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第2章 夏

7. (Ray side)

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この世で1番難しいことは
『諦めること』だと思う。

人の気持ちは愚かだ。

忘れられればいいことを、
どうしても忘れられず諦めきれないでいる。

頭では理解していることを、
気持ちのほうでは整理できない。

うまくいかなければ
永遠に、
抜けだせない呪縛のようなもの。

この諦めきれない想いは
一体どうすればいいんだろうか…。



青い空に真っ白な入道雲がでている、
典型的な夏の日。

「やっと夏休みだね!」
真上にある太陽の光を浴びながら、空を見た玲奈が嬉しそうにそう言った。
7月の最終日。
明日から1ヶ月休みともあって、学校から帰る足取りは軽い。
俺と玲奈と、透の3人で家に帰った。 

「あれっ、3人とももう帰ってきたの?」
玄関を開けると、ちょうど2階から降りてきた父さんと鉢合わせになる。
「今日、終業式だよ。明日から夏休み」
「そっかそっか。じゃランチまだだよね。何か作るよ」
「あ、じゃ私手伝うね」
玲奈と父さんはリビングへ消えていって。
玄関に取り残された、俺と透。
…なんかここ2日ほど透の様子が変というか…。
「なあ、透。なんかあったの?」
何ともなしに聞いてみると、表情が固まる。
「えっ!いや!!なんにもナイヨ…?」
「分かりやすいな…。言いたくないなら別にいいけど」
このままリビングへ行くよりかは話しやすいかなと、透と自分の部屋へ行った。
制服から着替える俺と、1人掛けのチェアの上でクッションを抱いて小さくなっている透。
「…あのさぁ」
しばらく無言だった透が口を開いた。
「オレこないだ、玲奈と寝たんだよねぇ…」
「あぁ…、一昨日?」
「知ってた?」
「いや、なんとなくそーかなって…」
玲奈が透の家に行くって言うから、予想はしてた。
「しちゃっといてアレだけど、怒んないの?」
「今まで何度もしてただろ」
「そーだけど…。せっかくわだかまりが解けてうまく行くかもって時だし」
「そう思ってんだったら、少しは気ィ使ってくれるかな!」
着替えていたTシャツから顔を出して透を見る。
そんな俺を見て、申し訳なさそうに笑う透。
「ごめんごめん。そーゆーつもりなかったんだけど、ついそうなっちゃって…」
「我慢すればいいだろ」
「むりだよっ!据え膳食わぬは…だし!!」
「…玲奈から誘ったってことね」
着替え終わって制服を整えると、ベッドに座った。
玲奈がそうしたいと思うなら、俺は口出しできないし仕方ない。
…それに、透となら許せるんだ。

「玲奈がさあ、伶とちゅーとかエッチすんのに、できるかどうか確認したいって」
「え。…え……?」
透の思いがけない言葉に、次の句が出て来ず、しんとする部屋。

ちょっと待って。
ちょっと待って…?
俺とするために他の男で確認する?
それがどういうことなのか、悪気とか何もないというか、何も思ってすらいないところが、玲奈らしい…。

「透にも俺にも失礼なハナシだな……」
「まあオレは、ヤらせてもらって得した方だけど~」
「その言い方ヤメロ」
「…でもオレ、なんかマズった」
困ったような顔でうつむく透。
「ん?」
「終わって『伶とできそう?』って聞いたら、『無理』って泣き出しちゃって…」
………。
透の言葉に一瞬止まってしまう。
それから、笑いが込み上げてきた。
「ははっ」
「え!?なんで笑うの?オレめっちゃ落ち込んだんだけど!!」
「…いや、玲奈がなんでそう言ったのか、想像つくから」
「えー、オレ落ち込み損かよ~」
「てか落ち込むのは無理って言われた俺だろ。なんで透が落ち込むんだよ」
「だって、オレ2人にはうまくいってほしいって思ってるし。それがオレのせいでダメになるとか、嫌じゃん」
「今んとこ、ダメの状態だけどな」

