癒やしの巫女と業務隊長

白玉しらす

文字の大きさ
20 / 36

18.先生は女子寮で何かをやっている

しおりを挟む
 はあはあと荒い息を整え先生を見ると、くったりと俺にもたれ掛かり、まだ身体を震わせていた。
 先生の身体は汗でしっとりと濡れていて、細い背中を撫でるとビクリと反応する。
 その反応が楽しくて、ついあちこち撫で回してしまったが、そんな事をしている場合ではなかった。
「先生、なぜこの状況でリリーの名が出るのか、教えて欲しい」
「それは隊長さんが……」
 先生が俺から離れようとすると、身体にかかった白濁が、俺と先生をつなぐように糸を引いた。
「汚れちゃいましたね」
 先生が俺の身体に触れ、白濁を掬い取っていく。扇情的な光景に、もっと先生を汚したくなる。
 俺は先生に手を伸ばし……
 
 いやだから、そんな事をしている場合ではなかった。
 俺は気づかれないよう深く息を吐くと、テーブルの上に用意しておいたタオルで先生の身体を拭いた。
「あの、自分でふきます」
「お互いまずは身体をどうにかしよう」
 これ以上先生のあられも無い姿を見ていると、また始めてしまいそうだ。
 自分で拭こうとする先生を制して、急いでアチコチ拭いた。
 恥ずかしそうに身を捩る先生の、恥ずかしい所をもっと触りたかったが、必死に耐えた。
 俺が拭き終わると、先生は俺を見る事なく手早く服を着ていった。
「先生、なぜ……」
「隊長さん、よかったです」
 俺の言葉を遮るように、先生が呟いた。
 先生は俯いたままなので、どんな顔をしているのか分からない。
 それでも俺との行為の事を言っている訳では無さそうだった。
「おなかすいたので、ご飯食べてきます」
 伸ばした手を避けるように、先生は身を翻し、ドアの外へと駆け出していった。
 俺は混乱して、呆然と見送ってしまった。

 まあいい、先生が戻って来たらしっかり話し合おう。
 その前にまずはコレを何とかしないとな。
 まだ足りないと激しく存在を主張するソレを見て、俺はため息をついた。
 先生がいない間に少し鎮めておかないと、話し合うどころじゃない。
 俺は自室に戻り、先生の柔らかな身体を思い出しながら、なかなかおさまらないソレと一人格闘した。
 そして、先生が部屋に戻ってくる事はなかった。

 その日、レインと名乗る子供が持ってきた紙には、先生の字で『女子寮で子守りに専念します。治療が必要なときは女子寮に来るようにしてください。しばらくそちらには戻りません』と書かれていた。
 想いが通じ合ったはずなのに、なぜ急にこんな事になったのか、意味が分からなかった。
 気持ち良さそうにしていたと思ったが、やり方が悪かったんだろうか。
 先生が出ていった事をいい事に、一人で処理したのがばれたんだろうか。
 そもそも、本当に想いは通じ合っていたのか?
 記憶を辿れば、先生が俺を好きだと言ったのは確かだし、俺も先生に甘い囁きをしている。何がいけなかったんだ。
 先生の様子で気になる点と言えば『ロベルト、ふのう』と言う謎の言葉と、真っ最中に告げられたリリーの名前だ。
 これらを総合的に考えると……
 駄目だ、サッパリ分からない。
 俺は途方に暮れ、ただ先生が戻ってくるのを待つ事しか出来なかった。


「はい、ユイの業務日誌。ずっと女子寮に籠もりきりだけど、何かあったの?」
 途方に暮れたまま、七日経った。
 先生は女子寮から戻って来ず、業務日誌は毎日レインが運んでいるらしい。
 レインから受け取った業務日誌を、バートンが俺に手渡してきた。
「何が、あったんだろうな」
 それは俺が一番聞きたい。
「僕、聞いちゃったんだよね」
 バートンは辺りを見渡すと声を潜めた。ここには俺とお前しかいないだろうが。
「食堂で近くにいた騎士が話してたんだけどさ。ユイに頼み込めばやって貰えるって」
「何を?」
「他を勧められたけど、ユイがいいって言うと、困った顔してやってくれたって」
「だから、何を」
「それは分からないけど、女子寮でやる事なんて一つしかないよね。ちょっと僕もお願いしに行こうかな」
「やめろ」
「もう結構な人数がやって貰ってるって言ってたし、ユイが自分であそこにいるなら、セオに止める権利は無いだろ。って事でちょっと様子見てくるよ」
「待て、バートン」
「内容によっては報告出来ないかもなー。僕、その手の話を共有する趣味無いから」
 俺の制止を無視して、バートンは軽やかに隊長室を出ていった。
 結構な人数と、何をしているんだ。
 業務日誌には、治療内容しか書かれておらず、先生からの一言は無くなっていた。

