勇敢へいたるキッカケ~この僕がクビ?スキル「怯み無効」のありがたさが分からない奴らなんて、こっちから願い下げです!……って思ってました。

鯨井イルカ

文字の大きさ
9 / 45
第一章

信頼できる仲間……だよね?

しおりを挟む
 少し開けた場所に足を踏み入れると、テラストリアルワイバーンたちは一斉にこちらを向いた。
 羽毛を逆立ててギャアギャアと喚いてるけど、まったく不安はない。
 だって――

「じゃあ、みんな、よろしく」

「ああ、任せておけフォルテ」

「アタシも頑張るよー!」

「尽力いたします!」

 ――サポートしてくれる仲間がいるんだから。
 
「南をつかさどるものよ……」
「ギャァッ! ギャアッ!」

 詠唱を始めると同時に、群れのボスと思われる少し大きな個体が、喚きながらこちらに向かってきた。他のヤツらは、まだその場に留まって羽毛を逆立てて喚いてる。どうやら、様子をうかがってるみたいだな。

「破壊、殺戮、不和を引き起こ……」
「ギャッ! ギャギャァッ!」
「……す、ものよ」

 喉元に齧り付こうとしてくるテラストリアルワイバーンに、右腕をかざした。テラストリアルワイバーンは、装備したアームガードに齧り付く。大丈夫、この位のことは想定済みだ。

「傷と、死をもたらすものよ……」
「グゥーッ! ググッ!」
 
 齧り付いたテラストリアルワイバーンはくぐもった鳴き声を出しながら、アゴの力をさらに強めた。金属製のアームガードがギリギリと音を立ててるけど、問題無い。そろそろ、マルスが攻撃を引き受けてくれるから。

「勇気と、名誉を授けるものよ……」
「ググゥッ!」

 
 アゴの力がさらに強くなり、アームガードは音をたて続ける。マルスじゃなければ、ヘレナが横からコイツを攻撃してくれるはず。

「今ここにきたりて……」
「グルッ!」

 アゴの力は強くなり続け、アームガードから、メキッ、という音が響く。それと同時に、腕に硬く尖ったものが当たる感触がした。でも、平気だ。アメリアが回復してくれるから。

「我が望みを叶えたまえ」
「グルッグルゥッ!」

 アームガードを貫通した牙が完全に右腕にうまり、生暖かくぬるぬるした感触が伝わる。
 ……あいつらは、一体何をしてるんだ?
 痛みは感じないけど、さすがここまで深い傷ができると、治療とかリハビリが面倒になるじゃないか。詠唱中だから文句は言えないけど、振り返ってアイコンタクトくらいならできるはず――

「我にあだなす者の……」


「……」
「……」
「……」


 ――え?
 なんで、あいつら、無表情に突っ立ってるんだ?

「皮を溶かし……」

「ギャアギャアッ!」

 ほら、ボス以外のヤツらもこっちに来だしたから、早く攻撃を引きつけたり、サポートの攻撃をしてくれよ。

「肉をただれさせ……」
「グルルッ!」

 アームガードじゃなくて、腕自体からミシミシと音がなり始めたし、早く回復を。

「骨をこがし……」
「ギャアギャアギャアッ!」

 他のヤツらも、装備の上から齧り付いてくる……。

「かの者の一切を……」
「グルルルルゥゥゥゥゥゥッ!」

 もう少しで、腕が囓り取られる……。

灰燼かいじんに……」
 
 あと少しで、詠唱が終わるのに、意識が朦朧としていく……。

 なのに、なんで、みんな、助けて、くれ、ないん、だ……?

「アイツ、そろそろ死んだかな?」
「まだ、詠唱はつづいてるけど、途切れ途切れだし、もうちょっとで死ぬんじゃない?」
「やはり、少しだけ可哀想でしたかね」

 なんの、話を、し、てるん、だ?

「なんだ、やっぱりアレに惚れてたのか?」
「うわー、趣味悪ぅー。アメリアってば、こんな、自己顕示欲の塊みたいなのが好みなんだ」
「違いますよ! 失礼な! なんで、あんな周りに迷惑ばかりかける方、好きにならないといけないんですか!」

 めいわ、く、ばかり、か、ける……?

「まあ、学校の実習でこいつと同じ班になったとき、酷い目にあったもんな……」
「そうそう! コイツが勝手に強い魔法使ったおかげで、さばききれないくらいモンスターがわらわら来たしさ」
「そのおかげで、回復もギリギリになってしまい、危うく全員命を落とすところでしたものね」

 で、も、だ、って、それ、はおま、えらがむの、うだか……。

「そうだよなー、自分は痛み感じないからって、あれはなかったよな」
「勇敢と無謀は、全然違うのにねー」
「まあ、二人ともいいじゃないですか」

 だま、れだ、ま、れだ、まれ……。 

「この方が無茶して死んでくれるおかげで、借金も返せるし、当面の運営資金が手に入るんですから」

 とう、めんのうんえい、しきん……?
 そ、ん、なこ、との、ため、に、しにたくな……。

「それで、マルス。アタシたちが疑われる可能性ってほんとうにないの?」
「ああ。大丈夫、大丈夫。コイツベルムさんのとこでも無茶な戦い方してたみたいだし、そのせいでクビになったって話も面接受けたパーティーには知られてるから」
「それなら今回も、勝手な行動で命を落としたと言えば、信じてもらえますね。幸い目撃者もいな……」

  シュッ!
 
 ……な、んだ? い、まのお、と……。

「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「きゃぁっ!?」

 だ、めだも、う、いしきが……。

「ルクス! コイツらの確保は俺に任せて、お前はテラストリアルワイバーンからフォルテを!」
「ああ、分かった、ベルム」

 な、ん、だか、ききお、ぼ、えのあ、るこ、えがす、るな、ぁ……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

処理中です...