玲奈が、『無理』って言う時は昔から決まってるんだ。
気持ちと感情がバラバラになっている時。
だから別に心配しなくていい。
俺がもっと、玲奈の歩調に合わせればいいだけだから。
まあ…本当に無理なんだとしたら、それはそれで仕方がないけれど。

「…伶さあ、相手が落ちない子ほど、本気になるタイプだね」
「それが男の醍醐味じゃないのか」
「悪い男だよ…」
透がそう言った時、バンと勢いよく部屋のドアが開く。
「ねーふたりとも!ごはんできたよ」
そんな声とともに玲奈が飛び込んできた。
「玲奈っ。伶の部屋、ノックとかしよーよ!オレびっくりしたよっ」
驚いてのけぞっている透が、玲奈に注意してくれる。
「そうだよね。伶は私の部屋に来る時、ちゃんとしてくれるもんね」
「奈々子ですらするぞ…。心臓に悪い」
立ち上がって、玲奈と3人で部屋を出る。
「なーに、悪い話でもしてたの?」
「玲奈の悪口言ってたんだよ」
「え!?透の意地悪!」
騒ぎながら階段を降りて、リビングのドアを開ける。
父さんが、3人とも仲良しでいいねって笑った。


『オレ、玲奈と寝た』
透がそう言ったのは、3年前。

俺と玲奈の関係を知っている透が、一体何を言っているんだろう…と、ただ呆然とすることしか出来なかった。
少しの間、2人とも何も言わず黙っていて、先に口を開いたのが透。
『伶、オレのこと殴ってもいいんだぞ』
そう言われて、拳をぎゅっと握りしめたけど、透のことを殴る気にはならなかった。
だって、簡単にそういうことをするヤツじゃないって、知っているから。
『…何があったのか、話せよ』
2人で壁にもたれて座った。
しばらくして、透が俺に聞いた。
『伶、知ってた?玲奈の…声のこと』
『声…?』
『歌が、歌えないんだ』
『え——…』
あの頃の玲奈はずっと塞ぎ込んでいて、でも俺にはどうもしてあげられなくて。
透がしょっちゅう玲奈を元気づけてくれていた。
やっと、外に出られるようになった…って時だった。
それまでは、音楽どころじゃなくて、気づいてなかったんだ。
玲奈が、あんなに好きだった歌が歌えなくなっていたこと。
『それとさあ…オレ、マユカに振られたんだ…』
ポツリと透がそう言った。
『こんなの、言い訳にしたらいけないんだけど。オレも玲奈もお互いに失ったものについて話してて…お互いそのことを一瞬でもいいから忘れたくて。気がついたら、そういうことになってた』
聞いているだけで、胸が痛い。
目頭が熱くなって視界が潤んだ。
『ごめんね、伶』
『謝らなくていいよ…』
心の底から大切にしているものを失うって、俺には、分からない感情だから。
玲奈と透の2人じゃないと分かち合えないし慰め合えないんだ…って、そう思ったら別に、玲奈と透が寝るくらい大したことじゃない。
玲奈と透が必要としているもののカタチが、そうだっただけ…。
『…なぁ、伶。オレどうすればいいの?他の男を好きになったとか、オレが優しくなかったとか、そんな理由だったら納得できるのに』
透の声が涙で掠れる。
『年の差が無理だって言われた。これまでは知らなかったから愛せたんだって。歳を知ったら、一瞬でなくなるもんなのかよ。自分じゃどうしようもできない理由で諦めなくちゃいけないもんなの?たった7年、生まれてくる時が違っただけで…』
何も、言えなかった。
ただ俺も、涙が溢れて止まらなかった。
『自分じゃどうしようもできない理由で諦めなくちゃいけない』
それだけは俺にも分かる。
俺だって、兄妹だからって理由で玲奈を諦めなくちゃいけないなんて、理解できないから。
どうやって気持ちにブレーキをかけて、どうやって諦めればいいんだ?
そんな方法があるなら教えてくれ。
そうすれば苦しまずに済むんだから。