 先生は結構な数の男達と、女子寮で何かをやっている。
 思わず裸でまたがって腰を揺らす先生を思い出してしまい、持っていたペンを折りそうになった。
 俺も何人かの内の一人だったんだろうか。他の男とも、あんな事をしていたんだろうか。
 俺の記憶の中の先生からは、そんな風には思えなくて……いや、酔っ払った先生なら無いとも言えないか。
『たいちょーさん』
 甘えてすり寄る先生は、俺だけが知っている先生であって欲しかった。


 悶々とした思いを抱えたまま仕事を終わらすと、俺は女子寮へと向かった。
 門の前で立ち止まる。
 もう出入り禁止は解かれているし、リリーだってたまには顔を出せと言ってくれている。
 それでも十年避けていた場所に足を踏み入れる事には勇気がいった。
 立ち止まっている俺の横を、何人かの男達が通り過ぎていく。
 先生目当てなんじゃないかと思うといても立ってもいられなくなり、俺は門をくぐった。

 裏手に回ると、レインが弓の稽古をしていた。
 俺も使っていたボロボロの的に向かって矢を放っている。
「練習中すまない。先生はいるか?」
「先生?」
「巫女の、ユイだ」
「業務隊長もユイにやって貰いにきたの……きたんですか?」
 レインは弓を仕舞うと裏口のドアを開け、中に向かって叫んだ。
「おーい、ユイ、業務隊長もお前にやって貰いたいって」
「いや、俺は先生に話があって……」
「いないって言って!」
 先生の声に少なからずショックを受けた。
「えーと、いないそうです」
 レインが困った顔をして俺を見つめている。
「入ってもいいか?」
「いいですけど……多分もう隠れてますよ」
「なんで分かるんだ?」
「ババアの癖に、子供みたいな奴なんですよ」
 なる程、これは頭突きしたくなる。
 子供はお前だろうと言いたかったが、大人げないので飲み込んだ。
「女性に向かってババアと言うのは良くないな」
「……すみません」
 子供を諭すように言うと、レインは大人しく謝った。案外素直な所もあるんだな。大人振りたいだけなんだろう。
 俺がこれぐらいの時はこんなに子供っぽく無かったと思ったが、リリーから見たら同じぐらい子供だったのかもしれない。

 裏口から中に入ると、子供達が思い思いに遊んでいた。俺がいた時と変わらない光景に、懐かしく思う。
「おじちゃんも、お姉ちゃんのが欲しくて来たの?」
「いや、お姉ちゃんに会いに来ただけだよ。お姉ちゃんはどこかな?」
 なぜ先生はお姉ちゃんで俺はおじちゃんなのかとか、先生の何を求めて男共がやってきているのかとか、聞きたい事は色々あったが、小さな子供に聞くより、先生に会う方が先だ。
「お姉ちゃんを叱りに来たの?お姉ちゃん、悪い事した?」
「大丈夫、違うよ」
 俺はその子の頭を撫でると、真っ直ぐ部屋の奥へと向かった。
 部屋の奥には収納があり、子供達は叱られそうになるとそこに逃げ込む。
 直ぐに見つかるような場所に隠れても仕方ないのに、子供はバカだな。
 
 収納の扉を開けると、雑多な収納物の隙間に隠れて、先生がうずくまっていた。
「先生」
 俺が声を掛けると、先生は顔を上げて俺を見つめた。
「会いたかった」
 先生の顔を見たらそれしか言えなかった。
「私は会いたくなかったです」
 先生はそれだけ言うと、すぐに顔を伏せてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。

処理中です...