勇敢へいたるキッカケ~この僕がクビ?スキル「怯み無効」のありがたさが分からない奴らなんて、こっちから願い下げです!……って思ってました。

鯨井イルカ

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第一章

分かる人には分かるんだ

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 ミティスさんのパーティーの面接に落ちてから、すぐに他のパーティーの面接を受けにいった。
 でも――


「貴意には沿いかねます」
「今回の採用は見送らせていただくことに」
「ベルムのところをクビぃ? そんなやつ、雇えるわけねぇだろ!」
「うちでは、ちょっと……」
「今回はご縁がなかったいうことで」


 ――見事に、連敗中だ。
 
 まさか、ベルムさんがこんなに根回しをしてるとは思わなかった。僕のことを気に入らないのかもしれないけど、ここまでされるなんて……。
 
 あ、そうだ。
 クビになった日、ルクスさんに食ってかかったっけ。
 多分、それを大げさに告げ口されたから、ベルムさんが怒ってこんなことになってるんだ。

 本当にあの人は、どこまで僕のことを――
 
  ぐぅぅぅぅ

 ――イライラするのは、このくらいにしよう。

 ここ二日間、一日パン三分の一しか食べてないんだし、怒って無駄な体力を消費したくない。
 今日こそは、なんとしても仕事を見つけないと……。


 空腹でフラフラになりながら、ギルドの求人コーナーへ足を運んだ。
 えーと、パーティーメンバー募集の面接で、まだ受けていないのはどれだったかな……。

「……あれ? お前、ひょっとして、フォルテか?」

「あ、はいそうですが……、あ」

 振り向いた先にいたのは、学生時代の同級生だった。
 でも、名前までは思い出せない。騒がしいグループの隅の方で、いつもヘラヘラしてたやつってことは覚えてるけど……。

「あれぇ? ひょっとして、俺のこと覚えてない?」

「あー……、ごめん。最後の学年で同じ組だったことは、覚えてるんだけど」

「まじかっ! ちょっと、ショックなんですけど」

 ショックと言われても、特徴もないやつのことなんて、いちいち覚えていられない。
 
「まーでもいいわ。ほら、俺、マルスだよ、マルス。一回ダンジョン探索の訓練で、同じ班になったことあったろ?」

「あー、そういえば、そんなこともあったかな」

 ああ、そうだ、あのときはコイツがタンクだった。それで、敵を上手く引きつけられなくて、もの凄く迷惑した覚えがある。

「懐かしいなぁ。そういえば、卒業したあと、あのベルムさんのパーティーに入ったんだよな?」

「うん。まあ、ね」

「あの最強パーティーに入れるなんて、すげーよなぁ」

「あー、うん。そう、かもね」

「それで、最近はどんなかんじなんだ? やっぱ、最強パーティーって言われるだけあって、給料もいいんだろ?」

「まあ、ボチボチだよ」

「またまたー、謙遜しちゃってー」

 ……はやく、どっかに行ってくれないかな。求人情報を見るのに、集中できないじゃないか。

「俺らなんかさー、今月も結構カツカツで……、ん? そういや、お前、最強パーティーにいるくせに、なんで求人情報なんか見てるんだ?」

 放っておいてくれ。
 と言いたいけど、こらえておこう。同級生の騒々しい連中に、変な噂でも流されたらたまったものじゃないから。 

「実は……、不当解雇されそうになったから、出てきてやったんだ」

「は!? 不当解雇、マジで!?」

「ああ。なんか、ボクの戦い方が気に入らなかったみたいで、いきなり辞めろって言われた」

「戦い方が気に入らない……、それって、ベルムさんから言われたのか?」

「そうだよ」

「ふーん……。お前ってさ、戦い方、学生のときから変えてないの?」

「変えてはいないね」

「あー……、そっかそっかー」

 何が、そっかそっかー、だ。分かったような顔して、頷いて。
 いい加減にわずらわしいから、いったんこの場を離れることにしよう。

「他に話もないみたいだし、僕はこのへんで……」

  ぐぅぅぅぅ

 ……なんで、このタイミングで腹が鳴るかな。

「え、なに? お前、腹減ってんの?」

 この音を聞けば分かるだろ、そんなことぐらい。まったく、本当にわずらわし――

「なら、俺がおごるから、ちょっと早い昼飯にしようぜ!」

 ――え?

