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第一章
そういうことだったのか
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ソベリさんに懇願されて、元のパーティーに戻ることになった。
それで、ベルムさんの代わりに、王様との交渉するために王宮まで来たはいいけど――
「それで、お前があのベルムの代わりなのか?」
――早くも、家に帰りたい。
王様は玉座に腰掛けて足を組みながら、白いアゴヒゲをひっきりなしにいじってる。予想はしていたけど、かなり不機嫌そうだ。
まあ、依頼が失敗続きなあげく、交渉の担当者がいなくなったんだから当然だよね……。でも、こんなところで怯んでいられない。
「はい。魔術師のフォルテと申します」
「そうか」
王様の声は、あからさまに興味がなさそうだ。このまま、帰れ、と言われてしまうかもしれない……。
でも、僕の有能さを周りに分からせるためには、そんなことはできない。ひとまず、謝罪をして誠意をみせないと。
「この度は、当パーティーのベルムが大変ご迷惑をおかけいたしました」
「うむ、そうだな」
そんなことない、なんて言葉は、言ってくれるはずないか。なら、反論せずにこちらも同意しよう。共通の敵の話題が出れば、共感を覚えてくれるかもしれないから。
「ええ、まったくですよね。王様に挨拶もせず逃げ出すなど、無責任極まりないですよ」
「無責任?」
……ん? 今、なんか軽く眉間にシワがよったような? いや、細かいことを気にしてる場合じゃないか。聞き返したということは、僕に興味を持ってくれたはずだ。
「ええ。交渉ごとが恐くて逃げ出すなんて、無責任かつ臆病です」
「ほう、お前は奴のことをそう見るのか……、となると、お前はさぞ責任感が強くて勇敢なのだろうな?」
よかった。ようやく王様の口元に、笑みが浮かんだ。でも、なぜだろう? 背筋に鳥肌が立ってきた……。
「フォルテとやら、答えよ。お前は、ベルムよりも責任感が強く、勇敢なのか?」
王様の声が、さっきより大きくなる。うん、鳥肌なんて気のせいだ。早く返事をしなきゃ。
「……は、はい。少なくとも、連絡もなしに逃げ出すような人間ではありませんよ」
「そうか、そうか、それは頼もしいな」
王様は目を細めて笑った。その途端、鳥肌が全身に立つ。
なんだか気持ち悪いけど……、逃げ出すわけにはいかない。
「ああ、そうだ。ソベリから聞いたのだが、お前は『怯み無効』という固有スキルを持ってるんだったな。それは、どのような固有スキルなのだ?」
「あ、はい。魔術の詠唱中は、どんなに攻撃を受けても痛みを感じない、というスキルです」
「ほう! それは、なかなかに興味深いな!」
よし、王様が僕に興味を持ってくれた。鳥肌なんて、気のせい、気のせい。
「そんな面白いスキルを持った人間と縁を切るのは、いささかもったいないな」
「あ、えーと、それでは……」
「うむ、お前のパーティーと縁を切るのは、考え直してもいいかもしれないな」
「あ、ありがたきお言葉!」
よし! これで、任務は完璧にこなしだぞ! ベルムさんがダメにしたものが、僕のおかげで元に戻ったんだ!
「……ただし、だな」
不意に、王様が悲しそうな表情でため息を吐いた。
「ワシが納得しても、娘がベルムのことをいたく気に入っていてな」
娘? ……というと、王女様のことか。年始の式典で見たことがあるけど、艶のある緑色のロングヘアーと、赤くてぱっちりとした目が、可愛い方だったな……。
「ベルムがここに来たときに、遊び相手になってもらっていたんだが、お前がその代わりをしてくれるか?」
「……え?」
遊び相手?
王女様は幼く見えるけど、遊び相手をねだるような歳じゃなかったはず……。
ああ、そうか。
ベルムさんが王様から直々に依頼を受けられるのは王女様に取り入ってるからだ、なんてウワサ話を聞いたことがあった。そのときは、心ない中傷だと思ったけど、まさか本当のことだったなんて……。
まあ、それなら、他の男にこの役を譲るのを嫌がるよな。
「どうした? 娘の相手は、不服か?」
「いいえ! 滅相もございません!」
「そうか、そうか! では、さっそく娘の部屋に案内させよう!」
王様の言葉と共に、使用人らしき人がこちらにやってくる。なんだか苦々しい表情をしてるけど……、まあ、仕方ないか。僕だって、身分が違いすぎる相手だということはよく分かってる。でも、これは向こうから望んだことなんだから。
それから、使用人につれられて廊下を進み階段を何段も下り、王女様の部屋の前までやってきた。まさか、地下に部屋があるなんて思わなかった。防犯のため、なんだろうか?
「それでは、姫様のお部屋に入る前に、一つ注意事項を申し上げます」
不意に、使用人が姿勢を正して声をかけてきた。
注意事項……、危険物になりそうな装備を外せとか、刃物を預かるとか、そんなことかな?
「まず、こちらの扉を開くと、その先にもう一つ扉があります」
「もう一枚の、扉?」
「はい、ですので、内側の扉は必ず、こちらの扉の施錠が完了してから開いてください。施錠が終わりましたら、声をかけますので」
なんで、そんな回りくどいことをするんだ? これじゃ、まるで……。
「……いかがなさいましたか?」
「あ、あの、もしも、外側の扉の鍵をかけ終わる前に、内側の扉を開けてしまったらどうなるんですか?」
問いかけてみると、使用人は眉を寄せながら微笑んだ。
そして――
「この城中……いえ、町中の人間が、姫様の遊び相手になるだけですよ」
――なんとも衝撃的な言葉を言い放った。
そんな人数を相手したら、王女様の身体がもたないんじゃないか?
