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第2章 夏
9. (Ray side)
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失ってから気づく、大切なもの。
それをもう一度手に入れたら。
次にとるべき行動は何だろう。
箱の中に入れておく?
鎖で繋いでおく?
気持ちを縛りつけずに
俺だけを見てもらうには
どうすればいい?
『わたしも、伶のことだいすきだよ』
一体、いつぶりにその言葉を聞いただろう。
子どもの頃、よく伝えていた『大好き』という言葉を、成長してからはあまり口にしなくなった。
「ねえねえ、伶。怒ってる?」
朝食を作る俺のまわりで、玲奈が様子を伺うようにうろうろする。
「…怒ってないよ」
ふぅっと息を吐いて、そう答えた。
「でも今、ため息ついた!」
左横にちょこんと来て、俺の顔を見上げる玲奈の顔をじっと見る。
目を逸らすように俯いた玲奈が、俺のTシャツ裾を掴んだ。
「……ごめんね、伶」
しゅんとして謝る。
コンロの火を止めて、玲奈の頭をくしゃっと撫でた。
「怒ってないよ。途中で寝ちゃえるくらい、退屈なキスした俺が悪いんだし」
「えっ!?そんなっ、ちが…っ!!」
騒ぐ玲奈を横に、棚から皿を出して作った朝食を並べる。
ちょっと意地悪なこと言ったかな…。
昨日、
玲奈が突然、俺の額にキスをした。
そんなの、想像すらしていなくて。
顔が真っ赤になるのを感じた。
驚きと嬉しさで心臓がバクバクいう。
可愛すぎて、玲奈を抱きしめた。
なんとか必死に抑えようとしたんだけど、できなくて…。
俺も玲奈にキスをした。
泣きそうになった玲奈に言い訳をしたら、返事がまさかの『していいよ』って…。
完全に、理性とかそういうものは忘れていた。
どのくらい?
最初にしたキスよりは長かったと思うけど。
時間にしたら数十秒かな。
唇を離したら、玲奈は意識が飛んでいて…。
寝ていることに気がついた。
なんで寝れるのか。
ホント意味わかんなくて、しばらく固まってしまったけど。
…でも、ホッとした。
そこまでで止められる自信がなかったから。
スヤスヤ眠る玲奈に声をかけたら、寝ぼけていたのか…返事をしたんだ。
それが、
『わたしも、伶のことだいすきだよ』
「伶…」
しょんぼりした様子で朝食を食べている玲奈が、俺を呼ぶ。
「私、すごく気持ち良かったから、途中で意識無くなっちゃったんだよ…」
ゴホッ!
飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。
その言い回しはどうかと…。
「あっ、伶、大丈夫?」
「だ…大丈夫。大丈夫だし、ホント、全然怒ってないから、この話はもうやめよう」
「ほんと?」
「本当。ホラ、玲奈が好きな桃、俺の分もあげるから、もう元気出して」
「うん!ありがとー!!」
桃が入った小皿を玲奈の方に差し出すと、途端に笑顔になる。
…よかった単純で…。
最近、なんだか急ぎすぎているような気がする。
少し前までは、玲奈ともっと距離があった。
…台風のあの日からだよな。
まだたった数週間で、3年間のブランクをどんどん埋めていってるような…。
いや、違う。
3年前とは全然違う。
玲奈に触れるのも、触れられるのも。
むかしはここまでドキドキしたりしなかったし、触れるのが怖いと思う時もなかった。
…たまに、思う。
きちんとコントロールしていないと、玲奈を壊してしまうんじゃないか、って。
だから昨日、玲奈が寝たのには救われた。
玲奈との関係が、元のようになるのは嬉しい。
だけどもっと、穏やかに進めていきたい…。
「ねーぇ、伶。私、本屋さんに行きたいな」
テレビを見ていると、ソファの背もたれの後ろから、玲奈が声をかけてくる。
「いいよ」
「やった!」
「夏休みに入って、もうずーっと家の中だったしね。少し遠くの大きい本屋さんまで行こうか」
「うんっ!着替えてくるね!!」
喜んで自分の部屋へ走っていく玲奈。
あれから数日、いつも通りの毎日を過ごした。