どれくらい時間が経ったんだろう。
日が落ちて暗くなった部屋で、透と誓った。

『諦めるのは、やめよう』


昼ごはんを食べ終わって、リビングでお茶を飲んでいると父さんが話しかけてきた。
「ちょっと早いけど、もう出るね。そのままドイツに戻るから、2人とも気をつけて過ごしてね」
「パパ、夜のフライトって言ってなかった?どこか寄ってから行くの?」
「圭のところに寄ってから行くんだ」
「私も行きたい。ヴァイオリンの弦が欲しい」
「うーん…。いいけど、帰り家まで送ってあげられる時間ないかもしれない」
父さんにそう言われて、玲奈がしゅんとする。
玲奈はひとりで電車に乗りたがらないから。
「じゃあ俺も行くよ。電車で帰るし」
「オレもオレもー!」
俺と透がそう言ったことで、玲奈も父さんも笑顔になった。
「それじゃあ、みんなで行こうか。先に透くんの家に寄るから制服着替えておいで」

車に荷物を積んで、透の家に寄ってから出発する。
そういえば、こないだケイさんのお店で透とピアノ弾いて遊んだの、楽しかったな。

「おー!涼介久しぶりだなー!!」
お店に着くと、ケイさんが父さんに真っ先に気づいて駆け寄ってきた。
「お、こどもたちも一緒か。こないだは楽しかったな」
ニコニコ話しかけてくれるケイさんに挨拶をする。
それが一通り終わると、父さんが静かな声でケイさんに尋ねた。
「圭、こないだは楽しかった…とは、どういうとなのか説明してくれる?」
「…うっ」
ケイさんが一歩後退りするのが分かった。
玲奈が小声で、パパ怒ってる?って俺に聞いてくる。
「あー…。こないだお前のおつかいで子供たちがここに来た時、そこのイベントブースで遊ばせたんだよね」
「それで?まだ続きがありそうだよね?」
「なんつーか、すげえ演奏で人だかりができてさ。その時の動画を上げたらめちゃくちゃ反応よくってさあ…」
「圭一郎。未成年の子どもたちの動画を親の許可なくインターネット上にアップしたと…?」
「言うつもりだったよ!ほんとゴメン!!ちゃんと顔は隠してあるから!」
「当たり前だよそんなのは」
「怒るのは当然だけど、見てみてよ。あ、今はもうサイト上では動画差し替えちゃってるからね」
ケイさんが持っていたタブレットを父さんに見せる。
こないだ来た時に、俺たちが弾いてる映像だ。
きちんと編集してあって、手元のアップや首より下しか映っていない。
「…これ…、本当に3人が…」
しばらくタブレットを眺めたあと、父さんが俺たちの方を向いた。
3人とも、うんうん…とうなずく。
「圭、その動画、俺に送って」
「いーよ」
受信したのを確認すると、父さんはメールかな?高速な指さばきでスマホを扱っていた。
「…涼介も驚いたろ。あれ、初見の楽譜で1人弾き用だったんだ。3人とも、一度流して見ただけであんな演奏が…」
ケイさんがそう言っていると、父さんのスマホが鳴った。
それをタップすると、ケイさんの方に向ける。
「うわっ、篤士!!」
ケイさんが驚きの声をあげてる時にそのスマホをそっと手に持たせて、父さんは俺たちの方を向いた。
「ねえ3人とも。3人でよく音を合わせて遊んでるのは知ってたけど、人前で弾いても平気なの?」
「俺は平気かな」
「オレも」
俺と透が交互に答える。
「玲奈はどうなの?」
「私は、まわりの人がザワザワするのが耳障りだけど…。弾くのは平気」
「色んな人に見られていても平気?」
3人とも、その質問にうなずいた。
「そっか」
父さんは、安心したような表情になって微笑む。
「3人ともすごく上手だったね」
そう言われると、なんだか嬉しい。
「圭が撮ってた動画は顔が分からないようにしてあったからいいけど、3人とももし動画とかを撮る時は顔や名前は出さないようにね」
「分かった」
「よし、じゃ好きにしてていいよ」
「ハイ涼介。篤士にめちゃくちゃ怒られた」
通話を終わらせたケイさんが、父さんにスマホを返した。
「怒るよそれは。もうサイトにアップしたりしないで。本人達にきいたら、弾くのは大丈夫みたいだから、せめて音源だけね」
「分かったよ~、悪かったよ。それでさ…」
ケイさんと父さんが話し始めたのを見て、俺たちはその場を離れた。