それとも、遊び相手、というのが、僕の想像してるものと違うのかな……。
それで、ベルムさんの代わりに、王様との交渉するために王宮まで来たはいいけど――
「それで、お前があのベルムの代わりなのか?」
――早くも、家に帰りたい。
王様は玉座に腰掛けて足を組みながら、白いアゴヒゲをひっきりなしにいじってる。予想はしていたけど、かなり不機嫌そうだ。
まあ、依頼が失敗続きなあげく、交渉の担当者がいなくなったんだから当然だよね……。でも、こんなところで怯んでいられない。
「はい。魔術師のフォルテと申します」
「そうか」
王様の声は、あからさまに興味がなさそうだ。このまま、帰れ、と言われてしまうかもしれない……。
でも、僕の有能さを周りに分からせるためには、そんなことはできない。ひとまず、謝罪をして誠意をみせないと。
「この度は、当パーティーのベルムが大変ご迷惑をおかけいたしました」
「うむ、そうだな」
そんなことない、なんて言葉は、言ってくれるはずないか。なら、反論せずにこちらも同意しよう。共通の敵の話題が出れば、共感を覚えてくれるかもしれないから。
「ええ、まったくですよね。王様に挨拶もせず逃げ出すなど、無責任極まりないですよ」
「無責任?」
……ん? 今、なんか軽く眉間にシワがよったような? いや、細かいことを気にしてる場合じゃないか。聞き返したということは、僕に興味を持ってくれたはずだ。
「ええ。交渉ごとが恐くて逃げ出すなんて、無責任かつ臆病です」
「ほう、お前は奴のことをそう見るのか……、となると、お前はさぞ責任感が強くて勇敢なのだろうな?」
よかった。ようやく王様の口元に、笑みが浮かんだ。でも、なぜだろう? 背筋に鳥肌が立ってきた……。
「フォルテとやら、答えよ。お前は、ベルムよりも責任感が強く、勇敢なのか?」
王様の声が、さっきより大きくなる。うん、鳥肌なんて気のせいだ。早く返事をしなきゃ。
「……は、はい。少なくとも、連絡もなしに逃げ出すような人間ではありませんよ」
「そうか、そうか、それは頼もしいな」
王様は目を細めて笑った。その途端、鳥肌が全身に立つ。
なんだか気持ち悪いけど……、逃げ出すわけにはいかない。
「ああ、そうだ。ソベリから聞いたのだが、お前は『怯み無効』という固有スキルを持ってるんだったな。それは、どのような固有スキルなのだ?」
「あ、はい。魔術の詠唱中は、どんなに攻撃を受けても痛みを感じない、というスキルです」
「ほう! それは、なかなかに興味深いな!」
よし、王様が僕に興味を持ってくれた。鳥肌なんて、気のせい、気のせい。
「そんな面白いスキルを持った人間と縁を切るのは、いささかもったいないな」
「あ、えーと、それでは……」
「うむ、お前のパーティーと縁を切るのは、考え直してもいいかもしれないな」
「あ、ありがたきお言葉!」
よし! これで、任務は完璧にこなしだぞ! ベルムさんがダメにしたものが、僕のおかげで元に戻ったんだ!
「……ただし、だな」
不意に、王様が悲しそうな表情でため息を吐いた。
「ワシが納得しても、娘がベルムのことをいたく気に入っていてな」
娘? ……というと、王女様のことか。年始の式典で見たことがあるけど、艶のある緑色のロングヘアーと、赤くてぱっちりとした目が、可愛い方だったな……。
「ベルムがここに来たときに、遊び相手になってもらっていたんだが、お前がその代わりをしてくれるか?」
「……え?」
遊び相手?
王女様は幼く見えるけど、遊び相手をねだるような歳じゃなかったはず……。
ああ、そうか。
ベルムさんが王様から直々に依頼を受けられるのは王女様に取り入ってるからだ、なんてウワサ話を聞いたことがあった。そのときは、心ない中傷だと思ったけど、まさか本当のことだったなんて……。
まあ、それなら、他の男にこの役を譲るのを嫌がるよな。
「どうした? 娘の相手は、不服か?」
「いいえ! 滅相もございません!」
「そうか、そうか! では、さっそく娘の部屋に案内させよう!」
王様の言葉と共に、使用人らしき人がこちらにやってくる。なんだか苦々しい表情をしてるけど……、まあ、仕方ないか。僕だって、身分が違いすぎる相手だということはよく分かってる。でも、これは向こうから望んだことなんだから。
それから、使用人につれられて廊下を進み階段を何段も下り、王女様の部屋の前までやってきた。まさか、地下に部屋があるなんて思わなかった。防犯のため、なんだろうか?
「それでは、姫様のお部屋に入る前に、一つ注意事項を申し上げます」
不意に、使用人が姿勢を正して声をかけてきた。
注意事項……、危険物になりそうな装備を外せとか、刃物を預かるとか、そんなことかな?
「まず、こちらの扉を開くと、その先にもう一つ扉があります」
「もう一枚の、扉?」
「はい、ですので、内側の扉は必ず、こちらの扉の施錠が完了してから開いてください。施錠が終わりましたら、声をかけますので」
なんで、そんな回りくどいことをするんだ? これじゃ、まるで……。
「……いかがなさいましたか?」
「あ、あの、もしも、外側の扉の鍵をかけ終わる前に、内側の扉を開けてしまったらどうなるんですか?」
問いかけてみると、使用人は眉を寄せながら微笑んだ。
そして――
「この城中……いえ、町中の人間が、姫様の遊び相手になるだけですよ」
――なんとも衝撃的な言葉を言い放った。
そんな人数を相手したら、王女様の身体がもたないんじゃないか?
それとも、遊び相手、というのが、僕の想像してるものと違うのかな……。
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