玲奈は、夏休みを日本で過ごしたいと言った割には、どこかへ出掛けることもなく。
何かをすることもなく。
おかげで課題は全部終わったし、撮り溜めてたドラマも見れたし。
ま、いいんだけどね。
でも少しは外の空気も吸いたいなと思っていたから、外出の提案は俺も嬉しかった。
ターミナル駅の近くにある、大きな書店。
「…ね、俺向こう見てきてもいい?」
「いいよ。私この辺にいるね」
欲しい本を探すのに、玲奈から離れる。
1ヶ月休みだし、色々読めそうだな。
そう思って店内をまわって、数冊本を選んだ。
戻ってくると、玲奈がいない。
「あぁ…また…」
玲奈はいつもそうだ。
『ここで待っててね』
そう言われても、すぐに目に映るものに興味を引かれてどこかに行ってしまう。
子どもの頃から何度迷子になって、何度怒られたことか…。
あの頃は、心配で一緒について行って、俺も一緒に迷子になる側だったけど。
「…あ、いた」
遠目に玲奈を見つける。
幸い書店からは出ていなかったけど、誰かと話してる。
———あ、あれって…。
「玲奈!」
後ろから声をかけると、玲奈が振り向く。
それと同時に、玲奈と話していた人が、口を開いた。
「アンタ、誰」
そんな不躾な物言いをする、ものすごい美人。
こないだ、ケイさんのお店で見た。
これ、たぶんマユカさんだ。
「森園伶です。透の友達の…」
そう答えると、その美人が、ああ!と反応する。
「玲奈チャンのことを大好きな伶クンね」
…えっ。
その言葉に固まる俺。
「ん?あれっ??今、森園って言った?」
「はぁ…」
質問されても、さっきのことが衝撃で言葉が出ず。
「もしかして…」
「マユカー!!あ、あれっ?伶と玲奈じゃん」
マユカさんが喋り始めた時、ちょうど透が近づいてきた。
「知り合いだったっけ??」
「もしかしてと思って、私が話しかけたの。この前、ケイさんのところでチラっと見たから…」
首を傾げる透に、玲奈が答える。
「ねえ、透。この2人って、森園涼介のこどもなの?」
「そうだよ」
さらっとそう言った透を見つめて、マユカさんの顔が青くなっていくのが分かった。
とりあえずお茶でもする?…と、4人でその場を離れてカフェに入った。
マユカさんはとんでもなく美人だけど、愛想は全然ない。
向かい合って座ってから、ずっと険しい目つきで俺と玲奈を見ている…。
「ねーねーマユ。そんなに見てたら、伶と玲奈に穴あいちゃうよ!」
透にそう言われて、やっと俺たちから視線を外すと、そのままの顔で透を見た。
「アンタ、散々、双子だけど大好き同士の伶クンと玲奈チャンの話をしておきながら、なんでそれが涼センセイの子どもだって言わなかったの…!?」
涼センセイ…そうか。
マユカさんは、父さんがたまに指導に行ってる、音大とその附属高校の生徒さんだったのかな。
もうその、大好き同士とか言われるの…居た堪れない気分になるけど、この際無視してよう…。
「えー、親友の話するのにフルネームで伝える必要ないじゃん」
「でも!あの森園涼介の子どもって言えたでしょうが!!」
「親とかどーでもいいでしょ。オレの大事な友達の話。親で友達選んでないし」
なんか透がちょっと嬉しい事を言ってくれる。
…だけど、今ソレ、スッと入ってこない。
透からフイと顔を逸らしたマユカさんは、テーブルに両肘をついて再び俺と玲奈を見る。
「アタシ、兄貴も弟もいるけど、アイツら絶対に好きになる事ないし。正直、兄妹を好きになるとか全く意味わかんないけど!でも別に、人を好きになる心は自由だし止められないから気にしてなかったのね」
何とも率直な意見をもらう。
「でも、涼センセイの子どもたちっていうのが、すっごく複雑!!」
「なんで~?」
透にそう聞かれて、マユカさんは透を見ると、数秒そのまま透を見つめる。
そして目を逸らすと、顔を赤く染めた。
しばらくして、はにかんだ表情で口を開く。
「涼センセイは、アタシの初恋の人だから」
「えぇっ!?」
驚いて固まる透に、同じく驚いて何も言えない俺。
あっ、俺は初恋どうのが驚いたんじゃなくて…。
「マユちゃん。すっっっごい可愛いっ!!」
玲奈がキラキラした目でそう言った。
…そう、俺もそれで驚いた。
無愛想な美人だけれど、はにかんだ顔がヤバイくらい可愛い。
透が、マユカはめちゃくちゃ可愛いんだ!って自慢してたのがよく分かる…。
「かっ、カワイイ?」
照れてるマユカさんに、玲奈がうんと頷く。
「アタシ、玲奈スキ」
そう言って、玲奈と2人で微笑み合う。
それから、拗ねてる透をよそに、マユカさんはその初恋の話をしてくれた。
「8歳の頃、親の仕事でドイツにいてね。男勝りなアタシを心配した親が、無理矢理ピアノを習わせたの。少しでも女の子らしくなるようにって。でもそれが嫌で、どんな先生が来ても反発してた。何人も先生が辞めていったあと、涼センセイがきたの」
「…なんだ。子どもの頃から知ってたんだ?」
透の言葉に、マユカさんは頷く。
「いつも通り逃げたり隠れたり一通りしたあと、捕まえられて。ピアノがある部屋に連れて行かれて、言われた。『俺がマユちゃんが弾くべき曲を弾くから、静かにしててね。そしたら真面目に頑張ってるってお母さんを騙せるでしょ』って。子どものアタシは、それならいいなって思って暴れるのをやめた」
父さんはドイツにいる時も、コンサートの合間には個人レッスンをつけていて色んなところへ行っていた。
それが、マユカさんのところにも行っていたって、すごい偶然…。
「弾いてもらった時のその音が、それまでの人生で聴いた事がある音の中で、1番キレイな音だった。その日からアタシ、ピアノが好きになったのよ」
そう言ってにっこり笑う顔がすごく可愛い。
「涼センセイはレッスンに来る度、音楽の話の他に、こどもの話もしてくれた。何歳とか双子だとかは聞いたことなかったから最初ピンとこなかったんだけど、息子がこうだとか娘がこうだって、いっぱい話してくれたの。こどもたち、めちゃくちゃ愛されてるな~って思って聞いてた。そんな幸せそうに家族のことを話すセンセイが好きだった。だからさ、ものすっごい複雑なんだよね…!!」
最後の方、またあの険しい目つきになる。
「それで、マユの初恋はいつ終わったんだよ~」
透に聞かれて、さらに険しい顔になるマユカさん。
「高3の時。ドイツは2年しかいなかったから、それからはずっと会ってなかったんだけど。高3の時、講師としてきたセンセイに再会した。ずっとあの音に憧れて、ずっと続けてきたアタシのピアノを聴いた涼センセイに言われたの。『クラシック向いてないな~アハハ』って…!!」
…えっ!!?
俺たちみんな何も言えず固まる。
「そこで初恋は終わったんだけど」
話を聞いて引いてる俺と玲奈と透の顔を、マユカさんは見回す。
「でも、そのかわりジャズを教えてくれた。指導してくれたのは、別の先生だけど。でも涼センセイのお陰で今のアタシがある」
父さんがマユカさんのことを『難しい子』って言ってたけど、実直だよな…。
見た目で誤解されやすいのかな。
「マユちゃんも花火大会一緒に行くんだよね?」
雑談をしている中で、玲奈が透とマユカさんを見てそう尋ねた。
「玲奈が行くならアタシも行く」
「ちょっと!オレがどんなに誘ってもウンって言ってくれなかったのに~!?」
「…下心ある人とより可愛い女子と行きたい」
冷たくあしらわれる透を見て、笑ってしまう。
向かい側で透とマユカさんが言い合いをしているのを見ていたら、玲奈が俺の服の裾を引っ張る。
「どした?」
「そろそろ行こ?」
顔を近づけてきて小声でそう言う。
玲奈がそんな事を言い出すの珍しい。
……あ。
そこで気づいた。
今日は透の誕生日だ。
分かった、と答えていると、マユカさんが俺たちに話しかける。
「複雑だと思っていたけれど、2人だけを見ているとお似合いよねえ…。アタシも子持ちのオッサン好きになったり、7つも年下のクソガキ好きになったりするし。好きになる相手って道理では選べないこともあるよね」
その言葉が、ものすごく心に沁みる。
何も言えないでいると、透が察して先に口を開いてくれた。
「ね~マユちゃん。今、オレのこと好きって言った?言ったよね??」
「誰もアンタだって言ってない」
「オレ以外に誰がいるのさ?」
透がすごく幸せそうな顔をしていて、こっちまで嬉しい気持ちになる。
