勇敢へいたるキッカケ~この僕がクビ?スキル「怯み無効」のありがたさが分からない奴らなんて、こっちから願い下げです!……って思ってました。

鯨井イルカ

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第一章

この扱いが当然なんだ!

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 昼食が済むと、僕たちはすぐにマルスのパーティーの事務所に向かった。
 事務所に着くと、すぐにマルスの執務室に案内された。

「じゃあ、ちょっと必要な書類とか取ってくるから、ちょっと待っててくれ」

「うん、分かった」

 マルスは笑顔で頷くと、いったん執務室を出ていった。
 ベルムさんの執務室よりは狭いけど、掃除が行き届いてるし、壁に絵画も飾られてるし、けっこう綺麗にしてるんだな。

「待たせたな!」

 部屋の中を見渡してるうちに、マルスが戻ってきた。

「じゃあ、これが入団手続きの書類一式だから!」

 そう言いながら、マルスは書類の束をこちらに差し出した。なんだか、異様に分厚い気がする……。

「ん? 何か分からないことでもあるのか?」

「あ、いや、前のパーティーのときは、こんなに書類がなかったような気がして」

「ああ、それな」

 マルスは苦笑を浮かべて頭を掻いた。

「ベルムさんの所くらい大手だと必要ないけど、俺の所の規模だと必要になる書類が結構あってさ」

「へー、そうなんだ」

「ああ。でも、どの書類も名前と、ダンジョン探索者免許証の番号と、今日の日付を書くだけだから」

 だけって言っても、この量だとかなり時間がかかりそうだけど……、まあ、仕方ないか。

「分かった。じゃあ、ちょっと時間をくれ」

「もちろん! ゆっくり書いてくれ!」

 誰かの目の前で書類を書くのは、ちょっと緊張するな。免許証の番号、書き間違えないようにしないと……。

 それから、内容を読み飛ばしながらサインするという単純作業が、三時間近く続いた。

「つ、疲れた……」

「あははは。お疲れ、それじゃあ今から、先に払う分の給料を持ってくるよ。おーい」

 マルスが机の上にある呼び鈴を鳴らすと、執務室の扉が音を立てて開いた。
 そして――

「はーい、お待たせー」

「お待たせいたしました」

 ――露出度の高い装備を着た赤髪ショートヘアの女性と、丈の長いローブを着た黒髪ロングヘアの女性が現れた。
 この子たちは、たしか……。

「フォルテ、コイツらのこと覚えてるか?」

「あ、うん。たしか、ダンジョン探索の訓練で一回一緒になった、ヘレナとアメリアだよね?」

 マルスの言葉に応えると、二人は笑顔を浮かべた。

「お! 覚えてくれてたんだ! 嬉しいねー!」

 えーと、ショートヘアの子が、格闘家のヘレナで……。

「フォルテさんに覚えていていただけるなんて、光栄です」

 ロングヘアの子が、回復術士のアメリア、だったかな。
 
「はい、先払い分の給料持ってきたよ!」

「私は、書類に書き損じがないかの確認に参りました」

 そう言いながらヘレナはテーブルに給料の入った袋を置き、アメリアは僕がサインした書類を手に取った。

「ああ、ありがとう」

「あははは! 気にしないで!」

「いえいえ、これも仕事ですから」

 二人はまた笑顔を浮かべた。
 ……学生のころはあんまり意識してなかったけど、笑ってるところを見ると、結構可愛いかも。

「お、なんだ、フォルテ? どっちかに惚れたか?」

「な!? ちゃ、茶化すなよマルス! 別にそんなわけじゃ……」

「え!? なになに、アタシに見とれてくれたの!? わー、すっごく嬉しい!」

「フォルテさんに好意をもっていただけるなんて、この上ない喜びです……」

 ヘレナは満面の笑みで喜んで、アメリアは頬を赤く染めて顔を反らした。
 訓練の時は、ヘレナは攻撃力が低いし、アメリアは回復術のタイミングが遅すぎるしで、酷い目に遭った。だから、正直なところマルスと同じ役立たずとしか思っていなかった。
 
 でも、こうして話してみると――

「フォルテって、攻撃力が半端なかったから、すっごく憧れてたんだよね!」

「攻撃力だけでなく、魔術概論などの学問にも長けていらっしゃいましたし……、遠目からずっとお慕いしておりました……」

 ――本当はちゃんと僕のことを見てくれてる、良い子たちだったんだな。

 
「よし! じゃあ、書類のチェックは俺がやっとくから、二人はフォルテに事務所の中を案内してやってくれ!」

「うん! 分かったよ、マルス! ほら、フォルテ、こっちこっち!」

「わっ!?」

 ヘレナに引かれた右腕に、柔らかく弾力がある感触が伝わった。こ、これは……。

「ヘレナさん! 抜け駆けはダメですよ!」

「うわっ!?」

 今度はアメリアに左腕を引かれて、さっきよりさらに弾力がある感触が伝わる。
 は、早く腕をどかさないと、きっと怒られる。

「どーしたの、フォルテ?」
「何か、お気に障りましたか?」

 二人は不安げな表情を浮かべて、さらに腕に密着してきた。

「あ、いや、別にそんなことは……」

「よかった! じゃあ、事務所の中案内ツアーの始まり始まりー!」
「さ、フォルテさん行きましょう!」

「わ、分かった……」

 なんとも落ち着かない状況だけど、二人の顔をあんまり見ないようにしてやり過ごそう。このくらいのことで取り乱してるってばれて、二人が抱いてる僕のイメージを崩しちゃいけないから。

 それから、二人に密着されたまま、事務所の中を案内してもらった。

「フォルテってさー、昔っからすごかったよね!」
「はい。モンスターから攻撃を受けても全く動じない姿は、とても美しかったです」

「ま、まあね。でも、固有スキルを使いこなせれば、そのくらいはできて当然だよ」

「えー、でも固有スキルを使いこなすことが、まず難しいじゃん」
「そうですよね。」

「でも、ほら、最強のダンジョン探索者になるためには、固有スキルくらい使いこなせないと」

「フォルテってば、最強を目指してるんだ! すごい!」
「さすが、フォルテさん! 志が高いのですね!」

 その間も、二人はこんな調子で、ずっと僕のことを褒めてくれていた。
 ……正直なところ、小さいパーティーだし、当面の生活費が確保できたらすぐに辞めてしまおう、とも思っていた。でも、僕のことをちゃんと評価できるやつがこれだけいるなら、ずっとこのパーティーにいても良いかもしれない。

「ちょっと、アメリア! さっきから、フォルテに色目を使いっぱなしじゃない!」
「ヘレナさんこそ! 露骨すぎる色仕掛けは、見苦しいですよ!」

 ただ、僕が入ったことで、パーティーの平穏を乱してしまったのは、ちょっと悪いことをしたかな……。
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