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第二章
始まり
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ザザ、ザザ
どこかから、波の音が聞こえる。
ザザ、ザザ
なんだか、落ち着くな。
ザザ、ザザ
このまま、もう少し眠って。
「……ルテ……ん、……て」
なんだか、誰かの声がする。
「フォ……ちゃん、……きて」
うるさいな……、まだ眠いのに……。
「もう! フォルテちゃん! 起きて!」
「うわぁっ!?」
耳元で聞こえた大声に跳び起きると――
「フォルテちゃん! おはよう!」
――ベッドサイドに、笑顔のリグレが立っていた。
そうだ、今日から新生活が始まったんだった。
「フォルテちゃん、目さめた?」
「あー、うん、おかげさまで」
「よかった! じゃあ、ご飯できてるから、早く降りてきてね!」
リグれはそう言うと、トコトコとベッドサイドから離れた。それから、床につけられた扉を持ち上げて、ハシゴを使って下の階に降りていった。
王都を離れて住み込みで家庭教師をすることになった僕に与えられたのは、屋根裏部屋だった。少し天井が低いし、ベッドは木箱を組み合わせて補強して作った簡単な物だけど、掃除もしてあったし明かり取りの窓もある。まあ、居候させてもらうには、充分な部屋だ。それに、食事もでるんだから。
寝巻きからローブに着替えてハシゴを降りると、リグレたちがパンとスープの乗ったテーブルを囲んでいた。
「おう! おはよう、フォルテ先生!」
「おはよう! 昨日はちゃんと眠れたかい?」
「おはようございます。おかげさまで、よく眠れました」
笑顔のカリダスさんとエタレオさんに挨拶を返して、食卓についた。豪華な食事じゃないけど、温かい食事が取れるだけでもありがたいか。
「ねーねー、フォルテちゃん」
不意に、隣に座ったリグレが袖を引いてきた。
「うん? 何?」
「今日から、魔法のお勉強がはじまるのー?」
「あ、うん」
「じゃあ、どんなことをするのー?」
「そうだな……、まずは基本的なところから……」
「基本的なことって、なーに?」
「魔術の仕組みを教えたり……」
「どうやって!? どうやって!?」
「えーと……」
……質問に回答が間に合わない。
子供って、みんなこうなのか? いや、でも、僕が子供のころはもっと大人しくて、本ばかり読んでたからリグレの個性なんだろう。まいったな、あんまり騒がしいのは、得意じゃないのに……。
「こらこらリグレ、フォルテ先生が困ってるだろ?」
「そうだよ、リグレ。フォルテ先生だってお腹空いてるんだから、まずはゆっくりご飯を食べさせておあげ」
「あ、うん。そうだね、お父ちゃん、お母ちゃん」
カリダスさんとエタレオさんに叱られて、リグレはシュンとした表情を浮かべた。
「フォルテちゃん、ごめんなさい」
「あ、うん。別に大丈夫だよ」
とは言ったものの、朝からこれだと先が思いやられるな……。
それから、朝食を終え、仕事へ向かうカリダスさんとエタレオさんを送り出し、リグレと二人きりになった。
「えーとね、フォルテちゃん! お昼ご飯は、お家にあるパンを食べてだって」
「そう」
「それかね、もしもフォルテちゃんがもっといいもの食べたいって言ったら、へそくりを使っていいからカフェに連れて行ってって」
「カフェ……」
「うん! なんかね、『いけめんが二人も入ったから、いい目のほようになる』ってお母ちゃんが言ってたよ!」
「そう……、でも気を遣わせちゃ悪いから、お昼はパンでもいいかな?」
「うん! 分かった!」
……よかった。納得してくれた。
もう、あのカフェになんて、いけるはずがないんだから。
「ねーねー、フォルテちゃん、もう魔法のお勉強はじめるの?」
「あ、うん、そうだね。リグレは少し魔術を使えるんだっけ?」
「うん! ちょっとだけど、使えるよ!」
「じゃあ、見せてもらってもいいかな?」
「いいよー! えーいっ!」
気の抜けるかけ声とともに、リグレの指先にオレンジ色の火花が散った。
たしかに、魔術の素質はあるみたいだ。
「みてみて! ちょっとだけ火が出るんだよ! だから、お母ちゃんがかまどに火を点けるとき、お手伝いしてるんだ!」
「へー、そうなんだ。じゃあ、もっと強い火を出したりできる?」
「ううん! 今できるのはこれだけだよ」
リグレは勢いよく首を横に振って答えた。
さっきの火花が限界か。でも、エタレオさんの話だと、積み木を宙に浮かせてたってことだったから、持ってい魔力が少なすぎるってわけじゃなさそうだな。それだと、魔力の扱い方が分かっていないだけか……。
「じゃあ、もっと強い火の出し方を教えるから……、いや、でも、家の中だと危ないか……」
「それじゃあ、裏庭にある井戸の近くなら、大丈夫!?」
「あ、うん。この季節なら、枯れ葉とか枯れ草もないし、水辺の近くだしでちょうどいいかな……」
「わかった! じゃあ、いこう!」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
リグレは僕の誓詞も聞かず、扉を勢いよく開けて外に飛び出していった。
子供のスピードは、すさまじいな……。いや、感心してないで、早くあとを追いかけなちゃだめか。
