癒やしの巫女と業務隊長

白玉しらす

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21.隊長は真面目で優しい人

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 ついに私にもイケメン騎士様とキャッキャウフフする時が来た。
 実際はもっと湿っぽい感じの擬態語が相応しい気もするけど、お互いいい大人なので仕方ない。
 隊長と二人で会えるのは夜部屋に戻ってからで、私も治療でムラムラしてたりしてなかったりなので、まあ自然とそう言う事になってしまっている。
 会うたびにするのもなと思い我慢すれば隊長の手が伸び、隊長が大人しくしていると私が手を出しと、毎日のように湿っぽい擬態語が必要な行為を繰り返していた。


「王都からの書簡に、巫女宛の私信が混じっていた」
 団長に呼び出されて団長室に向かうと、一通の手紙を手渡された。
「この為にわざわざ呼び出したんですか?」
 私を呼びに来た人に手紙を渡しておけば、団長の時間を取る事は無かったのに、そんなに重要な手紙なんだろうか。
 送り主は巫女の館一同となっていて、嬉しいけどわざわざ団長が手渡す必要は感じられなかった。
「まあ、口実だな。聞きたい事があって来て貰った」
「何でしょうか」
「セオに手を出したと言う噂は本当か?」
「え、いや、どう、なんでしょうか」
「どっちなんだ」
「すみません。私がやりました」
 鬼刑事の様な団長の詰問に、私は罪を認めてしまった。
「そうか、セオが言っていた、女に誘われてるってのは巫女の事だったんだな」
「隊長がそんな事を?」
 私は誘っていたつもりはないんだけど、隊長からしてみたらそう思っても仕方ない、のかな?
「相談されて、とにかくやって来いと言ったんだが、人前でやるのはどうかと思うぞ」
「してないです!」
「巫女が裸で馬乗りになって腰を振っていたと聞いたが」
「する訳ないです!」
 人前では、と心の中で付け加える。それにしても完全に噂が悪化している
「なんだ、じゃあまだやって無いのか?」
「な、内緒です」
 最後まではしてないけど、何もしていない訳ではない。
 現代日本なら完全にセクハラでアウトな質問をされて、私は泣きそうだった。
「ならいい」
 私の返事に鬼刑事団長はニヤリと笑うと、真面目な顔に戻った。

「あいつは何年も色々拗らせてたからな。巫女を呼ぶ前にもセオを呼び出したんだが、ぶん殴りたくなるぐらいニヤけた顔をしていた」
 隊長から話を聞いていたなら、私にセクハラ発言する必要は無かったんじゃないだろうか。
「ちなみに、巫女はセオのどこがいいんだ?」
 思いの外優しそうな笑顔を浮かべて団長が聞いてきた。
「最初から私の事を気に掛けて、心配してくれていたので。真面目で、優しい人ですよね」
 団長は私の返事に満足そうに頷いた。
「そうか、セオの事、頼む」
 団長は隊長の事を心配して、私を呼び出したんだろう。
「巫女も幸せにな」
「ありがとうございます」
 セクハラはどうかと思うけど、団長は案外部下思いのいい人なのかもしれない。
「仕事中にやるのは程々にするんだぞ」
「やらないです!」 
 前言撤回。ただのセクハラオヤジだった。


「ニヤニヤ笑って気持ち悪いな。色ボケババア」
 レインが冷ややかな目で私を見ている。
「色ボケでもババアでもないし。前も言ったように、この間のアレはシャツに字を書いていただけだからね」
「ガッツリキスしてただろうが」
「その節は、大変申し訳ありませんでした」
 隊長はあれぐらいのキスは普通ですと言っていたけど、本当だろうか。
「今もやらしい事思い出してたんだろ。ババアの癖に」
「だから違うって言ってるでしょ。手紙が来たの、手紙」
 私は持っていた手紙をレインの顔に近づけた。
「近過ぎて見えねえ」
「読めないところがあったら教えてね」
 私はウキウキと手紙を開封した。


 ユイ元気でやっているかい?
 ユイの一人で何とかしようと、泣き言も言わず頑張るところは長所でもあり短所だ。
 一人で思いつめて身動き取れなくなっていないか心配だよ。
 相談できる相手が見つかるといいが、そちらはガサツな男ばかりだろう。
 また変な男に捕まらないように、気をつけるんだよ……

 最年長のベラファームさんから始まり、一人ずつ私に手紙を書いてくれていた。
 皆私の事を心配してくれていて、特に最年少のシャノンは『私にとって館の人は家族です。だからユイお姉ちゃんも、本当のお姉ちゃんだと思っています。会えなくて寂しいけど、お仕事がんばってください』なんて書いてくれていて、私の目からは勝手に涙がこぼれてしまった。
 逃げるようにここに来てしまったけど、私がもっとちゃんと考えて色々な事を選択していたら、今でもあそこで暮らしていたんだろうか。

「んっ」
 ゆっくりと大事に読んでいると、雨の中傘を貸してくれる少年のような声が聞こえた。
 見るとレインがハンカチを差し出してくれていた。
「レイン……ここは鼻でもかんでおくべきかな?」
「好きに使え」
 レインは私の軽口にも乗ってこないで、ハンカチを渡すとどこかに行ってしまった。
 泣いた所を見ないように、気を遣ってくれたんだろう。普段は頭突きしたくなるような事ばかり言ってくるのに、カッコいい事をしてくれる。
 私があと十歳若かったら惚れてるよと思い、十歳若くてもまだ年上と言う事実にちょっとへこんだ。
 でもいいんです。私には隊長がいるから。
 皆にも砦で幸せに暮らしている事を伝えないとなと考えていると、手紙の最後にベラファームさんからの追伸があった。

 ラドフォードがそちらに視察に行く事になった。ユイを連れ戻すつもりなのかもしれない。
 さすがに無理矢理連れ戻す事はできないだろうが、気をつけるんだよ。
 ああでも、もし砦の暮らしが辛ければ、こちらに戻ってきてもいいんだからね。

 ラドがここに来る?
 私を連れ戻しに?