「ん? 腹、減ってないのか?」

「あ、いや、かなり減ってるけど……、なんでおごってくれるんだ?」

「だって、友達が困ってたら、助けるだろ、普通」

 マルスはそう言いながら、笑顔を浮かべた。
 ……学生のころは、パッとしない奴だと思っていたけど、本当はいいやつだったんだな。

「悪いな……、じゃあ、お言葉に甘えて……」

「おう! 気にすんなって! じゃあ、さっそく食いにいこうぜ!」

 そう言うマルスに連れられて、ギルドをあとにして、隣にある大衆食堂に向かった。

 大衆食堂は、昼食にしては早い時間だからか、そこまで混雑していなかった。だから、店員の女性が、すぐに注文を聞きに来てくれた。

「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」

「俺は、日替わりセットを一つ。お前は?」

「僕も、同じ物で……」

「かしこまりました。それでは、少々お待ちください」

 よかった。これで、ようやくまともな食事にありつける……。

「それでさ、フォルテ。次の職場って、もう決まったのか?」

「え? あ、いや……それが、まだ……。なんか、変な根回しされてるみたいで……」

「あはははは! 根回しか! そりゃあ、災難だったな!」

「笑うなよ、こっちは死活問題なんだから……」

「おっと、悪い悪い。それじゃさ、俺のパーティーに来ないか?」

「……え?」

 マルスのパーティー?

「俺さ、卒業したあとに、自分でパーティー立ち上げたんだよ」

「へー、そうだったのか」

「そうそう。同じクラスのやつらと、作ったんだ。それでさ、頑張ってるんだけど、今ちょっと人手不足で」

「それで、僕に入団してほしいと?」

「ああ、そうなんだよ!」

 立ち上げて間もない、人手不足のパーティーね。話を聞くだけだと、不安要素しかないけど……。

「幸い、俺の所にはまだ、ベルムさんの根回し、ってのは来てないし」

 まあ、ベルムさんも多忙だから、弱小パーティーまでは構わなかったんだろう。

「お前、学生のころから戦い方変わってないんだろ? なら、俺の所なら、絶対に活躍できるぞ!」

 たしかに……、同じ学校だった分、マルスの方がまだ、僕の固有スキルを理解してるか。

「お前が来てくれたら、俺のパーティーは、絶対にでっかくなれるんだ!」

 ……うん。弱小パーティーが僕の力で最強になっていけば、ベルムさんたちも僕をクビにしたことを後悔するはず。

「なあ、頼むよ……」

「……じゃあ、質問しても良い?」

「もちろん! 何が聞きたいんだ?」

「給料って、どのくらいになるんだ?」

「ああ、今日入団を決めてくれるなら、前の所の三割増しにするぞ!」

 三割増し!? それだと、新人にしたらかなりの高給だ……。

「三割増しじゃ、不満か?」

「あ、いや、そんなことないよ」

「それなら、よかったぜ!」

「あと、もう一つ質問。今ちょっと早急にお金が必要なんだけど、前借りしても大丈夫?」

「ああ、もちろん!」

 ここまでの待遇なら、断る理由もないか。

「それじゃあ……、君の所に入ることにしようかな」

「本当か!? いやぁ、マジで助かるよ! ありがとうな!」

 マルスはそう言うと、嬉しそうに笑った。

 ほら、僕の実力が分かってるやつは、こうやって正当な評価をしてくれるんだ!
 だから、見る眼のないパーティーのことなんてさっさと忘れて、コイツらのところで存分に活躍することにしよう。
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