39 / 45
第二章
一刻も早く
しおりを挟む
ヒューゴさんの店を出てから走り続けてるけど、まだダンジョンの入り口は見えない。
早く、見つけないといけないのに。
「そうすれば、フォルテちゃんひとりぼっちで泣かなくてよくなるでしょ!?」
……なんで、リグレの言葉を思い出すかな。
別に、一人だからって、泣いたりなんてしないのに。
今までだって、一人でいることが普通だったんだから。
でも――
「それじゃあ、ちゃんと『ごめんなさい』して、仲直りしなきゃ」
「よかったね! フォルテちゃん!」
――リグレのおかげで、諦めていた人間関係を改善できた。
それに、僕のことを温かく迎えてくれる場所もできた。
……ああ、もう。
今は、感傷的になってる場合じゃないのに。
早く、リグレのところに……、ん? 道の脇に見えるあの看板は……。
えーと、「この先ダンジョン。許可のない方の立ち入りは禁止します」、か。よし、あと少しだ。
有刺鉄線でできた簡易的な柵を跳び越えて、看板の側の林道に入り、ダンジョンの入り口までたどり着いた。
巨大な大理石をくりぬいて作ったアーチ状の入り口から、地下に続く階段が見える。
リグレの姿はないけど、林道に子供の足跡があった。
それに、ダンジョンの内部の灯りもついてるから、中にいることは間違いないだろう
まったく、攻略後とはいえ、もっと厳重に管理してくれればいいのに……。
いや、今は文句を言ってないで、早く中に入ろう。
階段を下り、開けた場所に出て、また階段を下り、再び開けた場所に出て、さらに階段を下る。
同じような景色の繰り返しで、どこまで下ったのか分からなくなって――
カラン
「うわっ!?」
――不意に、何かに足を取られた。
急いでるっていうのに、一体なんなんだ……、うわっ!?
これ……、小型モンスターの骨だ……。
マルスたちが退治して、放置したものが白骨化したのか?
まさか、攻略が不完全で生き残ってたモンスターが、餓死なり、病死なりしたあとなんじゃ……。
いや、そんなこと気にしてないで、先に進もう。
早く、リグレを見つけなきゃ。
「私もね! たくさん練習して、たくさん強くなって」
そうだ。
覚えてもらいたいことは、まだまだあるんだ。
「それで、フォルテちゃんと一緒にダンジョン探索にいくの!」
……そのためには、しっかりダンジョン探索者の免許を取ってもらわないとな。
「フォルテちゃんを守るの!」
……ははは。
なら、そんなことができるくらい、強くなってもらおうじゃないか。
だから、こんなところからさっさと帰って、今日の授業をしないと。
「フォルテちゃんがいなくなったら、私いやだもん!」
僕だって、弟子にいなくなられるなんて、ごめんなんだから。
何度目かの階段を下りて、何度目かの広間に出た。
その奥には、ヤギの頭をした巨人の石像と――
「よーし……、今日こそキラキラのところまで登るぞー……」
――それによじ登ろうとするリグレの姿だった。
よかった……。特になにごともなかったみたいだ。でも……。
「リグレ!!」
「わっ!?」
リグレはよじ登ろうとするのをやめて、小さく跳びはねた。それから、こっちに振り返って、目を見開いた。
「フォルテちゃん! こんなところで、何してるの!?」
「それは、こっちのセリフだ! 一人で、こんなところに来たら危ないだろ!」
「ふぇっ……」
リグレは短く声を上げると、キョロキョロと目を動かした。
「だって……、フォルテちゃんに、プレゼントあげたかったから……」
「だってじゃない! ダンジョン跡地に入ったりしたら……、下手したら怪我どころじゃ済まないんだぞ!」
「うー……」
リグレは目に涙をためてうつむいた。
ちょっと、キツく叱りすぎたかな……。
「……怒鳴って悪かった。でも、ダンジョン跡地は本当に危ないから、一人で来たりしたらだめだよ」
「うん、分かった……」
「分かってくれたんなら、それでいいよ。ほら、もう帰ろう」
「でも……、まだ、フォルテちゃんにあげるキラキラ、取ってないから……」
「キラキラ?」
「うん。ほら、あれ……」
リグレの指さした先には、石像の目にはめられた、赤銅色の宝石があった。
え……?
