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第一章

まあ、僕は有能だからね

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 ソベリさんと一緒にパーティーの事務所に向かい、応接室へ通された。

「今、お茶を持ってきますから」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いえいえ」

 ソベリさんは軽く頭を下げて、部屋を出ていった。さて、今のうちに、断るときのセリフを考えておこうかな。

 僕は必要ないんじゃなかったんですか?

 うーん、ちょっと、ありきたりな気がするな……。

 ふーん、でも、僕にはもう関係ありませんから。

 これだと、さっぱりしすぎか……。

 切り捨てた相手に頼らないといけないなんて、無様ですね。

 ……うん。これにしよう。
 ベルムさんの悔しそうな顔、早く見たいなぁ……。

  ガチャッ

 お、さっそくおでましか……、え?

「お待たせしました。フォルテ君」

 扉から出てきたのは、お茶を乗せたおぼんを持ったソベリさんだけだった。

「さっそくお話を……、ん? 私の顔に何かついていますか?」

「あ、いえ、そうじゃありません。ただ、相談事なら、ベルムさんも同席した方がいいんじゃないかな、と」

「ああ、そのことですか」

 ソベリさんはお茶を置きながら、深くため息をついた。なんで、そんなにうんざりした顔をしてるんだろう?

「彼はですね、先日辞めたんですよ。このパーティーを」

「あ、そうだったんですか……、えぇ!?」

 ベルムさんが、パーティーを辞めた?

「はい、そうです。しかも、ルクスさんまで、一緒になってね」

 ソベリさんは再び深いため息をつきながら、椅子に腰かけた。
 あの二人が、そろって辞めるなんて、そんな……。

「信じられませんよね」

「そうですね、にわかには……」

「そうですよね。でも、先日、私の机の上にお二人直筆の退職願が、置いてありましたから……」

「そうですか……、でも、一体なんでお二人は辞めてしまったんですか?」

 見る目がなかったとはいえ、ベルムさんは責任感が強い人だったし、ダンジョン探索者であることに誇りを持っていたはず。それに、ルクスさんだって、過大評価されすぎてるところはあるけど弓の腕はたしかだし、過大評価されすぎてるところはあるけどパーティーメンバーの憧れの的だったのに。
 答えを待ってると、ソベリさんは眼鏡の位置を戻して、視線を反らした。

「えーと、その、なんといいますか……、このパーティーは、お二人に少し頼りすぎていた部分があったので、それが原因かと……」

「頼りすぎていた?」

「ええ。たとえば、王から直々に受けていた依頼は、難関ダンジョンの攻略や危険な大型モンスターの討伐など、ベルムさんのタンクとしての経験と、ルクスさんの固有スキルが必要なものばかりでした」

「そう、ですか……」

「はい。それと、王から直々に依頼を受けるための交渉は、ベルムさんに任せきりでしたし……」

「そういえば、そうでしたね……」

「だから、お二人にかなり負担がかかっていたんでしょう、だからといって……」

 ソベリさんは急に頭を抱えて、深いため息を吐いた。

「急に出ていかれたりしたら、本当に困るんですよ。依頼は失敗続きですし、そのおかげで国王はお怒りになるし、ベルムたちが辞めたことを正直に伝えたら、もう二度とうちには依頼を出さないとおっしゃるし……」

 ……この人も、色々と大変なんだな。

「メンバーへの基本給や、各所への費用の支払いは、王宮から受けた依頼の報酬をあてていましたし、このパーティーだと、ギルドからの援助金支給の条件も満たしていませんし……」

 うん。このまま放っておくと、いつまで経っても本題に入りそうにないな。

「あの、ソベリさん」

「あ、はい。なんでしょうか?」

「それで、僕に折り入って相談したいことというのは、結局何だったのですか?」

「あ、ああ、そうでしたね」

 そうでしたね、じゃないよまったく。

「実は、フォルテ君に、このパーティーへ戻って来て欲しいのです」

 まあ、予想通りの言葉ではあるんだけど、ベルムさんの口から出た言葉じゃないのが、ちょっと残念だったかな。でも、ソベリさんも僕を辞めさせるのを止めなかったわけだし、同罪か。

「お断りします。僕は、このパーティーには必要無い、と言われた人間ですから」

「でも、その言葉を言ったのは……、多分、ベルムさんですよね?」

「ええ、まあ、そうですが……」

「それは、ベルムさんが短絡的すぎたから、そんな発言が出たんですよ」

 たしかに、それはそうだ。僕みたいに有能な人間を一度の失敗だけでクビにしたんだから。

「今のリーダーは私ですので、ベルムさんの言ったことは忘れてください。それに、私は前々から、君のことを評価していたんですよ。特に、その固有スキルとか」

「この、『怯み無効』をですか?」

「はい。そのスキルも使いようによっては、戦闘でかなり役に立ちますし」

 使いようによっては、というところが気にかかるけど、その通りだ。
 僕の固有スキルがあれば、どんな依頼にだって対応でき―― 


「それに、王宮の交渉でも、間違いなく役に立ちますから」


 ――え?

「王宮との、交渉に、ですか?」

「ええ、その通りです」

「え、でも、僕のスキルは戦闘に特化したものなので、交渉の場で緊張しない能力というわけでは……」

「ふふふ、そんなに謙遜しないでください。モンスターの攻撃を受けながらも魔術の詠唱を続けてきた君なら、どんなことにも動じない勇敢さをもっているんでしょ?」

 まあ、たしかに、それはそうかもしれない。でも、さすが国王の前では緊張しないことはないだろうし……。

「あ、そうそう、ベルムさんにはフォルテ君が入隊した当時から、交渉に連れていってはどうか、と提案していたんですよ」

「え? ベルムさんに?」

「はい。でも、彼は、それは絶対に認めない、の一点張りで。多分、君が怖じ気づいて使い物にならなくなる、とでも考えた、という可能性がある気がしますね」

 ……あの人は、どれだけ僕のことを見くびれば気が済むんだろう。それなら、結果を残して見返してやらないと。

「分かりました。そのお話、引き受けましょう」

 僕の返事に、ソベリさんは目を輝かせた。

「本当ですか!?」

「はい。ちょっと緊張するかもしれませんが、できる限りのことはいたします」

「ありがとうございます! 本当に、助かります!」

 ソベリさんはそう言うと、勢いよく頭を下げた。
 ほんの少し恐いけど、僕ならば交渉ごとだって絶対に上手くこなせるはず。それに、恐いといったって、テラストリアルワイバーンの群れに噛みつかれるより恐い、なんてことはないはずだから。
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