「…じゃ、俺たちそろそろ行こうかな」
2人に声をかけた。
「もう行っちゃうの?」
「お誕生日デート邪魔しちゃ悪いし」
マユカさんに聞かれて、玲奈が答えた。
「お誕生日?ダレの…」
俺と玲奈が透を指さす。
マユカさんはその指の指す方をみて、顔色を変えた。
「アンタ何でそんな大事なこと黙ってんのよ!!」
噛み付かんばかりの勢いで怒るマユカさん。
「ごめん、言い出しにくくて…。怒んないでよ~!」
「アタシも帰るっ!」
「待って、マユ。オレも今日から大人だからな。これから大人のデートを…」
「ぶん殴られたいの…?」
「ごめんってば。そんなに怒らないで」
透がマユカさんを抱きしめて、頭を抱えて撫でる。
その時に透が俺に視線を送ったのを見て、玲奈の手をとって席を立った。
「…マユちゃん、すっごい可愛かったね」
カフェを出て少し歩いたところで、玲奈が俺の顔を見てそう言った。
「そうだね。びっくりするくらいの美人だし、笑うとまた恐ろしく可愛いかったな」
素直に感想を伝えると、玲奈は眉間にしわを寄せてうつむく。
「伶も、マユちゃんみたいなキレイで可愛い女の子と付き合いたい?」
え、なにそれ。
…ヤバイ、今、玲奈のことめちゃくちゃ可愛いって思ってる。
ここが公共の場じゃなかったら、抱きしめたいくらいに。
かわりに、玲奈の頭をポンと撫でた。
「俺の1番はずっとここにいるから、他は考えたことない」
「…!!」
玲奈の顔が真っ赤に染まる。
俺とは目も合わせてくれなくて、そこから会話は何もなかった。
だけど、玲奈がいる左側がすごく温かい。
しばらく黙ったまま歩いていると、どこからかクラシックの音楽が聞こえてきた。
「…あ、モーツァルト」
玲奈が隣で呟く。
聞こえてきたのは、アイネ・クライネ・ナハトムジークの3楽章。
メヌエットの可愛い曲。
「これ聴くたびに、パリで迷子になった時のこと思い出すんだけど」
俺がそう言うと、玲奈が困った顔する。
「だ…だって……」
6歳か7歳くらいの時だった。
パリのデパートで、父さんと母さんが用事を済ますほんの数分の間。
退屈した俺たちは、店の外で待っていると約束をした。
『時計の長い針が12のところに来るまでには戻ってくるから、絶対にここを動いちゃダメよ』
母さんにそう念を押されたのに、2人の姿が見えなくなった、ものの数秒のうちに玲奈が走り出した。
『音楽がきこえるの!』
その時の音楽が、今聞こえているコレだ。
玲奈ダメだよって言っても聞かないから、一緒について行くことに。
巨大なデパートの中で、気づいたらどこにいるかすら分からなくなっていた。
初めて来た場所で、まだフランス語も英語もそこまで喋れず、途方に暮れた。
「どんなヴァイオリンを使っているのか、見てみたかったんだもん。聞いたことのない種類の音だったから…」
「もーほんと、二度と家に帰れないんじゃないかと思ったよね。あの時は…」
「私は平気だったよ。伶がいたから」
俺がどんな思いをしたかも知らないで…。
玲奈の答えに思わず笑ってしまう。
「さっきも本屋さんでもいなくなったし、こないだも勝手に店を飛び出してった時あったでしょ。お願いだから、もう絶対にひとりで勝手にどこかへ行ったりしないで」
そう言うと、玲奈が視線を泳がせた。
「もう次そういうことあったら、探さないよ」
「え!やだ!!だめっ」
玲奈が焦った様子で俺を見る。
かわいいなあ…。
信号待ちで足を止めて、それから玲奈の頬を軽くなでた。
「…ずっと、そばにいてよ」
「うん…」
玲奈はすぐに前を向いてしまったけれど、微かに微笑んだのが分かった。
———もし、
もし願いが叶うなら。
さっき言った言葉どおり、
永遠に玲奈を俺のそばにいさせてほしい。
失ったあの3年間を
また繰り返したくない。
『だいすきだよ』
またそう言ってくれた玲奈の心を
もう2度と離したくない。
俺は怖いんだ。
俺の世界の全てが、玲奈だから。
永遠に続く世界などないと
分かっているけど
それでも永遠を願う。
いつか失う、その日まで……。
それをもう一度手に入れたら。
次にとるべき行動は何だろう。
箱の中に入れておく?
鎖で繋いでおく?
気持ちを縛りつけずに
俺だけを見てもらうには
どうすればいい?
『わたしも、伶のことだいすきだよ』
一体、いつぶりにその言葉を聞いただろう。
子どもの頃、よく伝えていた『大好き』という言葉を、成長してからはあまり口にしなくなった。
「ねえねえ、伶。怒ってる?」
朝食を作る俺のまわりで、玲奈が様子を伺うようにうろうろする。
「…怒ってないよ」
ふぅっと息を吐いて、そう答えた。
「でも今、ため息ついた!」
左横にちょこんと来て、俺の顔を見上げる玲奈の顔をじっと見る。
目を逸らすように俯いた玲奈が、俺のTシャツ裾を掴んだ。
「……ごめんね、伶」
しゅんとして謝る。
コンロの火を止めて、玲奈の頭をくしゃっと撫でた。
「怒ってないよ。途中で寝ちゃえるくらい、退屈なキスした俺が悪いんだし」
「えっ!?そんなっ、ちが…っ!!」
騒ぐ玲奈を横に、棚から皿を出して作った朝食を並べる。
ちょっと意地悪なこと言ったかな…。
昨日、
玲奈が突然、俺の額にキスをした。
そんなの、想像すらしていなくて。
顔が真っ赤になるのを感じた。
驚きと嬉しさで心臓がバクバクいう。
可愛すぎて、玲奈を抱きしめた。
なんとか必死に抑えようとしたんだけど、できなくて…。
俺も玲奈にキスをした。
泣きそうになった玲奈に言い訳をしたら、返事がまさかの『していいよ』って…。
完全に、理性とかそういうものは忘れていた。
どのくらい?
最初にしたキスよりは長かったと思うけど。
時間にしたら数十秒かな。
唇を離したら、玲奈は意識が飛んでいて…。
寝ていることに気がついた。
なんで寝れるのか。
ホント意味わかんなくて、しばらく固まってしまったけど。
…でも、ホッとした。
そこまでで止められる自信がなかったから。
スヤスヤ眠る玲奈に声をかけたら、寝ぼけていたのか…返事をしたんだ。
それが、
『わたしも、伶のことだいすきだよ』
「伶…」
しょんぼりした様子で朝食を食べている玲奈が、俺を呼ぶ。
「私、すごく気持ち良かったから、途中で意識無くなっちゃったんだよ…」
ゴホッ!
飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。
その言い回しはどうかと…。
「あっ、伶、大丈夫?」
「だ…大丈夫。大丈夫だし、ホント、全然怒ってないから、この話はもうやめよう」
「ほんと?」
「本当。ホラ、玲奈が好きな桃、俺の分もあげるから、もう元気出して」
「うん!ありがとー!!」
桃が入った小皿を玲奈の方に差し出すと、途端に笑顔になる。
…よかった単純で…。
最近、なんだか急ぎすぎているような気がする。
少し前までは、玲奈ともっと距離があった。
…台風のあの日からだよな。
まだたった数週間で、3年間のブランクをどんどん埋めていってるような…。
いや、違う。
3年前とは全然違う。
玲奈に触れるのも、触れられるのも。
むかしはここまでドキドキしたりしなかったし、触れるのが怖いと思う時もなかった。
…たまに、思う。
きちんとコントロールしていないと、玲奈を壊してしまうんじゃないか、って。
だから昨日、玲奈が寝たのには救われた。
玲奈との関係が、元のようになるのは嬉しい。
だけどもっと、穏やかに進めていきたい…。
「ねーぇ、伶。私、本屋さんに行きたいな」
テレビを見ていると、ソファの背もたれの後ろから、玲奈が声をかけてくる。
「いいよ」
「やった!」
「夏休みに入って、もうずーっと家の中だったしね。少し遠くの大きい本屋さんまで行こうか」
「うんっ!着替えてくるね!!」
喜んで自分の部屋へ走っていく玲奈。
あれから数日、いつも通りの毎日を過ごした。
玲奈は、夏休みを日本で過ごしたいと言った割には、どこかへ出掛けることもなく。
何かをすることもなく。
おかげで課題は全部終わったし、撮り溜めてたドラマも見れたし。
ま、いいんだけどね。
でも少しは外の空気も吸いたいなと思っていたから、外出の提案は俺も嬉しかった。
ターミナル駅の近くにある、大きな書店。
「…ね、俺向こう見てきてもいい?」
「いいよ。私この辺にいるね」
欲しい本を探すのに、玲奈から離れる。
1ヶ月休みだし、色々読めそうだな。
そう思って店内をまわって、数冊本を選んだ。
戻ってくると、玲奈がいない。
「あぁ…また…」
玲奈はいつもそうだ。
『ここで待っててね』
そう言われても、すぐに目に映るものに興味を引かれてどこかに行ってしまう。
子どもの頃から何度迷子になって、何度怒られたことか…。
あの頃は、心配で一緒について行って、俺も一緒に迷子になる側だったけど。
「…あ、いた」
遠目に玲奈を見つける。
幸い書店からは出ていなかったけど、誰かと話してる。
———あ、あれって…。
「玲奈!」
後ろから声をかけると、玲奈が振り向く。
それと同時に、玲奈と話していた人が、口を開いた。
「アンタ、誰」
そんな不躾な物言いをする、ものすごい美人。
こないだ、ケイさんのお店で見た。
これ、たぶんマユカさんだ。
「森園伶です。透の友達の…」
そう答えると、その美人が、ああ!と反応する。
「玲奈チャンのことを大好きな伶クンね」
…えっ。
その言葉に固まる俺。
「ん?あれっ??今、森園って言った?」
「はぁ…」
質問されても、さっきのことが衝撃で言葉が出ず。
「もしかして…」
「マユカー!!あ、あれっ?伶と玲奈じゃん」
マユカさんが喋り始めた時、ちょうど透が近づいてきた。
「知り合いだったっけ??」
「もしかしてと思って、私が話しかけたの。この前、ケイさんのところでチラっと見たから…」
首を傾げる透に、玲奈が答える。
「ねえ、透。この2人って、森園涼介のこどもなの?」
「そうだよ」
さらっとそう言った透を見つめて、マユカさんの顔が青くなっていくのが分かった。
とりあえずお茶でもする?…と、4人でその場を離れてカフェに入った。
マユカさんはとんでもなく美人だけど、愛想は全然ない。
向かい合って座ってから、ずっと険しい目つきで俺と玲奈を見ている…。
「ねーねーマユ。そんなに見てたら、伶と玲奈に穴あいちゃうよ!」
透にそう言われて、やっと俺たちから視線を外すと、そのままの顔で透を見た。
「アンタ、散々、双子だけど大好き同士の伶クンと玲奈チャンの話をしておきながら、なんでそれが涼センセイの子どもだって言わなかったの…!?」
涼センセイ…そうか。
マユカさんは、父さんがたまに指導に行ってる、音大とその附属高校の生徒さんだったのかな。
もうその、大好き同士とか言われるの…居た堪れない気分になるけど、この際無視してよう…。
「えー、親友の話するのにフルネームで伝える必要ないじゃん」
「でも!あの森園涼介の子どもって言えたでしょうが!!」
「親とかどーでもいいでしょ。オレの大事な友達の話。親で友達選んでないし」
なんか透がちょっと嬉しい事を言ってくれる。
…だけど、今ソレ、スッと入ってこない。
透からフイと顔を逸らしたマユカさんは、テーブルに両肘をついて再び俺と玲奈を見る。
「アタシ、兄貴も弟もいるけど、アイツら絶対に好きになる事ないし。正直、兄妹を好きになるとか全く意味わかんないけど!でも別に、人を好きになる心は自由だし止められないから気にしてなかったのね」
何とも率直な意見をもらう。
「でも、涼センセイの子どもたちっていうのが、すっごく複雑!!」
「なんで~?」
透にそう聞かれて、マユカさんは透を見ると、数秒そのまま透を見つめる。
そして目を逸らすと、顔を赤く染めた。
しばらくして、はにかんだ表情で口を開く。
「涼センセイは、アタシの初恋の人だから」
「えぇっ!?」
驚いて固まる透に、同じく驚いて何も言えない俺。
あっ、俺は初恋どうのが驚いたんじゃなくて…。
「マユちゃん。すっっっごい可愛いっ!!」
玲奈がキラキラした目でそう言った。
…そう、俺もそれで驚いた。
無愛想な美人だけれど、はにかんだ顔がヤバイくらい可愛い。
透が、マユカはめちゃくちゃ可愛いんだ!って自慢してたのがよく分かる…。
「かっ、カワイイ?」