「おじさんに褒められると嬉しいよな~」
楽譜を見ながら、透がそう言う。
「なんで?」
「世界に名だたるピアニストだぞ」
聞き返すと、楽譜から目を離して俺を見る。
世界に名だたる?
以前、透に言われて調べた時に、確かに賞賛の言葉がズラリと並んでいたけれど。
それは単に、持ち上げられているというか…なんかピンとこなくて。
「俺には、ピアノがちょっと上手なおじさんだけど…」
「それ聞いたら、涼介泣くぞ」
「わっ!」
突然、背後からケイさんが話に入ってくる。
「さっきは悪かったな。オレ個人の意見としては、またお前たちの演奏聴きたいよ」
俺と透、一緒にケイさんから頭を豪快に撫でられた。
「涼介、上のスタジオにいるから。自由にしてていいってよ。ヒマだったら今はイベントブース空いてるから好きに使え~」
ケイさんはそう言って、その場を離れる。
俺と透は顔を見合わせた。
「…行くか」
こないだはめちゃくちゃ楽しかったもんな。
手に取って見ていた楽譜を戻して、俺たちはイベントブースへ行く。
玲奈はどこにいるんだろうと思っていたら、ちょうどそこでケイさんと談笑していた。
「あ!伶、透。来ると思った」
俺たちに気づいて、にっこり笑う。
「ねえねえ、このシンセサイザー使っていいって!」
「おおー!」
玲奈の言葉に喜ぶ透。
透はこういうの好きなんだよね。
一通りの楽器は弾けるし、透の家にあるけど、シンセサイザーはないな…。
「このあと使う予定があるから、楽器はこのまま置いといてもらいたいんだけどいい?」
「いいよ」
バンド演奏かな?
シンセサイザーにドラムにアンプ。
「ピアノはいる?持って来させようか」
ケイさんに聞かれてうなずく。
「なに弾く?」
透が、新しいおもちゃを与えられた子どもみたいにはしゃいでいる。
「私、アレがいいな。リチャードクレイダーマンの"Lady Di"」
玲奈の選曲。
音の組み合わせを考えて、透と一緒にうなずいた。
「そうしよう」
「ねー、ケイ楽譜貸してー!」
ピアノを運んでくるよう指示していたケイさんに、透がお願いする。
「あー…。ピアノソロの楽譜しかないなあ」
「それでいいよ。音を足すのに確認したいだけだから。あと、玲奈にヴァイオリン貸して」
「わかった、持って来させるよ」
ケイさんが従業員をつかまえて、お願いしてくれた。
楽譜を持ってきてもらって、これでいい?と俺たちに渡してくれる。
「ピアノの楽譜見ただけで、他の楽器の音を想像してすぐ弾けるの?」
「弾けるよ」
その質問に、俺たち3人同時に答える。
普段から色んな曲をアレンジして弾いているから、お互いの音を知っていて慣れてるんだよね。
それに、選んだ曲も難しくないものだし。
「…すごいね」
ケイさんは驚いた顔つきで、そう言った。
それからは黙って、俺たちの様子を見てくれていた。
「玲奈、音あわせられる?」
透に聞かれて、シンセサイザーで出す音を玲奈が調整する。
「パーカッションあればもっといいのになあ」
「これで打ち込むまではねえ…」
シンセサイザーで出せるんだけど、他に使う音の幅を考えると同時に出すのは現実的じゃない。
そうなると音を打ち込んで演奏と同時再生だけど、そこまでするほどでもないし…。
「じゃ、オレが叩いたげるよ。そこにドラムにあるし」
ケイさんが俺たちの会話を聞いて、買って出てくれた。
「オーナー?それが終わったら、遊んでばかりいないで働いてくださいよ」
いつの間にかケイさんの隣に立っていた、店長と名札をつけたお姉さんにチクリと言われている。
それを見て、笑う俺たち。

最後にもう一度楽譜を見て確認して、定位置につく。
俺のピアノ、玲奈のヴァイオリン、透のシンセサイザー、ケイさんのドラム。
いつもとは違う楽器が混ざっていて、わくわくする。
俺の合図で、弾き始めた。

"Lady Di"
イギリスのダイアナ妃に捧げられた曲。
爽やかでパッと明るい気分になれるような、そんなメロディ。
玲奈が好きそうな曲だ。
ピアノに他の音が合わさって、層が厚くなる。
この音に包まれている感じが心地いい。

弾き終わると同時に、わっと拍手をもらえた。
玲奈を見るとあの太陽のような笑顔。
そのまま視線を透へ移した時。
「まゆ…っ!!」
観客の方を見つめながら、驚いた表情で勢いよく立ち上がる。

———え?

透の視線の先…。
ひとりの女性が踵を返して走り出す。
…あれ、マユカさんだ。
「待っ……」
追いかけようとして、ためらう透に、玲奈が声を掛けた。
「透、早く行って!」
「ごめん」
そう呟くと、走り出す透。

「ねえ、今、透くんが走ってどこかへ行ったんだけど…」
父さんが俺たちのところへ歩いてきてそう言った。
「好きな女の子を追いかけてったの」
玲奈が答える。
「そうなの?大丈夫かな」
「あとで連絡しておく」
「そうそう。なんかザワザワしてると思って来たんだけど、もしかして何か弾いてた?」
「うん」
「涼介!今弾いてたやつの動画送ったぞ。あ、お前に聴かせるために撮ってただけだからな」
ケイさんが近寄って来て、ピアノにもたれかかる。
「マユカと透が会うの久しぶりだな。アイツ大丈夫かな…」
「ああ、透くんの好きな子はマユちゃんだったのか!いいね~、恋愛楽しそうだ」
ケイさんと父さんの会話。
「ねーねー!パパたちマユカさんのこと知ってるの?どんな人??」
玲奈が食いついて質問する。
「難しい子かな」
そう言って苦笑する父さんと、それに賛同してうなずくケイさん。
「…あ、次のレッスン始まるから行かないと。透くんいなくなっちゃったし、2人は帰る?」
「そうする」
玲奈と一緒にうなずいた。


あれから、玲奈が欲しいって言ってたヴァイオリンの弦と俺が欲しかった楽譜を買って、ケイさんのお店を後にした。
「今日、またみんなで演奏できて楽しかったね」
隣に並んで歩く玲奈が、笑顔でそう言った。
「そうだね」
玲奈のこの笑顔を見ていると、耳にまだ残っているさっき弾いた曲が頭の中にふわっと流れる。
…そうだ。
子どもの頃からの玲奈との思い出に、イメージがぴったりの曲なんだ。

「透、大丈夫かなあ…。心配」
玲奈が小さな声で呟く。
「心配しなくていいよ。大丈夫」
だってあの日2人で誓い合った。
『諦めることは、やめよう』と。
だから、3年ぶりのチャンスを逃すわけない。

頭の中で繰り返されるあの曲のボリュームが、さっきよりも大きくなる。
「ねえ、玲奈」
電車を待つホームで、隣にいる玲奈に話しかけた。
その時、ちょうどホームに電車が入ってくる。
風にあおられて乱れた玲奈の髪を整えながら、伝えた。

「むかしも今も、玲奈のことが大好きだよ」



———もし、
もし願いが叶うなら。

一度でいいから、
この気持ちを後押ししてくれる柔らかい風に身を包ませてほしい。

ダメだと知りつつも
どうしても諦められないこの気持ちに
救いがほしいんだ。

それが、ほんの一瞬でも構わない。

玲奈に対する想いの他の感情を
忘れられるひと時がほしい。
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