あれって、もしかして……。
間違いない。
このダンジョンの核だ。
ということは、今は動かないみたいだけど、あの石像がここの主か。
あいつら……、本当に適当に処理してくれて……。
「フォルテちゃん、どうしたの?」
「……リグレ、あの宝石はすごく危ないものだから、下手に刺激しちゃだめだ」
「えっ!? そうなの!?」
「ああ。ひとまず、ここから出て、役所とかに報告を……」
「グォォォォォオォォォォォ!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
突然、石像が雄叫びを上げた。
ミシッ、ミシッ
しかも、動き出そうとしてる。
これは、本当にまずい……。
「リグレ、今すぐここから出て、誰か街の人にこのことを報告してくれ」
「わ、分かった! フォルテちゃんも、一緒に……」
「僕はここに残る。あいつを足止めしないといけないから」
「え!? で、でも……」
「いいから、早く行け!」
「ふぇっ……」
またしても、リグレが目に涙を浮かべる。
「……僕なら、大丈夫。リグレが強くなって一緒にダンジョン探索にいけるようになるまで、絶対に死なないから」
「……! 本当に?」
「ああ、約束する。だから、早く逃げてくれ」
「……分かった。約束、絶対に守ってね!」
「分かった」
リグレは目をぬぐって、階段を駆け上っていった。
「グルルルルルルルル……」
石像は広間の中央まで移動して、うなり声を上げた。赤銅色の目が、階段の方に向けられる。
……狙いはリグレか。
「東をつかさどるものよ……」
「グォ……」
詠唱を始めると、石像が小さく声を漏らした。
「……お前の相手は、この僕だ。バケモノ」
「グルルルルルルルルル……」
石像がうなり声とともに、殺気のこもった目をこっちに向ける。
せめて、リグレがここを出るくらいの時間は、稼ごう。
絶対に。
早く、見つけないといけないのに。
「そうすれば、フォルテちゃんひとりぼっちで泣かなくてよくなるでしょ!?」
……なんで、リグレの言葉を思い出すかな。
別に、一人だからって、泣いたりなんてしないのに。
今までだって、一人でいることが普通だったんだから。
でも――
「それじゃあ、ちゃんと『ごめんなさい』して、仲直りしなきゃ」
「よかったね! フォルテちゃん!」
――リグレのおかげで、諦めていた人間関係を改善できた。
それに、僕のことを温かく迎えてくれる場所もできた。
……ああ、もう。
今は、感傷的になってる場合じゃないのに。
早く、リグレのところに……、ん? 道の脇に見えるあの看板は……。
えーと、「この先ダンジョン。許可のない方の立ち入りは禁止します」、か。よし、あと少しだ。
有刺鉄線でできた簡易的な柵を跳び越えて、看板の側の林道に入り、ダンジョンの入り口までたどり着いた。
巨大な大理石をくりぬいて作ったアーチ状の入り口から、地下に続く階段が見える。
リグレの姿はないけど、林道に子供の足跡があった。
それに、ダンジョンの内部の灯りもついてるから、中にいることは間違いないだろう
まったく、攻略後とはいえ、もっと厳重に管理してくれればいいのに……。
いや、今は文句を言ってないで、早く中に入ろう。
階段を下り、開けた場所に出て、また階段を下り、再び開けた場所に出て、さらに階段を下る。
同じような景色の繰り返しで、どこまで下ったのか分からなくなって――
カラン
「うわっ!?」
――不意に、何かに足を取られた。
急いでるっていうのに、一体なんなんだ……、うわっ!?
これ……、小型モンスターの骨だ……。
マルスたちが退治して、放置したものが白骨化したのか?
