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2章 感動の再会から王都を死守するまで

34話 情報屋の想い

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 一瞬、耳を疑った。ミストを疑った。
 だが、彼女が偽の情報を摑まされるわけがない。
 どれだけ非現実なものだろうと、彼女がそう言ったのならそれは現実になる。

 そのことを俺は重々承知している。

 しかし、それはミストとの親交が深い俺だからこそ、素直に受け入れられるだけ。
 もし彼女のことを知らない者からすれば、ただの戯言。虚言でしかない。

 それでもミストのことを前情報と教えておいたがゆえ、彼女たちは反応した。

「なあアルト。彼女は今なんと言った? 私には王都が壊滅すると聞こえたのだが」

 そう俺の名前を呼び、内容を確認してきたのはアナベルだ。後ろに振り返ると、ほかのみんなもいた。
 どうやら俺たちは入れ違いになっていたようだな。
 恐らくミストがそのように仕向けたのだろう。

 なぜそのようなことをしたのかだが、そんなこと言われなくても分かった。
 ミストは俺にだけ王都陥落の話をして、俺だけを逃そうとしてくれたのだ。

 だが、運悪くアナベルたちが帰ってきてしまった。
 それゆえにミストは俺の手を引いて、アナベルたちから距離を取らせた。

 恐らく俺を守るためだろう。
 そうしてくれるのはとても嬉しく思う。

 でも、結局は誰かがやらなければならない。
 それにどのみち勇者としての責務を全うできなければ、俺は反逆者として殺される。
 
 だから、

「大丈夫だよ、ミスト。俺は死なない。だからさっきの話を彼女たちにも話してやってくれないか?」

 俺はそう優しく諭した。

 しかし、ミストは首を横に振る。
 
「嫌だ! ボクはもう君がいない日々を送りたくない! 君とずっと一緒にいたい……」
「ミスト……」

 まさかここまで好かれているとは思わなかった。
 もし俺が勇者でなければミストとずっと過ごすのも悪くない。だけど、それじゃあダメなんだ。

 確かに勇者としての責務から逃げて、ここではないどこかでミストと慎ましく暮らすのは楽しいと思う。
 でも、その世界線にアナベルたちはいない。
 そんな世界で俺は本当に幸せになれるのか。きっと、なれない。だから、俺は俺の幸せのために戦う。

 そして、勝つ。

 どんな困難が待ち受けていても、俺が死ぬことはない。
 そう俺は誓い、ミストの手を優しく解いた。

「アルトきゅん……?」
「ごめんな、ミスト」
「え……?」
「俺は俺のために戦いたい。誰かを犠牲にして幸せになるぐらいなら、全部を救って幸せになりたいんだ。お前を不幸にはさせないよ」

 俺は彼女を心配させまいと不器用ながらに微笑んだ。 

「だからその代わり、俺をお前の持つ情報で助けてくれ」

 しかし、返ってきたのはミストの今にも消え入りそうなか細い声だった。

「無理なんだ……。ボクの情報があっても……」

 
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