『あはは、知ってるか?ユイ。ユイは、傷を治してる時が、一番締まる』
『いやっ、だめっ……あっ、ああっ……や、めてっ……ああっ、あっ、あああっ!』

 血で赤く染まるラドの姿が、フラッシュバックのように蘇る。
 段々暗くなる視界の中で、手紙を持つ私の手が震えているのが見えた。
 どうしよう、どうしたら。
 頭は全く働かず、そんな単語だけがぐるぐると回り続ける。
「おい、大丈夫か?顔が真っ青だぞ」
 レインの言葉を最後に、私は意識を失った。


 目を開けると、そこは医務室のベッドの上だった。
「大丈夫か?」
 隣に座っていたレインが心配そうに聞いてきた。
「レインが運んでくれたの?」
「まあな」
「そっか、ありがとう。重かったでしょ、ごめんね」
「訓練だと思ってやり遂げた」
「そこは羽のように軽かったと言う所だよ」
「ババアの癖に図々しい」
 今はレインの憎まれ口に救われる。
 でも後で頭突きしてやろう。
「おい、起きて大丈夫なのか?」
 立ち上がった私をレインが心配そうに見ている。口は悪いけど相変わらず面倒見はいい。
「ただの貧血だから、もう大丈夫」
「なら業務隊長にもちゃんと言っておけよ。心配してた」
「なんで隊長が私が倒れた事、もう知ってるの?」
「俺が報告したんだよ。ユイを医務室に連れ込んだとか変な噂になってから耳に入ったら殺されるだろ?」
「子供は変な気の回し方をしなくてもいいのに」
「だから俺は子供じゃねえ」
「はいはい、とにかくありがとう」
 私はレインにお礼を言うと、隊長の所に行った。
 ただの貧血だと伝えても心配し続けて、今日はもう部屋で休むことになった。
 相変わらず過保護だけど、心配されるのは嬉しかった。


 部屋に戻りベッドに倒れ込むと、どうしてもラドの事を考えてしまう。
 二人でビラシュッドに行こうと言ってくれた隊長は、王都から視察がくるからしばらく砦から離れられないと言っていた。
 この世界には電話もないから、視察者がいつ来るか分からず、来るまで待ち続けるしかない。
 まさかそれがラドだとは思わなかった。


 ラドは近衛騎士団の騎士だった。
 初めて本格的に怪我の治療をする事になった私は、ラドの怪我の酷さを見て慌ててしまった。
 腕がザックリと切れていて、早く治そうと両手をしっかりと繋いだ瞬間、完全にイッてしまった。
「あらあら、だから最初はちょんと触れるだけにしておきなさいよと言ったのに」
 私に巫女の力について教えてくれていたマルヴィナさんは呆れていた。
 マルヴィナさんには何度も恥ずかしい姿を晒してしまったけど『主人とする時の演技の参考になるわ』と、本気なんだか慰めてくれているんだか、あまり気にしないでくれていたのが救いだった。

「大丈夫?」
 マルヴィナさんの声なんて耳に入らず、ラドの手を握ったまま、物欲しそうに見つめ続けてしまう私に、ラドは優しかった。
「僕に手伝える事があれば、言って」
 私を抱き寄せると耳元でそっと囁いた。
「抱い、て……」
「……喜んで」
 密やかな囁き合いの後、ラドは私を抱き上げた。
「少し、彼女をお借りします」
 そして、私とラドは短く無い時間、空き部屋に籠もることになった。

 私は最初、浮かれていたと思う。
 特別な力、年下過ぎるとは言え格好いい騎士。
 言葉が通じない内は大変だったけど、いよいよ何かが始まるような、そんな期待に胸を膨らませていた。
 でも、現実はそんないい物ではなかった。
 王都では癒やしの巫女は、近衛騎士団の怪我だけを治していた。
 王族や貴族の怪我も治す事があるみたいだけど、そう言う人達はそうそう怪我をしない。
 ほぼ近衛騎士団の専属だった。
 近衛騎士団は王族を守護するのが役目で、いざとなれば身代わりになる事も恐れないよう、通常の訓練から防具も付けずに本気で切り合っていた。
 血まみれのラドを治療しては、空き部屋に籠もる日々。
 意味が見出だせない毎日を送る内、ラドの様子がおかしくなっていった。
 私が力の加減が分かるようになり、ラドを求める事が少なくなると、ラドの怪我はどんどん増えていった。

「これだけの傷なら、ユイも楽しめるだろ?」
「何を言って……あっ、ああっ、やっ……ラド、んんっ、ああっ!」
「ユイが悪いんだよ。断らなければ、僕だってこんなに痛い思い、しなくて済んだんだ」
「やめっ、てっ……触ら、あうっ……ないでっ……ああっ……」
「こんなに欲しがってるのに、そんな事言うんだ」
「やっ、ああっ!入れちゃ、だ、めっ……んんっ……あっ、ああっ……」
「痛かった分、気持ちよく、させてよっ」
「はっ、うっ……やっ、あっ……ああっ……」

 そしてラドは、行為の最中に自身を傷つけるようになった。
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