勇敢へいたるキッカケ~この僕がクビ?スキル「怯み無効」のありがたさが分からない奴らなんて、こっちから願い下げです!……って思ってました。

鯨井イルカ

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第二章

苦闘

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「グォォォォ!」

 石像が雄叫びを上げて、巨大な腕を振り下ろす。

「あらゆるものを引き寄せ、また引き離すものよ……」

 それを避けながら、詠唱を続ける。

「ガァッ!」

 腕が再び振り上げられると同時に、砕けた床の破片が僕を狙って飛んでくる。

「っ、散漫と不安定をもたらすものよ、英知と倫理を授けるものよ……」

 それもかわして、詠唱を続ける。

「グルルルルル……」

 うなり声とともに、石像の角が赤い光を帯びる。
 ……火性の攻撃が来るな。

「グルァッ!」

 角から、大量の火球が放たれる。

「今ここにきたりて、我が望みを叶えたまえ……」

 走って避けながら、詠唱を続ける。

「我が前にそびえるものを切り裂き、粉砕し、かの者の一切をなぎ払いたまえ……」

「グルル……」

 呟くようなうなり声とともに、火球が止まった。
 よし、今だ。

「……破壊の風!」

 高威力の魔術を、石像の顔面にたたき込む。

「グァァァァァっ!」

 石像は叫び声を上げながら、後ろにふっとんだ。
 ……やった、か?

「グルルルルルルルル……」

 うなり声とともに、石像がゆっくりと起き上がる。
 ……さすがに、一撃じゃ無理か。


 走り回って攻撃を避けながら、高威力の魔術を撃ち続ける。

「……かの者の一切を灰燼に帰せ、劫火の重砲!」

「ガッ!」

「……かの者の一切を押し流したまえ、清めの海嘯かいしょう

「グァッ!」

「……かの者の一切を砕きたまえ、磐石の大槌」

「グァァァァッ!」

 こっちの魔術が当たるたび、石像は叫び声を上げて、後ろにふっとぶ。

 でも――

「グルルルルルル……」

「ちっ……、しぶとすぎるだろ、バケモノ……」

 ――そのたびに、うなり声を上げながら立ち上がってくる。

 なんだか、核にまで攻撃が通ってない気がするな。
 属性が、合ってないのか?
 あと試してない属性は、雷と重力と……。

「ゴァァァァッ!」

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「うわっ!?」

 突然、石像が広間全体が震えるくらいの雄叫びを上げた。

  カタカタカタカタ

 途端に、骸骨の群れが石像を囲むように、床から這い出してくる。

  カタカタカタカタ

 骸骨の群れは僕と石像の間に立ちはだかって、いっせいに魔法陣を浮かび上がらせながら口を開いた。

「……ははっ。たった一人相手にこの人数なんて、随分と臆病だな」

  キィィィィィィィ……

 甲高い音とともに、骸骨の口に光が集まる。
 ……軽口を叩いてる場合じゃなさそうだ。

  バシュッ!

「うわっ!?」

 一体の骸骨の口から、光線が発射される。
 ギリギリで避けたけど、光線が当たった床のタイルが砂になってる……。

  ちゃんと避けなきゃ!
  死んじゃうかもしれないんだよ!?

 ……たしかに、これは痛みを感じないからって、当たるわけにはいかなそうだな。
 なら、走り回りながら、動きながら詠唱するまでだ。


「南をつかさどるものよ……」

  バシュッ!

「破壊、殺戮、不和を引き起こすものよ……」

  バシュッ!

「傷と死をもたらすものよ、勇気と名誉を授けるものよ……」

  バシュッ!


「今ここにきたりて我が望みを叶えたまえ……」

  バシュッ!

「我に仇なす者の骨を焦がし、魂を焼き払いたまえ……」

  バシュッ!


 ……さっきから動きっぱなしで詠唱してるけど、まだ息は切れない。
 リグレとのランニングの効果は、あったみたいだな。
 

「……くらえ! 劫火の渦!」

  ゴウッ

  パラパラパラパラ……

 炎に焼かれて、骸骨たちが灰になって崩れていく。
 よし、これで雑魚は一掃できた。

「グルルルル……」

 石像は相変わらず、殺気だった目でこっちをにらんでる。

「お友だちがいなくなって、残念だったな、バケモノ。でも、すぐに後を追わせてやるよ」

 ……とは言ってみたけど、まだ決定打を与える方法は思い着いてない。
 ひとまず、さっきまで使ってなかった、雷属性からためしていくか。

「西と東の狭間に生まれしものよ……」

「ゴァァァァァァァァ!」

 石像が、またしても雄叫びを上げ、角の間には魔法陣が浮かび上がった。
 また何か攻撃を仕掛けてくるのか?
 
「あらゆるものを貫き……」

「グォォォォ!」

 叫び声とともに、魔法陣が輝いた。
 落ち着け。
 アイツの攻撃なら、避けられるはずだ。
  

「命をあたえ――っ!?」

 
 ……え?

 声が、出ない?

「――!?」

 それどころか、魔力がうまく変換できない。
 
 ……まさか、魔術封じの呪い?
 今日は呪いを解除する薬や道具なんて、持ってきてない。
 
 これは、本当にまずい――


「グォォォォ!」

  ドカッ!


 ――あ。

「――っ!!」

 雄叫びともに、石像の拳を受けてふっとばされた。

  バンッ!

 衝撃を受けた腹部と、壁にたたきつけられた背中に、鈍痛が走る。

「グルルルルルルル……」
 
 痛みでぼやける視界に、目を細めた石像の顔が映った。
 この……、馬鹿にしてくれて……。

「グルァッ!」

「――っぐぇ……」

 角から繰り出された光の弾がみぞおちに食い込み、胃液がこみ上げた。

「グルルルルルルル……」

 石像は相変わらず目を細めて、こっちを見下ろしてる。
 一思いに、けりをつけてはくれないみたいだな……。

 リグレは……、無事に外に出られたかな……。
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