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 喫茶店で軽食をとってから、再び一服して家に戻った。
 その後は、いつもとまったく同じだった。ソファーに寝そべる私の側で、椿が黙々と勉強をする。夕食の時間になれば、椿が食事の用意をしてまた二人で少し会話をしながら夕食をとる。そうしているうちに夜は更け、時刻は二十二時になっていた。
 椿がいつも眠りにつく時間だ。

「それじゃあ、私は自分部屋に戻るから、適当に寝てて」

「はい、ありがとうございます」

 椿は深々と頭を下げてからソファーに横になって、タオルケットにくるまった。
 ……寝不足になるよりはマシなのだろうけれど、高校生にしては随分と早い就寝時間だ。
 私が同じくらいの年の頃は、真由子と遅い時間までメールを交わしていたのに。

 ――ブーブー

 突然、ポケットに入れたスマートフォンが震えた。画面には、三島からのメッセージが通知されている。

「おつかれ! ところで、今日の埋め合わせは、いつしてくれるのかな?」

 ……突発的な誘いを断ることに、埋め合わせなんて必要なんだろうか?
 まあ、拗ねられても面倒くさいから、適当に返信しておこうか。

「時間ができたら、改めて連絡するわ」

 メッセージに既読マークがつき、笑顔で親指を立てる犬のイラストが返ってくる。これで、機嫌を損ねることもないだろう。

 スマートフォンから顔を上げると、棚の上においた骨壺が目に入った。
 真由子ともよくメールをしたけれど、三島みたいに押しつけがましい内容はなかったな……。マンガやテレビ番組が面白かったとか、学校や家族のちょっとした愚痴とか、そんな他愛ない話題ばかりだった。それでも楽しかったし、ずっとこんなやり取りが続いていくと思っていたのに……。

 気がつくと自然と足が動き、骨壺の目の前にいた。

 目を閉じると、真由子の笑顔が浮かぶ。
 その顔に、昼間見た椿の笑顔が重なる。
 どこか幼さの残る笑顔……。
 やっぱり、彼女によく似ている。

 真由子と別れてから、それなりの数の女性や男性と交際し、中には彼女と容姿が似た人も何人かいた。それでも、あんなに魅力的な笑顔を浮かべるのは、彼女しかいなかった。

 真由子のことを思い出しているうちに、自然と目が開いた。
 骨壺から視線を反らすと、椿は静かな寝息を立てていた。改めてよく見ると、起きているときよりも、あどけない顔をしている気がする。
 ……なんだか、胸が苦しい。
 
 ここに横たわっているのは、彼女じゃない。
 そう言い聞かせても、胸の苦しさは収まってくれなかった。
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