照れてるマユカさんに、玲奈がうんと頷く。
「アタシ、玲奈スキ」
そう言って、玲奈と2人で微笑み合う。
それから、拗ねてる透をよそに、マユカさんはその初恋の話をしてくれた。
「8歳の頃、親の仕事でドイツにいてね。男勝りなアタシを心配した親が、無理矢理ピアノを習わせたの。少しでも女の子らしくなるようにって。でもそれが嫌で、どんな先生が来ても反発してた。何人も先生が辞めていったあと、涼センセイがきたの」
「…なんだ。子どもの頃から知ってたんだ?」
透の言葉に、マユカさんは頷く。
「いつも通り逃げたり隠れたり一通りしたあと、捕まえられて。ピアノがある部屋に連れて行かれて、言われた。『俺がマユちゃんが弾くべき曲を弾くから、静かにしててね。そしたら真面目に頑張ってるってお母さんを騙せるでしょ』って。子どものアタシは、それならいいなって思って暴れるのをやめた」
父さんはドイツにいる時も、コンサートの合間には個人レッスンをつけていて色んなところへ行っていた。
それが、マユカさんのところにも行っていたって、すごい偶然…。
「弾いてもらった時のその音が、それまでの人生で聴いた事がある音の中で、1番キレイな音だった。その日からアタシ、ピアノが好きになったのよ」
そう言ってにっこり笑う顔がすごく可愛い。
「涼センセイはレッスンに来る度、音楽の話の他に、こどもの話もしてくれた。何歳とか双子だとかは聞いたことなかったから最初ピンとこなかったんだけど、息子がこうだとか娘がこうだって、いっぱい話してくれたの。こどもたち、めちゃくちゃ愛されてるな~って思って聞いてた。そんな幸せそうに家族のことを話すセンセイが好きだった。だからさ、ものすっごい複雑なんだよね…!!」
最後の方、またあの険しい目つきになる。
「それで、マユの初恋はいつ終わったんだよ~」
透に聞かれて、さらに険しい顔になるマユカさん。
「高3の時。ドイツは2年しかいなかったから、それからはずっと会ってなかったんだけど。高3の時、講師としてきたセンセイに再会した。ずっとあの音に憧れて、ずっと続けてきたアタシのピアノを聴いた涼センセイに言われたの。『クラシック向いてないな~アハハ』って…!!」
…えっ!!?
俺たちみんな何も言えず固まる。
「そこで初恋は終わったんだけど」
話を聞いて引いてる俺と玲奈と透の顔を、マユカさんは見回す。
「でも、そのかわりジャズを教えてくれた。指導してくれたのは、別の先生だけど。でも涼センセイのお陰で今のアタシがある」
父さんがマユカさんのことを『難しい子』って言ってたけど、実直だよな…。
見た目で誤解されやすいのかな。
「マユちゃんも花火大会一緒に行くんだよね?」
雑談をしている中で、玲奈が透とマユカさんを見てそう尋ねた。
「玲奈が行くならアタシも行く」
「ちょっと!オレがどんなに誘ってもウンって言ってくれなかったのに~!?」
「…下心ある人とより可愛い女子と行きたい」
冷たくあしらわれる透を見て、笑ってしまう。
向かい側で透とマユカさんが言い合いをしているのを見ていたら、玲奈が俺の服の裾を引っ張る。
「どした?」
「そろそろ行こ?」
顔を近づけてきて小声でそう言う。
玲奈がそんな事を言い出すの珍しい。
……あ。
そこで気づいた。
今日は透の誕生日だ。
分かった、と答えていると、マユカさんが俺たちに話しかける。
「複雑だと思っていたけれど、2人だけを見ているとお似合いよねえ…。アタシも子持ちのオッサン好きになったり、7つも年下のクソガキ好きになったりするし。好きになる相手って道理では選べないこともあるよね」
その言葉が、ものすごく心に沁みる。
何も言えないでいると、透が察して先に口を開いてくれた。
「ね~マユちゃん。今、オレのこと好きって言った?言ったよね??」
「誰もアンタだって言ってない」
「オレ以外に誰がいるのさ?」
透がすごく幸せそうな顔をしていて、こっちまで嬉しい気持ちになる。
「…じゃ、俺たちそろそろ行こうかな」
2人に声をかけた。
「もう行っちゃうの?」
