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第二章

意地を張ってる場合じゃない

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 降り注ぐ朝の陽射し。
 
 どこまでも続く青い海。

 キラキラとひかる白い砂浜。

 そして――

「あ、えーと、どうも、おはようございます……」

「うん……、おはよう……」

 ――気まずい表情で挨拶を交わす、僕とルクスさん。

 うん!
 誰がどう見たって、さわやかな朝の光景だね!
 やったぜ!

 ……なんて、現実逃避してる場合じゃない。

「あれ? フォルテちゃん、このお兄ちゃんとお友だちなの?」

「ああ、えーと……、友だちじゃなくて、前にいたパーティーのサブリーダー。ルクスさんっていうんだ」

「ふーん、そうなんだね!」

 リグレはそう言うと、ルクスさんに向かって、深々と頭を下げた。

「ルクスちゃん、うちのフォルテちゃんが、大変お世話になりました」

「ああ……、ご丁寧にどうも……」

 ルクスさんも困惑した表情をしながら、頭を深々と下げる。
 本当に、なんなんだろう、この状況……。

「えーと……、それで……」

 頭を上げたルクスさんは、困惑した表情のままだった。うん、僕と同じくらい、状況が飲み込めていないみたいだ。

「フォルテはこんな所で……、一体、何してるの?」

「あ、えーと……、ちょっと色々あって……」

「うん、まあ、たしかに色々とあったね……、それ、で?」

「あ、はい。それで、リグレ……、この子の家庭教師、みたいなことをしてるんです」

「家庭教師……」

 ルクスさんはそう呟いて、僕とリグレの顔を交互に見た。

「うん! フォルテちゃんは、私の魔法の先生なんだよ!」

「そう、なんだ」

 リグレがなぜか得意げに答えると、ルクスさんは困惑した表情でうなずいた。

「……うん、たしかに、魔術は師匠的な人がいる方が、上達しやすいって聞いたことがあるな」
 
 ルクスさんは、そう呟きながら、コクコクとうなずく。
 今とのころ、殺気は放ってないし……、ベルムさんを連れ戻しに着たわけじゃないことは伝えよう。下手をしたら、今度こそ命がないだろうし。

「えーと、そういうわけで、僕たちは魔術の基礎トレーニングとして、このあたりでランニングしてたんです」

「ああ、そうだったのか」

 ルクスさんは再びコクコクと頷く。
 この様子なら、変に疑ってるってこともないだろう。

「この辺、トレーニングにはちょうど良いからね」

「あ、はい、そうですね。道もキレイですし、この時間帯だと人も少ないみたいですし」

「うん。あと、景色もキレイだしね。だから、俺も毎日この辺りでトレーニングしてるんだ」

「そうなんですね……」

 ということは、このあたりでトレーニングをしたら、毎朝ルクスさんと顔を合わせることになるわけか……。

「あの、すみません。明日から、ランニングのコースを変えますんで」

「え? なんで?」

「あ、えーと、トレーニング中に僕の姿が目に入ったら、目障りかなと……」

「別に、そんなことないけど……」

 いや、ルクスさんが気にしなくても僕の方が気まずいんです。なんて言葉は、今はこらえておこう。

「それはどうも……。でも、これ以上邪魔しちゃいけないんで、今日はこれで失礼します」

「あ、いや、別にそんなに急がなくていいよ。むしろ、ちょうど、もう一回会いたいって思ってたし……」

「……もう一度、会いたい?」

 ルクスさんが、僕に?

「うん、そう」

 ルクスさんは、無表情にうなずいた。

 
 もう一度会いたいって、なんで――

  これからは、
  ベルムに迷惑をかける奴は
  全員始末することにしたんだ

 ――うん、理由なんて、一つしかないか。

 
 あのとき始末しそこねたから今度こそ、ってことなんだろう。やっぱり、諦めてはくれたなかったんだ。
 たしかに、ベルムさんを追い詰めることをしてしまったのは事実だけど……、そうやすやすと命は投げ出せない。なら、意地を張ってる場合じゃなくて……。

「この間は、本当にもうしわけ――」
「この間は、ごめん」

 ……え?
 ルクスさんが、僕に頭を下げてる?
 まさか、もう一度会いたいって言うのは、謝りたかったからなのか?

 でも、そんなわけは――

「直接会って、ちゃんと謝っておきたかったんだ」

 ――あったみたいだ。

「本当に悪かった。フォルテだって、色々大変だったみたいなのに、ボウガンを突きつけたりして……」

 再び、ルクスさんは深々と頭を下げた。
 ……マリアンさんから事情を聞かなければ、まったくです、なんて言葉を返したのかもしれない。
 でも……。

「でも、あれは僕の配慮がたりなかったからで……」

「そうだとしても、ベルムが大変な目にあったのは、全部俺のせいなのに……」

「い、いえ。その件については、色々と事情があったみたいで……」

「だからって、俺がもっと早く辞めればよかったのに……」

「えーと、だから、それでどうにかなる問題じゃなかったらしく……」

「そもそも、毎回『絶対説得』使われて引きとめられるんだから、黙って出ていけばよかったんだ……」

「ああ、ベルムさんの固有スキルって、そんなところで活躍してたんですね……」

「今思えば、養成学校時代からコケに足を取られて転ぶし、目を離した隙にヒューゴがオオマダラヤドクガエルに噛みついて卒倒したりするし……」

「あ、あの、ルクスさん?」

「焦って手元が狂ってマリアンのスカート破いたし、ベルムにもお前まで焦ってどうするって叱られたし……」

「ルクスさん! 何の話をしてるんですか!?」

「パーティーを正式結成してからだって……」

 ルクスさんは、膝を抱えてしゃがみ込んだ。
 
「全部、全部、全部、俺のせいだ……」

 そして、膝に顔をうずめて、ものすごく気落ちした声で自分を責める言葉を繰り返した。
 ……うん。とりあえず、このまま放っておいて逃げるわけにはいかなそうだ。

「えーと、多分、というか、絶対にルクスさんのせいじゃないですよ! ね、リグレ!」

「うん! よく分かんないけど、多分そうだよ! だから、落ち込まないでー」

「うん……」

 リグレと一緒に適当にフォローすると、ルクスさんは膝に顔をうずめたまま、返事なのかうめき声なのか分からない声を出した。
 
 命を取る取らないの話にならなかったのはよかったけど……、これはこれで、ものすごく面倒な事態になったんじゃないだろうか……?
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