雨傘の狂詩曲

楪 伊緒

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第1章

日常の記憶

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 ガラリと2人で教室の扉を開く。人は、点々としていて、まだ時間には余裕があった。菜摘と離れて、自分の席に向かう途中に、何人かの友達から「おはよ!」と声を掛けられる。
 肩が痛い。喧嘩の疲れだろうか。ぐるぐると2回程大きく回して、自分の席に着いた。
 「いやぁ、ひどい雨だったね昨日は!」
 菜摘の一際デカイ声が聞こえる。菜摘のお話相手は、前の席の男子。橘っていったかな。
 「そうだよなぁ、菜摘大丈夫だった?」
 橘は菜摘の席に頬杖をついて、馴れ馴れしく接していた。付き合ってる訳でもないのに。
 「ぜぇんぜん大丈夫!私ずっと家ん中だったし?」
 菜摘もそんな橘の態度に答えるように、愛嬌のある笑顔を振り撒いた。
 あんなに仲良くしちゃって・・・、もう菜摘ったら。恋愛に対する意識が薄いんだっつの。
 そんな事を考えていると、不意に前から声が掛かる。
 「榎本さん?怖い顔してどうしたの?」
 まるで、そよ風が吹くような優しく、甘い声が私の耳を撫でるように通り過ぎる。女の子のようだが、その声はしっかり男性のものであって、決して特別高いという訳では無い。この声の主は私の隣の席。猫屋敷 鄒だった。
 私は、菜摘達から視線を逸らして、鄒の問に答える。
 「え、やだ。俺怖い顔してた?やだね~っ」
 自分で自分の頬を両手でぐにぐにと上げて、無理矢理の笑顔を作る。
 「菜摘さんとなんかあったの?」
 鄒は、まぁ座りなよ、とまるで客をもてなすように言った。
 私はお言葉に甘えて腰を下ろすと(ここ私の席だから)、口を開いた。
 「菜摘見てよ、付き合ってる訳でもない男子とあんなに仲良くしちゃって・・・。ってわぁ!?わ、忘れて今の!」
 私なに喋ろうとしてんだ!と我に言い聞かせ、口を噤む。どうも鄒には何事も言いたくなってしまうようだ。
 「あはは、言ってもいいんだよ?僕口軽くないし」
 とろけるような笑顔向けられてそんな事言われたら余計に言いたくなっちゃうでしょ!
 私は、「また今度!」とはぐらかして、デコピンを食らわせた。いつ覚えた、そんな女に効く笑顔。
 ガララララッ
 その時、丁度話が終わったとこで、先生が入ってきた。HRは、主に昨日の大雨の事。もう、土砂降りの話は聞き飽きた。
 チャイムが鳴って、HRの終わりを告げると、生徒達は個々に立ち上がる。そして、HRで途切れてしまった話を再開するのだった。
 これが私の日常。この後授業があって、間の休憩は友達と喋って。お弁当は菜摘と一緒に屋上で。半日も経てば、屋上の地面はすっかり乾いていた。まぁ、コンクリートだしね。その後、部活があって(私と菜摘は軽音部)、帰りの電車は何事も無かったかのように普通に走っていたのでそれで帰った。
 「菜摘ぃ~・・・、俺寝るから起こしてね」
 「はいはい」
 これはいつものやり取り。お互い向かい合う席に座って、私は眠る。菜摘は、スマホをいじった。菜摘は案外しっかり者なので、私をほぼ必ず起こしてくれる。ほぼって言うのは、たまに菜摘も一緒に寝ちゃって、駅を通り過ぎる時があるから。
 そんな時だった。私は寝ているのか起きているのかよく分からない状態。電車に揺られて、まるで宙にふわふわと浮いているかの様な感覚の時。視界は完全に真っ暗闇だが、聴覚に意識はあったようだ。
 「なに?優姫寝てんの?」
 「そうなんだよね」
 ケラケラと笑いながら話す2人の男女の会話が聞こえる。私の名前を知ってる時点で、もう私の知り合いなのは確定であって、しかも1人は聞き間違える訳もない、菜摘だった。通りでハッキリ聞こえるよ。
 「今日部活あったの?」
 「うん、優姫も疲れちゃったみたいで。まぁ、私も疲れてんだけどね」
 「菜摘も寝てていいよ?俺起こしてあげる」
 「え、巴瑠途中降りるでしょ?」
 「いいよ、そっちまで行ってあげる。戻りの電車も暫くすればあるっしょ?」
 「本当?ありがとう。じゃ、おやすみ!」
 そこから2人の会話は途切れてしまったので、私は寝てしまいそうになった。この時は2人の関係を理解出来るほど脳は働かず、ただただ声だけが聞こえる状態。
 「・・・無防備な奴」
 私は彼の一言を聞き逃さなかった。一気に意識が目覚め、薄目を開く。その彼、巴瑠とやらは私の目の前に座っていた。つまり、菜摘の隣だ。巴瑠は私達との学校とは違う制服を着ている。簡単に言うと他校生で、赤く髪を染めていた。ぱっちりとした大きな目。整った顔立ちで、世にいうイケメン、というやつだった。
 しかし、彼の行動はイケメンという言葉を全て溝に流してしまうようなもの。
 菜摘のブラウスをぷちぷちと静かに開けて、胸元を露にすると、ちぅっ、と音を立てながらそこにキスをし始めたのだ。
 此処で私の1人劇場が始まる。
 いやいや、まだ確信は無いけど付き合ってるならまだ許せる行動じゃんこれは。
 でもさ!此処何処だか分かってる!?電車の中だよ!?きっと誰か気付いてるって!見てるって!
 だけど!だからといって私には止めらんなくない!?2人だけの世界になってるわけでしょ?私寝てると思われてるんだし!起きて、注意する訳にもい・か・な・い・じゃ・ん!
 そんな劇場は続いて、思わず私は「うぅ~ん」と唸り声を出してしまった。
 「はっ、しまっ・・・た」
 飛び起きて、口を自分の手で塞ぐ。そこから暫くフリーズして、数秒後に、私はやってしまった・・・、と青ざめた。
 「優姫ちゃん起きてたの?」
 そんな言葉を無視して、巴瑠をキッと睨むと、不意に菜摘が心配になり、菜摘に視線を移す。
 菜摘はまだ寝たままで、その胸元にはキスマークがくっきりと付いていた。
 プツン
 私の頭の中で何かが切れる音がする。私は、彼の耳元に顔をぐっと近付けると、今の気持ちを全てさらけ出す事にした。
 「菜摘とは付き合ってるのかは存じ上げねぇが電車の中でこういうことすんのですか?あぁ?バッチリ俺の親友にキスマークが付けてんじゃねぇよ」
 無意識に言葉の羅列が出来上がった。噛むこともなく、ただ一思いに、言葉にした。
 しかし、彼は私の本気の言葉を気にもせずにぷっと吹き出す。
 「優姫ちゃん君純粋なんだね?」
 クスクスと彼は笑い続ける。
 ・・・なんだコイツ。ムカつくわァァァァア!!!
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