「お誕生日デート邪魔しちゃ悪いし」
マユカさんに聞かれて、玲奈が答えた。
「お誕生日?ダレの…」
俺と玲奈が透を指さす。
マユカさんはその指の指す方をみて、顔色を変えた。
「アンタ何でそんな大事なこと黙ってんのよ!!」
噛み付かんばかりの勢いで怒るマユカさん。
「ごめん、言い出しにくくて…。怒んないでよ~!」
「アタシも帰るっ!」
「待って、マユ。オレも今日から大人だからな。これから大人のデートを…」
「ぶん殴られたいの…?」
「ごめんってば。そんなに怒らないで」
透がマユカさんを抱きしめて、頭を抱えて撫でる。
その時に透が俺に視線を送ったのを見て、玲奈の手をとって席を立った。
「…マユちゃん、すっごい可愛かったね」
カフェを出て少し歩いたところで、玲奈が俺の顔を見てそう言った。
「そうだね。びっくりするくらいの美人だし、笑うとまた恐ろしく可愛いかったな」
素直に感想を伝えると、玲奈は眉間にしわを寄せてうつむく。
「伶も、マユちゃんみたいなキレイで可愛い女の子と付き合いたい?」
え、なにそれ。
…ヤバイ、今、玲奈のことめちゃくちゃ可愛いって思ってる。
ここが公共の場じゃなかったら、抱きしめたいくらいに。
かわりに、玲奈の頭をポンと撫でた。
「俺の1番はずっとここにいるから、他は考えたことない」
「…!!」
玲奈の顔が真っ赤に染まる。
俺とは目も合わせてくれなくて、そこから会話は何もなかった。
だけど、玲奈がいる左側がすごく温かい。
しばらく黙ったまま歩いていると、どこからかクラシックの音楽が聞こえてきた。
「…あ、モーツァルト」
玲奈が隣で呟く。
聞こえてきたのは、アイネ・クライネ・ナハトムジークの3楽章。
メヌエットの可愛い曲。
「これ聴くたびに、パリで迷子になった時のこと思い出すんだけど」
俺がそう言うと、玲奈が困った顔する。
「だ…だって……」
6歳か7歳くらいの時だった。
パリのデパートで、父さんと母さんが用事を済ますほんの数分の間。
退屈した俺たちは、店の外で待っていると約束をした。
『時計の長い針が12のところに来るまでには戻ってくるから、絶対にここを動いちゃダメよ』
母さんにそう念を押されたのに、2人の姿が見えなくなった、ものの数秒のうちに玲奈が走り出した。
『音楽がきこえるの!』
その時の音楽が、今聞こえているコレだ。
玲奈ダメだよって言っても聞かないから、一緒について行くことに。
巨大なデパートの中で、気づいたらどこにいるかすら分からなくなっていた。
初めて来た場所で、まだフランス語も英語もそこまで喋れず、途方に暮れた。
「どんなヴァイオリンを使っているのか、見てみたかったんだもん。聞いたことのない種類の音だったから…」
「もーほんと、二度と家に帰れないんじゃないかと思ったよね。あの時は…」
「私は平気だったよ。伶がいたから」
俺がどんな思いをしたかも知らないで…。
玲奈の答えに思わず笑ってしまう。
「さっきも本屋さんでもいなくなったし、こないだも勝手に店を飛び出してった時あったでしょ。お願いだから、もう絶対にひとりで勝手にどこかへ行ったりしないで」
そう言うと、玲奈が視線を泳がせた。
「もう次そういうことあったら、探さないよ」
「え!やだ!!だめっ」
玲奈が焦った様子で俺を見る。
かわいいなあ…。
信号待ちで足を止めて、それから玲奈の頬を軽くなでた。
「…ずっと、そばにいてよ」
「うん…」
玲奈はすぐに前を向いてしまったけれど、微かに微笑んだのが分かった。
———もし、
もし願いが叶うなら。
さっき言った言葉どおり、
永遠に玲奈を俺のそばにいさせてほしい。
失ったあの3年間を
また繰り返したくない。
『だいすきだよ』
またそう言ってくれた玲奈の心を
もう2度と離したくない。
俺は怖いんだ。
俺の世界の全てが、玲奈だから。
永遠に続く世界などないと
分かっているけど
それでも永遠を願う。
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