なんだか、家庭教師初日が始まって間もないのに、早くも疲れ果てる予感しかしないな……。
どこかから、波の音が聞こえる。
ザザ、ザザ
なんだか、落ち着くな。
ザザ、ザザ
このまま、もう少し眠って。
「……ルテ……ん、……て」
なんだか、誰かの声がする。
「フォ……ちゃん、……きて」
うるさいな……、まだ眠いのに……。
「もう! フォルテちゃん! 起きて!」
「うわぁっ!?」
耳元で聞こえた大声に跳び起きると――
「フォルテちゃん! おはよう!」
――ベッドサイドに、笑顔のリグレが立っていた。
そうだ、今日から新生活が始まったんだった。
「フォルテちゃん、目さめた?」
「あー、うん、おかげさまで」
「よかった! じゃあ、ご飯できてるから、早く降りてきてね!」
リグれはそう言うと、トコトコとベッドサイドから離れた。それから、床につけられた扉を持ち上げて、ハシゴを使って下の階に降りていった。
王都を離れて住み込みで家庭教師をすることになった僕に与えられたのは、屋根裏部屋だった。少し天井が低いし、ベッドは木箱を組み合わせて補強して作った簡単な物だけど、掃除もしてあったし明かり取りの窓もある。まあ、居候させてもらうには、充分な部屋だ。それに、食事もでるんだから。
寝巻きからローブに着替えてハシゴを降りると、リグレたちがパンとスープの乗ったテーブルを囲んでいた。
「おう! おはよう、フォルテ先生!」
「おはよう! 昨日はちゃんと眠れたかい?」
「おはようございます。おかげさまで、よく眠れました」
笑顔のカリダスさんとエタレオさんに挨拶を返して、食卓についた。豪華な食事じゃないけど、温かい食事が取れるだけでもありがたいか。
「ねーねー、フォルテちゃん」
不意に、隣に座ったリグレが袖を引いてきた。
「うん? 何?」
「今日から、魔法のお勉強がはじまるのー?」
「あ、うん」
「じゃあ、どんなことをするのー?」
「そうだな……、まずは基本的なところから……」
「基本的なことって、なーに?」
「魔術の仕組みを教えたり……」
「どうやって!? どうやって!?」
「えーと……」
……質問に回答が間に合わない。
子供って、みんなこうなのか? いや、でも、僕が子供のころはもっと大人しくて、本ばかり読んでたからリグレの個性なんだろう。まいったな、あんまり騒がしいのは、得意じゃないのに……。
「こらこらリグレ、フォルテ先生が困ってるだろ?」
「そうだよ、リグレ。フォルテ先生だってお腹空いてるんだから、まずはゆっくりご飯を食べさせておあげ」
「あ、うん。そうだね、お父ちゃん、お母ちゃん」
カリダスさんとエタレオさんに叱られて、リグレはシュンとした表情を浮かべた。
「フォルテちゃん、ごめんなさい」
「あ、うん。別に大丈夫だよ」
とは言ったものの、朝からこれだと先が思いやられるな……。
それから、朝食を終え、仕事へ向かうカリダスさんとエタレオさんを送り出し、リグレと二人きりになった。
「えーとね、フォルテちゃん! お昼ご飯は、お家にあるパンを食べてだって」
「そう」
「それかね、もしもフォルテちゃんがもっといいもの食べたいって言ったら、へそくりを使っていいからカフェに連れて行ってって」
「カフェ……」
「うん! なんかね、『いけめんが二人も入ったから、いい目のほようになる』ってお母ちゃんが言ってたよ!」
「そう……、でも気を遣わせちゃ悪いから、お昼はパンでもいいかな?」
「うん! 分かった!」
……よかった。納得してくれた。
もう、あのカフェになんて、いけるはずがないんだから。
「ねーねー、フォルテちゃん、もう魔法のお勉強はじめるの?」
「あ、うん、そうだね。リグレは少し魔術を使えるんだっけ?」
「うん! ちょっとだけど、使えるよ!」
「じゃあ、見せてもらってもいいかな?」
「いいよー! えーいっ!」
気の抜けるかけ声とともに、リグレの指先にオレンジ色の火花が散った。
たしかに、魔術の素質はあるみたいだ。
「みてみて! ちょっとだけ火が出るんだよ! だから、お母ちゃんがかまどに火を点けるとき、お手伝いしてるんだ!」
「へー、そうなんだ。じゃあ、もっと強い火を出したりできる?」
「ううん! 今できるのはこれだけだよ」
リグレは勢いよく首を横に振って答えた。
さっきの火花が限界か。でも、エタレオさんの話だと、積み木を宙に浮かせてたってことだったから、持ってい魔力が少なすぎるってわけじゃなさそうだな。それだと、魔力の扱い方が分かっていないだけか……。
「じゃあ、もっと強い火の出し方を教えるから……、いや、でも、家の中だと危ないか……」
「それじゃあ、裏庭にある井戸の近くなら、大丈夫!?」
「あ、うん。この季節なら、枯れ葉とか枯れ草もないし、水辺の近くだしでちょうどいいかな……」
「わかった! じゃあ、いこう!」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
リグレは僕の誓詞も聞かず、扉を勢いよく開けて外に飛び出していった。
子供のスピードは、すさまじいな……。いや、感心してないで、早くあとを追いかけなちゃだめか。
なんだか、家庭教師初日が始まって間もないのに、早くも疲れ果てる予感しかしないな……。
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