ。初めて私たちと会った時、透ってばずーっと奈々ちゃんの後ろに隠れて出てこなかったもん」
玲奈がそう言って笑った。
あれは4歳くらいの頃、ドイツの家に遊びに来てくれた奈々子さんと透。
透は奈々子さんや母さんに何を言われても、ずっと奈々子さんから離れなくて。
玲奈と一緒に、強引に手を引っ張って遊びに連れ出したんだ。
「あの頃はアメリカと日本を行ったり来たりで、日本にいれば他所者あつかい、アメリカにいればアジア人って仲良くしてもらえなくてさあ…」
「へえ~、透ってそんなの気にせず誰とでも仲良くなれるのかと思ってた」
「伶と玲奈のおかげだな。引っ張って連れてかれて、そこら辺のみんなに、自分たちの友達だって紹介してくれたの。オレそれ聞いて、初めて友達ができたんだって嬉しかったんだよね。そこからちょっとずつ人見知りは治ってった」
「いいね、それで今でも仲良しなんて!」
「親同士も仲良いしねえ。今日もくっついてきちゃったし…」
「わたし、すごい助かったな。今もチビたち見てもらえてるし、透ママのごはんめちゃくちゃおいしかったし!!しかも子供たちの分も食べやすいようにしてもらえてて」
「奈々子サン料理上手だもんな」
「伶!あれはオレも手伝ったんだぞ!」
「アレだろ、カタチ崩れてたやつ」
「それは篤士が詰めるのに失敗したんだよー。そんでオレが奈々子に怒られるっていう…」
4人で笑い合う。
学校でとはまたちょっと違う話をしながら、気づけば一周していた。
「もう一周しよ~」
透がそう言って、少し先に泳いでいく。
それを追いかける玲奈。
「…ねぇ、伶。オニーチャン的には、あれ、いいの?」
紗弥が、目線で合図しながら、俺にそう聞いた。
その目線の先を辿ると、浮き輪で流される透の肩に手をまわしてくっついて、楽しんでいる玲奈の姿。
「紗弥、それってオニーチャンに聞いてんの?」
聞き返すと、紗弥は、あははと声に出して笑った。
やっぱり、紗弥は気づいてたんだな。
俺が玲奈のことを好きだって。
「伶、勘がいいね」
「それは、紗弥の方だろ」
「玲奈がああしてるの、見てて平気?」
「うーん…」
答えに悩む。
そりゃあ、他の男にくっついてほしくはないんだけど…。
「でもあの2人、たまにエッチしてるしなあ」
「えぇっ!??」
俺の答えに驚きの声をあげる紗弥。
「…それも知ってて、平気なの?」
「まあ、透だから許せるって部分はあるかな。それに俺の方が、色んな女とヤリまくってたし」
「そうだよ、そうだったね…。よくトラブルにならないよね」
「なんとかねえ…。それに最近はずっとひとりの女としか遊んでなかったし」
「過去形?」
「そ、遊ぶのは終わりにしたの」
「本気出す気になった?」
「まあね」
そう頷くと、紗弥は笑った。
「なんかわたしが思ってたより、複雑みたいだなー」
それに言葉を返そうとしていると、前を行く玲奈に呼ばれる。
「伶!紗弥~!早くきて!!」
「はーい!」
紗弥が返事をする。
「つかまって」
さっき紗弥に言おうとした言葉の代わりに、浮き輪につかまるよう促して。
それからそれを引っ張って、前にいる2人に追いついた。
「ねえねえ、ウォータースライダーに行こうよ。4人で滑れるのあるんだって!」
玲奈の屈託のない笑顔。
この笑顔が、ずっと続けばいい。

「玲奈!あんまり深くまで行くと危ないよ!」
4人でスライダーをいくつか楽しんだ後。
紗弥が、莉緒ちゃんがもう起きてるだろうし、花菜ちゃんと少しは遊んであげないと…って言い出して。
透はそれに付き合うよと、紗弥と一緒に戻って行った。
思ってもなかった、玲奈と2人きりの状況。
どこか行きたいところあるか聞くと、波のプール!と即答だった。
それで、今そこに来たんだけれど。
玲奈はどんどん深い方に進んで行く。
「波が来るんだよ?こんなとこまできて平気?」
玲奈の胸の辺りまでの深さ。
「だって、深い方が波が大きくて楽しいのかなって思って」
「そうかもしれないけど…」
「もうずっと海で泳いでないから、このプール楽しみにし…」
玲奈が話してる途中で、一気に水嵩が増す。
あ、マズイ。
「わ…っ!」
咄嗟に、玲奈を抱き上げた。
「だから言ったろ。危ないよって」
波が過ぎ去ったところで、抱き上げたままの玲奈の顔を見上げてそう言った。
「ごめんね…」
しゅんとする顔が可愛い。
「いーよ。小さい子を抱っこするよりこっちの方がいい。俺、今ちょっと得してるし」
「え?……あっ、伶!!」
俺の目線の先に、胸の谷間。
それに気づいた玲奈が声を上げる。
「見ちゃだめ!」
「一日中見せてたじゃん。あっ、こら、暴れたら…」
「きゃ…っ」
そこでまた、波が来る。
玲奈は少し高い位置に持ち上げられたけど、バランスがとれず俺だけ思いっきり波をかぶった。
「おっぱい見てた罰だよ!」
「水も滴るいい男になったろ。しっかりつかまってて」
濡れた前髪をかきあげる。
玲奈の方を見ると、近距離で視線が合った。
「さっき透にも聞かれたし、ちゅーでもしちゃう?」
「ふぇ…?…あっ、え!?」
「何その声」
動揺してる玲奈の声が可愛くて、笑いが込み上げてくる。
「伶!またからかったでしょ!!」
「あはははっ」
それからしばらく、2人で楽しんだ。

そろそろ戻ろう、と浅いところまで行って玲奈を下ろす。
2人で並んで歩き出した。
「ところでさ。さっきの、キスのはなし。けっこう本気で言ったんだけどな」
「軽いノリだったよっ」
「深刻に言えばしてもよかったの?」
「…伶ばっかり、私をドキドキさせてズルイ」
「俺ずっとドキドキしてるけど」
そう言った俺の手を、玲奈は無言でぎゅっと握った。

玲奈から俺の手をとるのは、あの日以来初めて。

朝、玲奈が俺の背中に触れた時よりも
さっき、玲奈を抱き上げた時よりも

今が一番、心臓の音がうるさく響いてる。



———もし、
もし願いが叶うなら。

この繋いだ手を握りしめたまま、
どこか遠くへと駆け出したい。

あの夏の日の思い出のような
澄み渡る空の下で
玲奈と2人きりの時間を過ごしたいんだ。

あの輝くような夏の思い出に、
続きが欲しい。
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