まさか、攻略が不完全で生き残ってたモンスターが、餓死なり、病死なりしたあとなんじゃ……。
いや、そんなこと気にしてないで、先に進もう。
早く、リグレを見つけなきゃ。
「私もね! たくさん練習して、たくさん強くなって」
そうだ。
覚えてもらいたいことは、まだまだあるんだ。
「それで、フォルテちゃんと一緒にダンジョン探索にいくの!」
……そのためには、しっかりダンジョン探索者の免許を取ってもらわないとな。
「フォルテちゃんを守るの!」
……ははは。
なら、そんなことができるくらい、強くなってもらおうじゃないか。
だから、こんなところからさっさと帰って、今日の授業をしないと。
「フォルテちゃんがいなくなったら、私いやだもん!」
僕だって、弟子にいなくなられるなんて、ごめんなんだから。
何度目かの階段を下りて、何度目かの広間に出た。
その奥には、ヤギの頭をした巨人の石像と――
「よーし……、今日こそキラキラのところまで登るぞー……」
――それによじ登ろうとするリグレの姿だった。
よかった……。特になにごともなかったみたいだ。でも……。
「リグレ!!」
「わっ!?」
リグレはよじ登ろうとするのをやめて、小さく跳びはねた。それから、こっちに振り返って、目を見開いた。
「フォルテちゃん! こんなところで、何してるの!?」
「それは、こっちのセリフだ! 一人で、こんなところに来たら危ないだろ!」
「ふぇっ……」
リグレは短く声を上げると、キョロキョロと目を動かした。
「だって……、フォルテちゃんに、プレゼントあげたかったから……」
「だってじゃない! ダンジョン跡地に入ったりしたら……、下手したら怪我どころじゃ済まないんだぞ!」
「うー……」
リグレは目に涙をためてうつむいた。
ちょっと、キツく叱りすぎたかな……。
「……怒鳴って悪かった。でも、ダンジョン跡地は本当に危ないから、一人で来たりしたらだめだよ」
「うん、分かった……」
「分かってくれたんなら、それでいいよ。ほら、もう帰ろう」
「でも……、まだ、フォルテちゃんにあげるキラキラ、取ってないから……」
「キラキラ?」
「うん。ほら、あれ……」
リグレの指さした先には、石像の目にはめられた、赤銅色の宝石があった。
え……?
あれって、もしかして……。
間違いない。
このダンジョンの核だ。
ということは、今は動かないみたいだけど、あの石像がここの主か。
あいつら……、本当に適当に処理してくれて……。
「フォルテちゃん、どうしたの?」
「……リグレ、あの宝石はすごく危ないものだから、下手に刺激しちゃだめだ」
「えっ!? そうなの!?」
「ああ。ひとまず、ここから出て、役所とかに報告を……」
「グォォォォォオォォォォォ!」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
突然、石像が雄叫びを上げた。
ミシッ、ミシッ
しかも、動き出そうとしてる。
これは、本当にまずい……。
「リグレ、今すぐここから出て、誰か街の人にこのことを報告してくれ」
「わ、分かった! フォルテちゃんも、一緒に……」
「僕はここに残る。あいつを足止めしないといけないから」
「え!? で、でも……」
「いいから、早く行け!」
「ふぇっ……」
またしても、リグレが目に涙を浮かべる。
「……僕なら、大丈夫。リグレが強くなって一緒にダンジョン探索にいけるようになるまで、絶対に死なないから」
「……! 本当に?」
「ああ、約束する。だから、早く逃げてくれ」
「……分かった。約束、絶対に守ってね!」
「分かった」
リグレは目をぬぐって、階段を駆け上っていった。
「グルルルルルルルル……」
石像は広間の中央まで移動して、うなり声を上げた。赤銅色の目が、階段の方に向けられる。
……狙いはリグレか。
「東をつかさどるものよ……」
「グォ……」
詠唱を始めると、石像が小さく声を漏らした。
「……お前の相手は、この僕だ。バケモノ」
「グルルルルルルルルル……」
石像がうなり声とともに、殺気のこもった目をこっちに向ける。
せめて、リグレがここを出るくらいの時間は、稼ごう。
絶対に。
0
あなたにおすすめの小説
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
聖女じゃない私の奇跡
あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。
だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。
「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる